リヴァイさんは体が鈍ると言って一日に必ず腹筋だとか腕立てとかをしている。それから外へ走りに行ったり。さすがにもう近所の道を覚えてるみたいだったから一人で外に行くのも今は許している。早めに帰ってくるという条件つきではあるけど。
あとは文字は読めないみたいだけど言葉は通じるので、家では家事の合間にテレビをよく観ている。

だから、


「ナマエよ」
「はい?」
「俺がこの世界に飛ばされたのも、妖怪のせいなのか?」
「そ、そりゃ一大事ィ!」


何気にこっちの世界のネタを分かり始めている。昨日いきなりそんな事を言ってきたからビックリした。リヴァイさんはいつも真顔で冗談を言ってくるから、それが本気なのか冗談なのか最初は分かりにくかったが最近はなんとなく掴めてきた気がする。
バラエティとかはあまり観ないけど、ニュースとかは私よりもちゃんと観ているんじゃないだろうか。

そして今も、夕方のニュースを観ている。私はその向かいに座りスマホをいじっている。


「……」
「……」
「……」
「……」
「………結局、」
「……ん、?」
「結局、人間ってのは、どんな世界でも残酷になっちまうもんなんだな。」
「……え?何ですか?急に…真面目な話ですか?」


リヴァイさんはテレビを観ながらそう呟く。その言葉に顔を上げリヴァイさんを見れば、その目に映っているのはこの世界の人間が人を殺したという内容のニュース。


「こんなクソ平和だと思える世界でも、結局人が人を殺す。」
「……、」
「しかもこいつは何だ?別れ話を切り出され、別れたくないから殺したとか言っていやがる。ぶっ飛びすぎだろ。巨人が人を食う事より物騒だぞ。こいつ。」


そのニュースは男性が恋人に別れ話をされて、それが嫌でやり直したいとしつこく言い続けていたのに分かってもらえずだんだんと苛立ってきて最終的に手に掛けてしまったとか。なんとも恐ろしい話だ。だけど、こういうのはそれなりによく聞く話でもある。こんな話がよくある事だなんて、そう考えるとこの世界も全然平和なんかじゃない気がしてくる。
身近に感じないだけで人が人を殺すなんて事はよくある事でもあるんだから。


「……確かに、一番恐いのは、人間かもですね」
「クソみてぇな人間はどの世界にも居るもんなんだな。…結局、人が居る限り、どんな世界でも変わらないのか」
「………、」


あ、どうしよう。なんか悲しくなってきた。ていうか、なんだろ。リヴァイさんにそんなふうに思ってほしくない。何でか分からないけど、なんか嫌だ。そんな寂しいこと思ってほしくない。

何か言わなければと口を開こうとした時、リヴァイさんの方が先にこっちを見た。


「だが、中にはお前みたいなお人好しも居るんだよな。」
「………ぁ、え?」


リヴァイさんの瞳に私が映る。


「まぁお前の場合お人好しすぎてそれはそれでどうかと思うが…お前みたいなやつも居るんなら、人間も捨てたもんじゃねぇって事なのかもな。」
「………。」


………えっと……。

これは、もしかして、今……リヴァイさんはデレたのか?


ってそうじゃなくて。

何これなんか恥ずかしいじゃん。そんな目で私を見るなこの異世界から来た30代め。


「……あ?オイ。今日はソラジローじゃねぇぞ。このピンクはなんだ」
「…… ポ……ポツリン、じゃないですかね……。」


返す言葉に困っているとリヴァイさんは特に気にしていないような様子で目を逸らし普通に天気予報を見始めた。こっちの気も知らないでソラジローの方を気にするんじゃないよ。そのピンクの子はポツリンだよ。


「……。」


小さく息を吐き、目を伏せる。

リヴァイさんは、大分心を許してくれるようになったと思う。
距離のとり方がお互い分かってきたというか、むしろ距離が近づいたというか。それは嬉しい事だけど、でもいくら距離が近くなったとしても私たちは結局違う世界の人間。リヴァイさんはいつか自分の世界に帰ってしまう。
それは本来なら喜ばしいこと。リヴァイさんは元の世界に戻りたがってる。当たり前だけど。それに私だってリヴァイさんが帰れたら嬉しいし。このままこの世界で生きるのは気の毒だ。

きっとリヴァイさんはいつか帰ってしまう。帰り方は全く分かっていないけど、なんとなくそれだけは分かる気がする。ずっとこのままなんて事はきっとありえない。

いつか、居なくなってしまう。
そんなの最初から分かっていた事だ。何を今更思い知ることがあるんだ。


「…オイ、ナマエ。聞いてんのか?」
「……っえ?」
「何ボーっとしてんだ。」


いつの間にか考え込んでいて、リヴァイさんが訝しげな顔で私を見ていた。


「え……あ、何でしたっけ?ポツリンですか?」
「ちげぇ。」
「す、すみません。何て言ったんですか?」
「…だから、お前も気をつけろよって言ってんだよ。」
「何をですか?」
「だから知らねぇヤツに簡単について行くんじゃねぇぞって言ってんだよ。お前すぐ騙されそうだからな。」
「………あ、はい。」
「…本当に分かってんのかよ。」


心配してくれている。それがダイレクトに伝わってきて、なんだか少し笑いそうになった。


「…大丈夫ですよ。リヴァイさんこそ、一人で走ってる時とか気をつけて下さいよ?何があるか分からないですし」
「俺は平気だ。どんなやつが来ても返り討ちにしてやる。」
「危ないな……」


うん。変なふうに考え込むのはやめよう。
私が暗い顔をしていたらリヴァイさんだってつまらない。


「……そろそろメシ作るか。」
「あ、はい……って、そういえば卵なかったですよね。」
「あぁ…そうだったか」
「私買ってきますよ。」
「別に今日使う予定はないんだが。」
「でも明日とか使いません?私目玉焼き好きだし…」
「なら明日買えばいいだろ。わざわざ今行かんでも」
「まぁそうですけど……暇ですし。リヴァイさんはごはん作ってて下さい。私行ってきますよ。」


気持ちを切り替え、何も気にせず立ち上がろうとすると腕を掴まれた。


「なら俺も行く。」
「え?」
「…お前、肩痛めてんだろうが。」
「あ、あぁ……でも卵くらい片手で持てますけど……。」
「うるせぇ。それにもう薄暗いだろうが。」
「…え……」


リヴァイさんは立ち上がり、上着を羽織る。そして鍵とお財布を持った。


「…ほら、何してんだ。さっさと行くぞ。」


いつも一緒に買い物に行っているけど、卵くらい一人でも買いに行ける。いくら肩を痛めているからといっても痛くない方の腕で持てばいいだけの話。でもきっと問題はそこではなくて。


「…私、思うんですけど」
「あ?何だ、いきなり」
「……確かに人間は一番残酷かもしれませんが、でも、思いやりや優しさを一番もっているのも、人間なんだと思います。」


どんな世界でも、人が人を思いやるその気持ちは何よりもキレイだと思う。


「……そうかもな。」


リヴァイさんの返事に微笑み、私も上着を手に取った。


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