「ねぇリヴァイ」 「何だ」 「この前リヴァイの部屋でナマエが一人掃除しているのを見たんだけど、まだナマエを部屋に連れ込んでるの?」 「連れ込んでねぇ。アイツが勝手に入り浸ってるだけだ。」 「ふーん。でもリヴァイも追い出してないんでしょ?」 「…追い出しても無駄だ。あれは。」 「あのさ、君らって付き合ってるんだっけ?」 「あぁ?そう見えるか?」 「正直見えなくもないよね。」 「んなわけねぇだろ。何言ってんだ」 「…じゃあリヴァイはナマエの事どう思って、」 「犬だろ。アイツは。」 「……(食いぎみな上に真顔で…)」 「兵長!呼びましたか!?」 「、うわッ!えっナマエ居たの!?」 「いえ、兵長に呼ばれた気がしてたった今飛んできました!」 「呼んでねぇよ。」 「なんと!でもまぁいいです!何かする事ありますか?」 「ない。」 「なんと!そんなこと言わずに何でもいいんで命令して下さいよー!」 「ナマエはほんとに従うのが好きだねぇ。」 「もちろんです。兵長の犬ですから!」 「オイ、犬。邪魔くせぇからあっちへ行け。命令だ」 「はい!分かりました!お邪魔してすみません失礼します!」 「え……本当に行っちゃったよ。来たばかりなのに。」 「…ハァ」 「………。」 「…何だ、その目は。」 「いや……本当に従順だなって。」 「俺の犬だからな。」 「しかも邪魔って言われたのにも関わらず嬉しそうだったし。命令さえしてもらえたら内容はなんでもいいの?」 「あれは犬と呼ぶと喜ぶ。」 「あ、そうなんだ…ていうか本当に俺のもの感がすごいよ。スカーフとかおそろいだし。」 「…うるせぇ。」 ◇ 「あーあ……空から巨人が降ってこないかなぁ…。」 空が青くて澄んでいる。こんな日は壁外に出て巨人を削ぎたい。 「どんな独り言だ。」 「…あっ兵長っ?!ハンジさんとの密会は終わったんですか?」 「密会じゃねぇ。」 空を見上げポツリと呟けば、後ろにいつの間にか兵長が立っていた。そして頭を叩かれた。 「お前はサボりか」 「サボってないですよ休憩です!でも訓練は巨人が居ないのでつまらないです!正直やる気出ません!」 「逆にお前は壁外でやる気出しすぎだ。」 「そりゃあそうですよ、壁外は巨人パラダイスですもん!あ、良かったら兵長も一緒に空から巨人が降ってきた時の脳内想定訓練します?」 「何だそのふざけた訓練は。」 「いつ空から巨人が降ってきてもいいように、イメージトレーニングをするんです」 「そんな妄想している暇があったら鍛錬に励めこの巨人馬鹿。」 「でも楽しいですよ?」 「楽しいのかよ。いよいよ終わってるなお前の脳内は。」 そう言って兵長は私の隣に腰を下ろす。穏やかな風が吹き頬を撫でる。 「兵長、お仕事はいいんですか?」 「休憩中だ。」 「いっしょですねー」 「ああ」 「なんかもう私、兵長の副官とかになりたいです。」 「いきなり何だ」 「だってそしたら仕事中もずっと側に居られるじゃないですか?今よりも命令され放題!」 「…俺はこれ以上お前と居たら疲れる。」 「何でですかー!」 「お前と居ると気が散る。」 「そうなんですか?それはよくないですね。じゃあやめます!」 「……素直か。お前。」 「え?」 「……。」 聞き返すと何でもねぇと言って、私の髪をくしゃりと撫でる。 「…私、兵長に頭撫でられるの好きです」 「知ってる。犬はそういうもんだろ。」 「へへ、そうですね」 兵長はよくこうして私を撫でてくれる。クセなのかと思ってたけど、私が好きだと知っててやってくれていたのだとしたら嬉しい。それが私にだけなのだとしたらもっと嬉しい。 「…お前はいつもアホ面だな。」 「アホ面?」 「ニヤニヤしやがって。」 「そうですか?…だとしたら兵長の側に居るからじゃないですかね?」 