学園サバイバー //- 1


 これはどうしたものか。
 新学年特有の不思議な違和感の中、私は思案にふける。
 クラス全体で作り上げる空気感もまだなく、教室に人を詰め込んだだけのように思える。
 そこに、私は今、一人取り残されている。

 遂に高校最後の年。一年生と二年生の時は、同じ友達と仲良くやっていた私。女子高だから、苦手な男子もいない。
 人付き合いが極端に苦手な私だけど、その友達は同じ匂いがして、仲良くなれたのだ。
 唯一の友達は、不運なことに事故に遭ってしまった。二年生が終わる頃の話だ。
 友達は未だ入院中で、学校には戻ってこれない。
 せっかく三年連続同じクラスであるはずだったのに。私が友達に困る羽目には陥らなかったはずなのに。

 これはどうしたものか。
 私は途方に暮れる。高校も三年目。クラスの誰もが、元からの友達と一緒にいる。新しい友達を作る気配が、教室にまるでない。
 しかし、私の親愛なる友達は今ここにいないのだよ。他のみんなも違うクラスなのだよ。
 孤立無援って、こういうことですか? どうなんですか。
 第一、私は友達の作り方なんて完全に忘れてしまっている。
 不運な目に遭った友達と、危機に直面している私の不幸に、私は肩を落とした。
 本当に、これはどうしたものか……。

 アイツが近寄ってきたのは、そんな風に私がため息をついている時だった。

 アイツは、私と同様一人で席についていた。
 私と違うところは、やたらと存在感を消しているところ。そして黙りこくっているところだ。
 確か自己紹介で、立花朱音と消え入りそうな声で名乗っていたはず。
 短い髪に、大きな茶色い目。白く透き通った肌で、体は小柄。
 大人しいと思っていたその人は、いきなり私の側に寄ってきたのだ。

 しかも、歌いながら。

「おーしーえてーよぉー」

 いやいや教えてほしいのはこちらです。
 何故いきなり歌いますか。しかもこちらに寄ってきますか。何故その歌なんですか。私の好きな歌を何故知っているのですか。
 私の周りをうろつきながら歌わないで下さい。
 呆気にとられる私に、彼女は必死にまくしたてる。

「あのね、葵さん。オイラとっ、オイラとお友達になって!」

 ちょ、ちょっと待とう。ちょっと落ち着こう。
 昼食の誘いでもなく、挨拶でもなく、突然の言葉がそれですか。
 そして一応触れておこう。何故オイラなんだっ!
「駄目? 駄目なのかい? やっぱりオイラじゃ駄目かなぁー」
 一人で話を進めないでください。私を置いてけぼりにするのもやめてください。
「何、友達になりたいわけ?」
 私が冷たく言い放つと、がくがくと首を縦に振る。
 自分でも言葉の温度を低く感じ、また私やっちまったなと思ったけど、彼女は気にしないようだ。
 そして、鋭い言葉とは裏腹に私は乗り気になっていた。
 その理由と証明を、私は彼女に投げかけた。
「さっきの歌、好きなの?」
「うん! 大好きな歌なのだ!」
 そう。私は会話を続けたのだ。彼女が歌うその曲が、私の興味を引いた。
 幸か不幸か、彼女と私の音楽の趣味は一致しているようだ。

 話を続けてみるに、彼女とは意外に普通の会話が成立した。口調はおかしいけれど。
 彼女は彼女なりに、しっかりと常識を持っているのかもしれない。
 もうすっかり友達というものになってしまっていた。
 彼女のことは、朱音と名前で呼ぶことにした。

 この時私は、これから朱音との旅が始まるなんてこれっぽちも思っていなかった。

 過去から未来に向かう旅路は、この時始まったのだ。


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