「…へいちょ、……っへいちょう、」
「……ん、なんだ…。」


深夜に目が覚めて、すぐ横で寝ている兵長を起こした。声をかけるとすぐに反応してくれた兵長にホッとする。


「……っ」
「どうした…傷でも痛むのか?」
「いえっ、あの、……」
「…何だ?」
「……怖い夢、みました…」
「………。」
「めっちゃ怖かったです…オバケが…めっちゃ、追いかけてきて……」
「……アホか。寝ろ。」
「なっ、ひどいっ。すごい追いかけられたのにっ」
「……ただの夢だろ?気にするな。寝ろ。」
「うええ……お、落ち着きません…。灯りつけませんか…?」
「いや寝かせろよ…何時だ今」
「だ、だって。怖いです」
「怖くねーよ…ガキでもねぇのにそんなこと言ってるお前の方が俺は怖い」
「オバケはいくつになっても怖いですよっ関係ありませんっ、」
「だから夢だろうが。現実には居ねぇよそんなもん」
「何でそんなの分かるんですかっ」
「居たとしても俺がぶん殴ってやる。だから安心して寝ろ」
「ほ、ほんとですか…」
「ああ。いいから寝ろ…命令だ…」
「……ううぅ…。」


眠そうにそう言われたので仕方なく口を閉じ兵長にすり寄った。抱きついてぎゅっと目をつぶると腕が回ってきて、ポンポンと頭を撫でられそのまま包まれるように兵長の体温を感じるとだんだんと落ち着いてくる。なんだかんだですぐにまた眠ってしまった。





「……オイ、ナマエ」
「………ふぁ……?」
「いい加減そろそろ離してほしいんだが。」
「……ん…?」


兵長の声が耳元で聞こえ、目が覚める。寝惚け眼でそのまま顔を上げると目の前に兵長の顔があり目が合う。


「…おはよう、ございます…。」
「ああ。」


そこで自分が兵長の体にまだ腕を絡めていることに気がついた。挨拶をして目をこすりながらゆっくりと離れて体を起こす。兵長も一緒に起き上がった。


「お前のせいで服がしわくちゃだ。」
「あ…すみません……ふぁ、」
「伸びちまったじゃねぇか…どんだけ握り締めてたんだよ」
「っえ、ほんとですか…すみません」
「まぁいいが……ちゃんと眠れたのか」
「…はいっ、おかげで熟睡できました!」
「そうか。」


そこでなんだかんだ言いながらも無理やり引き剥がさないで起こしてくれる兵長の優しさが嬉しくなり、お礼を言いながら両手を広げ抱き着こうとするとひょいと避けられた。行き場をなくした私はそのままベッドに倒れる。それを横目で見て兵長は立ち上がった。


「…あれっ?なぜ?」
「これ以上べたべたすんな。暑苦しい」
「えぇ〜?ひどいです」
「…ひどいのはお前の寝癖だ。」
「えっほんとですか」
「後ろがハネてる。」
「…わ、ほんとだ。兵長が変なふうに押さえつけてたからじゃないですか?」
「俺のせいかよ。」
「だって私は動いてないはずです!兵長に抱きついてたから!だからそんなにぐしゃぐしゃにはならないはず!」
「お前がビビッてたから仕方なく腕を回してやったんだろうが。」
「はい!そうですよね!ありがとうございます!」
「……チビられても困るからな。」
「なっ、チビりませんよー!」
「とりあえずその頭をなんとかしろ。」
「あ、は〜い………では兵長、直してください!」
「自分でやれ。」
「後ろだから見えませんー!櫛で梳かしてくださいー!」
「…櫛で梳いてどうにかなるのか?それは。」
「いや、水で濡らさないとダメっぽいですね!」
「じゃあ意味ねぇじゃねぇか。」


ぺしっと頭を軽く叩かれ、仕方なく私も起き上がる。それから顔を洗いに兵長と一緒に部屋を出た。





「兵長兵長っ!」
「何だよ(騒がしいな)」
「スカーフやって下さい!」
「……。」


寝癖も直してもらい兵服に着替えてる最中、笑顔で兵長に自分のスカーフを差し出す。兵長は微妙に冷めた目で私を見るが、仕方ないといった様子でそれを手に取った。


「…今日はやたら甘えてくるな。」
「そうですか?でも私、スカーフはいつも兵長にやってもらいたいって思ってますよ?」
「……(そうなのか)。」


スカーフには、初めて兵長が私に「お前は俺の犬だ」と言ってくれたとても嬉しい思い出があるのだ。そう言って最初に私に巻いてくれたのも兵長だし、それからずっと買ってくれているのも兵長だ。スカーフには兵長との繋がりしかない。だから私はスカーフを大事にしている。
壁外調査で無茶と勝手しかしない私に、自分のスカーフを巻きつけて「勝手に死ぬなよ」と言ってくれた。それが嬉しくて私はその壁外調査でいつも以上に浮かれて巨人を倒しまくって、結果浮かれすぎてすごい怒られたけど。

スカーフは兵長の犬の証のようなものなのだ。だから最初にしてくれたみたいに兵長がいつも巻いてくれたら嬉しい。


「えへへ」
「…何ニヤついてやがる。」
「私、今日も兵長の犬として全力で頑張ります!」
「……全力出しすぎてまた怪我するなよ。頭の怪我はどうだ」
「あ、もう全然大丈夫です!もともと大した事なかったですしー」
「そうか。」


スカーフが巻かれ、それを触りながら笑顔で兵長を見上げお礼を言う。すると突然おでこにバチンとでこぴんをされた。


「きゃんっ?!」
「嬉しそうにしてんじゃねぇ。」
「…っな、なんでですかっ……いいじゃないですかぁ!怪我するなと言うわりにこんな事するんですかー?!」
「これくらい何だってんだ。」


兵長は鼻を鳴らし私から離れる。私はおでこを擦りながらその背中を見つめる。


「……へいちょーっ!!」


それを追いかけ思い切り抱きついた。


「っ、…何だよ…だから引っ付くなこの駄犬が…。」
「今日は午後まで何もやる事ないので何かお手伝いします!何か命令して下さい!!」
「うるせぇよ騒ぐな。いつも以上にめんどくせぇな…何なんだよ今日は」
「だって兵長、私何かしたいです!」
「分かったからそのテンションをどうにかしろ。離れろ。命令だ」
「はいっ!離れます!」


バッと離れると、兵長は私を見てため息を吐く。

だけど今日はなんだかいつもより気分がいい。
きっと、兵長が私が起きるまで抱きつかせてくれたからだ。兵長がスカーフを巻いてくれたからだ。でこぴんはされたけど、こんなのはいつもの事でそこまで気にならない。


「…兵長、今日も一日よろしくお願いしますね?」
「…何だ、いきなり。」
「えへへ!なんとなくです!」


スカーフを触り、今日も元気に兵長の犬として生きようと笑顔を向けた。


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