「……」 「兵長と居ると楽しいので!」 「今もか?」 「はい!楽しいです!」 「…お前、友達居ないのか?」 「っえ、何でですか?」 「いつも俺のとこにしか居ねぇじゃねぇか。休日だってそうだ。」 「それは兵長と居るのが楽しいからですよ!」 「たまには実家に帰ったりしろよ。両親は居るんだろ?」 「あ、はい。生きて…ると、思いますけど」 「…何だ、その曖昧な返事は」 「いや…私家を出てから一度も帰ってないので、分からないんです。でも何かあったらさすがに連絡がくると思うので、たぶん元気にしてるでしょうけど。」 「一度も?それは調査兵団に入ってからって事か?」 「いえ、訓練兵団に入ってからです!」 「…何でだよ。喧嘩でもしたのか」 「喧嘩というか…まぁ、あれですね。両親の反対を押し切って兵団に入ったので、もう帰ってくるなと言われて。」 「反対されてたのか」 「はい。私は最初から壁の外に興味があったので調査兵団に入る気満々で、どうやらそれが心配だったみたいです。最終的には勝手にしろと見放されました。」 「そう、なのか」 「でもいつもこっちから一方的に手紙を送りまくってるので、私が元気なことは伝わっているはずです!」 「…どんな事を書いてるんだ」 「壁外調査で楽しく巨人を殺しています、私は元気です…みたいな!」 「……」 「あと兵長のことも書いてますよ」 「…どんなふうに」 「兵長に従う事が私の生き甲斐で、兵長はそんな私にいつも命令してくれます…とか!」 「余計両親を心配させるような事は書くな。可哀想になる。」 「え?」 「もっと健全なことを書けよ。」 「健全?例えば?」 「いや知らねぇが」 「でも他に書くことないですし」 「だとしても書き方を考えろ。」 「書き方……分かりました。次からはもう少し考えて書くことにします!」 「そうしろ。」 「はい!」 「というかお前は手紙だけで満足なのか?」 「え?何がですか?」 「会いたくならねぇのか」 「……どうでしょう?よく分からないです。会いに行って何か言われても嫌ですし…私は今のこの環境が好きですし、調査兵団も好きなんです。それを否定されるような言葉はあまり聞きたくありません。だから、手紙の返事も別にいらないんです。」 「…そうか。」 「ただ、ちゃんと生きていけてるよって事は娘としてしっかり知らせないといけない気がするのでこっちから一方的に送ってますけどね!でもこれくらいの距離がちょうどいいのかもしれません!」 顔を見れなくても寂しくはない。これが私の選んだ道だから。だけど、私のやっている事が否定されているのは悲しい。 でも自分のしている事は間違っていないと思う。分かってもらえなくても、会いに行けなくても、私はやめる気はない。だからこれでいいんだ。 兵長は黙ったままこっちを見つめて、そしてまた静かに私を撫でる。わしゃわしゃと髪を乱したあとゆっくり立ち上がり、私を見下ろす。 「…お前は言う事を聞かず勝手に動き回るが、腕はいいし戦力になっている。お前がアホみてぇに巨人を倒している事で少しは被害が減っているかもしれん。役には立っている。調査兵団でうまくやれている。手紙にちゃんとそう書いておけ。」 それだけ言って、兵長は背中を向け歩いて行ってしまう。 「……、」 突然のその言葉を呑み込むのに数秒かかった。 私は、もしかして兵長に認められているのだろうか。ここに来たのは間違っていなかったと背中を押してもらえたような気がして、心がスッと軽くなる。胸が高鳴る。 「…はいっ!兵長、ありがとうございますっ!!」 立ち上がりその背中に敬礼をした。 いつか、胸を張って帰ろう。目を見て伝えてあげよう。 「よぉーしっ!こうなったら訓練も本気出して取り掛かるぞっ!」 俄然、やる気が出てきた。 |