感情交差点

忍足謙也/女主




side boy

今まで自分の片思いが成就したことは一度も無かった。侑士がそばにいたころは俺が好きになった女の子は何故か皆侑士を好きだと言ったし、中学に入学してからも俺が好きになる女の子は皆白石を好きだと言った。
普通なら従兄弟や親友を憎く思ってもおかしくないだろう。でも俺には取って置きの秘策があった。
この一方通行の想いが美しいものなのだと昇華させてしまうこと。
そうすることによって俺は友人達を恨むことも無く劣等感を抱くことも無く、かといって女の子を好きになることをやめなくてもよくなった。
自分の想いは叶わなくても、好きになった女の子が幸せそうに笑っていればそれが幸せなのだと思うことにした。

だから、名前(女)と隣の席になり、仲良くなった頃に好きな人が居るのかどうか聞いた。
自分はこの子を好きになる、そんな確信があったからだ。

案の定、名前(女)は白石が好きだといった。それについて凹むのは禁止。俺の想いはそこで昇華されて美しいベクトルになるのだから。
白石を好きだ、と言ったときの名前(女)の表情は俺が今まで見てきたどの女の子よりも美しく、そんな女の子を好きになれた自分が誇らしかった。

俺のその考え方は周りに理解されないことが多い。だから理解されようとしなくていい。

名前(女)と白石が付き合うようになったら、名前(女)はどんな美しい表情を見せてくれるのか。それを一番傍で見れるであろう自分のポジションに感謝した。
白石も名前(女)を憎からず思っているらしく、3人で行動する機会か増えた。
そのうち、俺がいなくなっても2人だけでどこかに行ったりするようになり、付き合うんだろうと予想した。心の奥がずくずく痛むのはきっと気のせいだと決め付けた。

そろそろ、俺が空気を読んで2人きりにするよう気を回さなければいけない頃だと思っていたとき、名前(女)が俺に告白してきた。
きっと名前(女)は自分の恋がうまくいかないかもしれないと思って俺に逃げたか、もしくは俺が名前(女)のことを好きだから気を遣ってくれているかのどちらかだろう。
俺の想いは昇華されているんだから、両想いになれるはずはない。

なるべく名前(女)が俺に気を遣わないようにしたつもりだったのに、名前(女)は何度も何度も俺を好きだといった。

そんなはずがない。名前(女)は白石が好きなんだから。

名前(女)が白石と付き合うよりも、名前(女)が俺に気を遣っているこの状況のほうが辛かった。

「なぁ白石、自分、名前(女)のことどう思っとるん?」
「は?…普通に友達やけど?」
「え…ホラ、アイツめっちゃええ奴やん?可愛えとこもあるし、気利くし…、」
「なんなん?ノロケか?」
「ノロケ、って何でやねん!」
「え?自分等付き合うとるんやろ?」
「付き合ってへんわ!」
「何で?」

何で、って名前(女)が白石のことが好きだからに決まっている。
そう言いたい気持ちをグッとこらえた。

「謙也は苗字が好きなんやろ?」
「…おう。」
「んで、苗字も謙也が好き。付き合わへん理由は?」
「え?い、いやちゃうわ!名前(女)が好きなんは…、」
「どう見ても謙也やろ。」
「ちゃうわアホ!名前(女)は白石が好きやって言うてたで!」
「…自分ホンマに鈍いな。前好きやって言われてたやん。何で信じてやらんの?」
「それは俺に気を遣ってるか、うまくいかなそうやから俺に逃げてるだけで、」
「はぁ?!まさか自分、苗字にそれ言うたんか?」
「な、何やねん!」
「…もし仮に、苗字が俺を好きやって言ってたとしてもな、苗字は明らかに謙也が好きやで。」

サラッと宣言された。

「…今日の部活は出なくてええから、苗字と話して来い。」

無理やり追い出される形で部室から出た。ちょうど他の生徒は下校する時間だ。名前(女)の後姿を見つけてダッシュで追いかけた。

「…名前(女)ッ、」
「謙也?どないしたん急に。部活は?」
「それは、ええねん。…なぁ、名前(女)は、白石が好きなんやろ?」

そう言うと名前(女)は傷ついたような表情をした。
何故名前(女)がそんな表情をするのかわからなかった。

「…わたしが好きなんは、謙也やって言ってるやん。」
「ホンマに?」
「何で嘘で告白せんといかんねん。アホか。」
「やって、俺、…俺等、」

これじゃあ、両想いやん。
俺が今まで一度もなったことがない、両想いだ。

今まで他の女の子が幸せそうに俺から去っていくのを見ていたときずきずきと痛んだ心の奥底。ここは俺がその子たちと付き合いたかったという欲をしまっていた部分なのだろう。ずきんずきんと心臓の音にあわせてそこが痛んだ。

「…何回言ったら信じてくれるの?」

名前(女)が泣きそうな顔をした。俺も泣きたくなった。

「…俺がええよって言うまで、言うてくれる?」

俺が信じられるまで。今まで他の子に言いたかった分と、言って欲しかった分が埋まるまで。何回でも何回でも言って欲しかった。

昇華されたベクトルはとても美しい。それに比べて、このいびつな両想いはひどく滑稽に思えた。

それでも、律儀に何回も俺が好きだと言ってくれる名前(女)の声を聞いているたびに、心が満たされていくのを感じた。

俺は友人達と勝負するのを諦めてただ逃げていただけなのだと気付いた。
この充足感がこんなに心地よいものなのだとわかった。

やっと、重なったベクトルは合成されて0に戻っていく。


END







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