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幸せの蜻蛉返し





目を開ければ、視界一杯に緑色が広がった。何だ、と瞳を瞬いてから思い出す。セブンのインナーの色だ。
耳をすませば規則的な寝息が聞こえ、鼻をくすぐる酒の匂い。宴の後だという事を、ぼんやりとした頭で思い出した。久々に九人が集まるという事で、ノブツナの家で宴会をしたのだ。酒に弱い自分も今日くらい、と飲んだ。だから途中から記憶が曖昧なのか。と一人納得する。
とりあえず、水が飲みたい。そう思ってむくりと起き上がった。頭がぐわんぐわんと音を立て、顔をしかめる。下を見れば、先程まで目の前にあった緑。それはやはりセブンのもので、ぐうすかといびきをかいて気持ち良さそうに眠っていた。その近くにはリクが大の字で、アッシュとビリーに枕にされて少し唸りながら寝ていた。三人とも顔が赤い。ああ、そういえばアッシュが盛大に歌い出したんだっけ。
そして珍しく、近くの壁にもたれながらジャックが寝ていた。あまり酔う事がない彼も今日だけは羽目を外したようだ。その隣でミスターが一升瓶を抱えながら眠り、同じく壁に身を預けるスカイによしかかっていた。

そして、それをテーブルの椅子に座り、眺める人物。どうやら彼だけ、寝ていないようだ。
「お、ファルト起きたか。調子は大丈夫か?」
「んー……ちょっとぼんやりするけど、大丈夫そう。水ほしい」
起き上がったファルトに気付き、ノブツナは声をかけた。どうぞ。と言って、また彼は未だ眠る彼らに瞳を戻す。ファルトは少しふらつく足で立ち上がり、水を取りに行く。
「ノブツナさん、ずっと起きてたの?」
「ああ、なんだか寝る気にならなくてなぁ」
そう問えば、目尻を下げて笑う。いつもの彼だ。彼の前には煙草の吸い殻ととっくり。皆が寝静まった後、一人酒でもしていたのだろうか。
その向かいの席に、ファルトは水を持って腰を下ろした。そして彼に倣うように、なんとなしに眠る彼らを見つめた。こう見てると、皆気持ち良さそうに寝ている。

ノブツナはこうして時々、輪の中から外れ外から自分達を見つめている時がある。その場合はいつも盛り上がっている時で、笑いふざけ合うメンバーの姿をひとり、遠巻きに笑いながら見ている。
まるで、その光景をその闇色の瞳に焼き付けるかのように。
決して、飽きただとか嫌だとか負の感情でなく、本当に大切そうに笑って見ているから。その黒に慈悲を宿し、小さく微笑む彼は、そうやっている事を好むようだった。

今も、同じ表情と瞳で、眠る彼らを眺めている。その横顔を流し見て、ファルトもまた彼らを見た。誰もが皆酔いつぶれ、赤く染まった顔はまだアルコールが抜けてないのが伺える。
そして誰もがみんな、幸せそうだった。

「……ねぇ、ノブツナさん、」
「んあ?」
「────幸せ、だね」

そう、言えば。丸くなった黒がこちらを凝視する。それに笑って返せば、少し呆れたように苦笑して、

「────ああ、幸せだな」

幸せそうに、そう言った。



ただ、気が合った。
それだけで集った自分達は、相手の事を最低限しか知らない。素性も過去も、そいつが出会う前どうやって生きてきたか。どういう道を通ってここに辿り着いたのか。ほとんど知らないのが現状だ。
知ってるのは、今の事だけ。今の性格、今の価値観、今の夢。
ただ、それだけ。しかしそれだけで充分なのだ。それだけが、丁度良いのだ。


必然が俺達を離れ離れにするまで。
俺達は、それで良い。







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