お父さん、お母さん、ナマエです。 今月の壁外調査から無事戻ってきてこの手紙を書いてます。怪我もなく、私は元気です。 今回も巨人をたくさん倒して、少しは兵団の役に立ててたらなと思います。 それにリヴァイ兵長が、私は調査兵団でちゃんとやれていると言ってくれました。お父さんとお母さんは心配かもしれませんが、私は元気にやっていけています。だからこれからも頑張りたいと思う。 また手紙を書くね。じゃあね。 ナマエより 「………」 「どうでしょうか?」 両親への手紙を送る前に兵長に見せた。いつも気が向いた時に書いてるけど、壁外調査から帰ってきた時は必ず書くようにしている。生きている事を伝える為に。 兵長はそれを黙って読んだあと、チラリと私を見る。 「…怪我もなく、か。」 「そ、そうですよ?」 「じゃあその頭に巻いてる白い布は何だ?」 「………。」 私の頭に巻かれている包帯を見てそう言う。 医務室のベッドで休むのに飽きた私は両親への手紙を書いていた。そして様子を見にきてくれた兵長にそれを見せたのだった。 「これはっ…壁外調査での怪我ではありません!訓練でのものです!」 私は兵長と休憩したあとに訓練に戻り、そこでやる気を出しすぎたからなのか何なのか立体機動装置がいきなり壊れた。それがちょうど飛んでいる最中だったので空中でバランスを崩しそのまま地面へと落ちてしまった。一応受身はとったのだがわりと高さがあったのと頭を打ったのとで医務室に運ばれた。少しだけ意識を失ってしまい、あと頭を少し切ったみたいで血が出たらしいけど、脳震盪と軽い打撲とあと顔に少し擦り傷ができただけで済んだ。 「それに元気なのは事実です!」 「…まぁわざわざ怪我した事を書く必要はないが。いいんじゃないか、これで。」 そう言ってため息混じりに手紙を返してくる。 兵長のおかげでやる気が出たのは良かったがその矢先これだ。なんとも無念である。 「お、怒っていますか?」 「……呆れてはいる。」 「ですよねー!」 「装置のメンテナンスしてなかったのか?」 「そんなまさか!してましたよそれに我が子のように大事に扱ってましたしー!何で壊れたのか意味が分かりません!ショックです!反抗期なんですかね?」 「反抗期なのかは知らんがとにかく壁外でなくて良かったな。」 「まぁそうですね…これがもし巨人との交戦中だったらと考えると…………燃えますね。」 「………あ?」 「確実に死ぬ!って思いますよね!そんなの最近あまり思う事ないですし、そう考えると滾りますねー!!こう、ガッと巨人に捕まれちゃったりして、装置も壊れてて、食べられそうになるんですよ!」 「……。」 「だけどブレードがあるのでそれでズバッと指を切って抜け出して、それでも装置は壊れてるので自分の足で逃げるんです。でも当然追いかけられるのでもう必死ですよ!私は!……って、あれ?兵長、どこに行くんですか?」 「仕事に戻るんだよ。付き合ってられん。」 「あ、すみませんお時間取らせちゃって!でも来てくれてありがとうございました!」 「……頭打ってこれ以上アホになるんじゃねぇぞ。手がつけられなくなる。」 「分かりました!」 その背中を見送りわざわざ顔を見にきてくれた事に感謝しつつ、私もそろそろ部屋に戻ろうかと考える。頭を打ったから一応安静にしておくよう言われたのだがこれじゃあ暇だ。手紙は明日出すとして、とりあえず兵長の部屋に戻ろう。 ◇ 「オイ…バカ犬。離れろ。安静にしておけ。動き回るな。」 「はい!了解です!」 夜になり、兵長も仕事が終わり部屋に帰ってきて、かなり暇していた私はすぐさますり寄り何かする事はないかとひたすら求め続けていると安静にしろと言われた。命令口調につい了解してしまったが、これ以上安静にしていたら逆に体に悪い気がする。 しかしとりあえずベッドに腰掛ける。 「…へいちょぉ」 「何だ?」 「あのですねー。…暇だなぁー…なんて。」 「……。」 様子を窺いながらそう言うと、少し眉根を寄せた顔がこちらに向く。 「…だって、私あれからずっと安静に掃除とかしていたんですよ?」 「それは安静にしていたと言わないんだが。やけにキレイだと思ったらそのせいか。バカ野郎。」 「でももう本当に元気なんですよ私!もはや元気なんですよ!」 「……。」 「そりゃあ結構な高さから落ちたからびっくりしましたけど、木にぶつかりまくって落ちたのでそこまで大した事なかったですし!」 「……。」 「頭は打ちましたけど大丈夫でしたし!もう暇なんですよ何かしたいんですよー!」 「……キャンキャンうるせぇ犬だな。本でも読んでろよ。」 「そうじゃなくて何かお手伝い的なことがしたいんです!」 「お前がやる事は何もない。」 「書類の整理とか手伝いますよ?纏めますよ?」 「……」 兵長に命令されるなら何だって嬉しいけど、それが兵長の役に立てる事ならそれが一番嬉しい。 そう思ってしつこく話しかけていると兵長は舌打ちをして、近寄ってきたかと思えば突然私をベッドに押し倒した。 「……。」 「え……兵長?」 少し驚いているとどことなく不機嫌そうな目で見つめられ、私の頬にできた傷に触れてくる。何も言わず黙って見つめ返していると静かに口が開かれた。 「…ナマエ。」 「はい?」 「お前は、俺の犬だ。」 「あ、はい…そうですよ?」 「なのに俺の居ないところで勝手に傷つくってんじゃねぇ。」 「あ…、え…」 「今回は装置の不具合らしいから仕方ねぇが…もし、自分のミスで怪我でもしやがったら許さねぇぞ。」 「……、」 「壁外で自由にさせてんのはお前の腕を信じているからだ。巨人を見てバカみてぇに興奮しても、何があっても、俺のもとに帰って来ないなんて事がないように常に心がけろ。いいな」 「……はい。もちろんです。」 意識を失ったのも怪我をしたのも久しぶりで、大した事はなかったけど多分少なくとも兵長は心配してくれていたのだ。そして壁外でこんな事がないように呑気な私に言い聞かせてくれている。 「……お前に傷ができるのは気に食わねぇ。」 そう言って兵長は私のスカーフに手をかけそれを簡単に取り、シャツのボタンを慣れた手つきで何個か開ける。そして吸い込まれるように私の鎖骨の辺りに兵長の唇が触れた。 「んっ……、」 抵抗しないでいるとそこに微かな痛みを感じ、それから兵長はゆっくりと顔を上げた。そしてそれを優しく指で撫でる。 「兵、長…。」 「あぁ……これは、悪くない。」 「……。」 一人納得したように頷き私の上から降りる。一人ベッドに取り残される私。 「分かったらそのまま安静にしとけ。」 「……。」 なんかもう……とりあえず安静にしておこう。 きっと赤くなっているだろう首元に触れ、静かに分かりましたと返事をした。 |