一方通行の人

忍足謙也/女主




side girl

白石のことが好きなわたし、を、謙也は好き。

もともとわたしは白石に片思いをしていた。叶うことの無い思いだということは深く深くわかっていたし、白石のことが好きと言うよりも、周りと同じように恋をしている自分が好きだった。誇らしくさえ思った。
恋に恋をしているというのが正しかったのだろう。白石は憧れの存在としてぴったりだった。顔がよく、運動も勉強もよくできて、周りに対する気遣いもできる。そんな存在だったから憧れの存在として気楽に片思いをしていた。
同じクラスではあったけれど、たまに挨拶をする程度で深く知り合いになりたいとは思わなかったのだ。

そんな折、忍足謙也と仲良くなった。
たまたま席が隣になり、教科書を忘れたときに見せてもらい、宿題を忘れたといわれたので見せ、…なんてことを繰り返しているうちにクラスの男子の中では一番と言っていいくらい仲良くなった。
謙也は愛想が良く友達も多かったし、話していて飽きないので楽しかった。

「なぁ自分、好きなやつおるん?」

今まで恋バナなんてしたこともなかったのに、唐突に謙也はそう振ってきた。

「んー…、まぁ一応。」
「へー!誰?誰?」
「えー、誰にも言わん?」
「もちろん!」
「…白石。」
「…へー!そうだったん?の割には全然話しとるとこ見いひんけど。」
「片思いだからいいの。付き合いたいとかあんま思わんし…。」
「そうなん?何か複雑やなぁ。」
「まぁええやん。」
「どこがええん?」
「えー?顔。」
「面食いか!」
「うそうそ。まぁ顔もだけど…なんや、キラキラしてるから、かな。」
「結局顔やん。」
「いやそうやなくて。そこもあるけど、目標に向かって迷わず突き進めるとこがカッコええなぁって思うんよ。」
「ふーん…。」

謙也の表情はよく見れなかったけど、まぁ頑張り、と言われた。

次の日、いきなり謙也に告白された。

「は?」
「せやから、俺自分が好きやねん。」
「いや、わたし昨日言うたやろ?」
「ええねん、あんな、白石のことが好きやって言う名前(女)がめっちゃ可愛いと思ったんや。せやから、俺は名前(女)を応援するで!」

こうしてわたしたちの微妙にいびつな関係は形成されてしまった。

つまり、謙也は「白石に片思いしているわたし」が好きなのだという。
そう告げたあとも謙也の態度は何も変わらず、普通の友達のままだった。
ただ、謙也と二人で話しているとそれとなく白石も会話に参加させようとしてきたり、ご飯を3人で食べないかと誘われたりした。
謙也がわたしと白石をくっつけようとしているのは明らかだった。

でもわたしは白石よりも、正直謙也が気になって仕方なかった。

好きだと告げてきたのに、何も変わらない態度にはイライラした。わたしのことを好きだと言ったくせに何で白石とわたしをくっつけようとしてくるんだ。意味がわからない。
そう思っているとつい目線が謙也に向かっていたらしい。たまたまわたしの横を通った白石がクスクス笑いながら言った。

「自分、そないに謙也を心配せんでも、謙也は苗字一筋やから大丈夫やで?」

仮にも片思いの相手にそう言われて、普通なら焦って否定するだとか自分の気持ちが全く通じていないのかと悲しくなるだとか、そう思うのが普通のはずだ。
それなのにわたしの心の中にある感情は安堵だった。
白石は謙也がわたしのことを好きなのを知っているのだと。
白石は友達の好きな人を好きになるようなやつではないことを知っているわたしは、もう白石と付き合える可能性が0になったことに気付いた。それでも不思議と悲しさはなかった。

それでやっと気付いた。わたしは忍足謙也が好きなのだ、と。
謙也と一緒に居たいんだ。憧れと恋は違うんだ、と。
告白されてから相手を好きになるというのがどうもわたしには不純なことのように感じられたが、気付いてしまったものはもう止まらない。

「わたし、謙也のこと、好きや。」

放課後教室に呼び出して言うと、謙也は大きく目を見開いたあと、悲しそうに笑った。

「別に、無理せんでええよ?白石とうまく行きそうにないからって諦めたらアカンで?名前(女)は白石が好きなんやろ?自分の気持ちに嘘つくな。」
「せやから、ちゃうねん。」
「いーや違わない。いっぺん告白して来ぃや。俺の胸くらい貸してやるから。」

謙也の中でわたしが白石を好きだということはもう確定事項になっているらしい。人の気持ちが簡単に変わるものだということを謙也は知らない。
その日は妙に優しい謙也に送ってもらって家に帰った。

次の日、わたしが何とはなしに謙也と白石が話しているところを見ていたら後で謙也にこう言われた。

「さっきな、『お、苗字がこっち見とる』って言っとったで。気付くってことは白石も自分に気があるっちゅーことやない?」
「…それは無いと思うわ。」
「いーや俺の勘があるって言うとる。」

お前の勘は全く役に立たないんだな、と思わず言いかけた。

「謙也は、わたしのことが好きなんやろ?」
「おう。めっちゃ好き。」
「もし、もし白石とわたしが付き合ったりしたら悲しくならへんの?」
「何で?好きな奴が好きな奴と付き合うんやで、何も悲しいことないやん。」

一方通行で、綺麗なベクトルやん。

謙也の主張は間違っているのか間違っていないのかはわからない。
でも、少しは自分の欲を優先して欲しいと思った。

「…好きやで。」
「せやから、それは白石に言い。」

わたしが本当に謙也のことが好きなのだと伝えるにはどうすればいいのだろうか。一方通行の愛を美しいと思っている謙也にはどうしても伝わらなかった。


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