結局、共依存。

白石蔵ノ介/女主




side girl

白石先輩と初めて会ったのは4月13日の新入部員の勧誘のとき。あたしを一目見て、「テニス部のマネージャーやらん?」と誘われた。

付き合いだしたのが2ヶ月と2日前。部室に残って部誌を書いていたら唐突に「俺、名前(女)のこと好きなんやけど、付き合ってくれへん?」と言われた。

デートしたのはそれから1週間後。その前にも二人で一緒に帰ったりしてたから、それを放課後デートと呼ぶのならそれが最初。

初めてキスしたのはそのデートから2日経った日のこと。場所はあたしの家。部活が休みだった。先輩があたしの家に行ってみたいと言って、そこでお母さんにも挨拶をしていた。


なぜあたしがこんなに細かく覚えてるかと言うと、ある理由がある。

「…ほんなら、初めてのデートで行った場所は?」
「……水族館。」
「正解。名前(女)はそこでオムライス食べとったけど、俺が頼んだものは?」
「………ッえっと、」
「…忘れたん?」
「あ……スパゲティ…?」
「まぁ正解やな。正しくはスープスパ。」
「す、すいません……。」
「名前(女)は夢中でおしゃべりしとったからなぁ。覚えてないのも無理ないわ。」

そう、白石先輩はちょっと変なのだ。

付き合ってから少ししたある日のこと。部室に二人で残っていたらこんな話になった。

『今日、付き合ってから何日目か覚えとる?』
『えっ……何か記念日でしたっけ?』

その一言が爆弾になったらしい。スッと無表情になった先輩を見て、自分は何かまずいことを言ってしまったのかと思った。

『今日は、付き合ってから17日目や。ちゃんと覚えといてな?』

これが始まり。それからというもの、先輩はあたしにやたらとテストをするようになった。
間違えても怒ったり手を上げてきたりはしない。でも無表情の先輩はとても怖いと思う。

「忘れられたくないんや。」

先輩はそう言う。人間は忘れていく生き物なのに、先輩はあたしとの出来事を完璧に覚えている。

「これから、たくさん思い出作ろうな。」

そう言ってにこやかに笑う先輩を見て背筋がゾクッとした。これから先、この人と付き合っていく長さに比例して思い出も出来る。あたしはその全てを覚えなければならない。

「…うん、今日も大体正解やな。偉いで。」

でも、それ以外の先輩はとても好きだ。今も笑って頭を撫でてくれるその手が気持ちいい。

あたしが頑張って正解した日の先輩の機嫌はとてもいい。あたしはその表情を見るとホッとして、先輩のためなら何でも覚えていようと思ってしまう。

「名前(女)、好きやで。」
「……はい、あたしも、好きです。」

好きだと言い合うのはこれで305回目。毎日毎日何回も言われてるけれどまだ慣れない。


先輩があたしの髪に顔を埋めてくる。
先輩が好きだと言っていたから、美容院でわざわざ買っているちょっと高いシャンプーの香りがあたしの鼻孔にも届いた。

「どっちかが先に死んでも、思い出があれば生きていける。やから俺は名前(女)とのことは何でも覚えていたいし、名前(女)にも俺のことを全部覚えていて欲しいねん。」

この寂しがり屋の人を支えられるのは世界で唯一人、あたしなのだとすら錯覚してしまう。

それくらい依存してくる先輩をどうして忘れられようか。


「自分等見てると可哀想になるわ。」

教室の隅で、先輩との間に起こったことをまとめている最中に財前に言われた。その意味をあたしは理解しつつも、先輩から離れられないでいる。

やって、忘れられるのって悲しいやん。そう当たり前のように答えられるあたしも少しおかしくなってるのかもしれない。


NEXT?







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