13
一回家に帰って、着替えてまた出かけた。二人で電車に乗った。
電車内は休日だからか空いていて二人とも座れた。
隣でケータイをいじっている名前(男)。
名前(男)の私服ってそういえばあんま見ないから新鮮な感じがする。細身のジーパンにシャツという普通の姿だったけど様になっていた。
ユニクロのモデルが着ると、あんなシンプルな服でも決まって見えるじゃん。そんな感じ。
長い足を持て余しているかのように座っている。嫌味か。
「お前何買いたいの?」
ふと気になったので聞いてみた。名前(男)って物欲があんま無さそうだからわかんない。本とか?
「中華鍋。」
……まさかの答えを頂いた。
「は?」
「ウチにないんだよね、でもアレ1個あると便利だから欲しいんだ。」
「………ふーん。」
わざわざ遠出までして買う必要はあるのかとか思ったけど、名前(男)の感覚が微妙に他人とずれてることは知ってたのであえて突っ込まなかった。
「他には?本とか服とか。」
「んー……別に。でも本屋は行こうか。」
「服買わねーの?お前ならカッコイイし何でも似合うと思うんだけど。」
ゴトッ、と名前(男)が手に持っていたケータイを落とした。
「おい、ケータイ落とし、」
「今のもう一回言って。」
「え?『服買わねーの?』」
「その後。」
「『お前なら何でも似合うと思うんだけど』?」
「……微妙に抜かしてない?」
え、俺何言ったっけ。
「………あぁ、『カッコイイ』ね。」
「赤也、俺のことカッコイイって思う?」
「そりゃ、誰だって思うっつーの。」
「…そっか。」
……何このかゆい感じ。名前(男)ってこんなキャラだっけ。
何だかこっちが恥ずかしくなった。顔赤くなってねーかな。
「じゃ、赤也が言うなら服も買いに行こうかな。」
「べ、別に行かなくても…!」
「いいじゃん。俺あんまし服持ってないし、色々見たい。」
赤也がどんな服が好きか、とか。
そう付け加えられた。コイツ昨日から開き直ったよな。バンバンにアプローチかけてくるじゃん。しかもかなり心臓に悪いやつ。俺昨日からドキドキしっぱなしで、
…………ドキドキ?
いや、ないない。ドキドキって、それじゃまるで俺が名前(男)のことを好きみたいじゃないか。
「………赤也?」
「お前さ、そういうこと言って恥ずかしくねーの?」
「全然。」
「あ、そう。」
名前(男)は自分の破壊力を知るべきだ。バカ。
「あ、ついた。降りようか。」
「おー。」
ついたところはちょっと大きい駅ビルとか、それに店がたくさん並んでるようなとこ。通りでは呼び込みの人やティッシュ配りをしてる人がたくさんいる。
「さすがに俺等の駅より活気があるなー。」
この駅は他の路線との乗り換えがある関係でたくさん人が行き来するからな。
「で、まず何買う?」
「んー……最初に中華鍋買ってから服屋行くのってちょっと変だよね。」
「じゃ先に服見ようぜ。」
そう言って二人で駅ビルに入った。
メンズの服がたくさん売ってる階に行くと、名前(男)はさっそく店員に声をかけられてた。イケメンは滅びればいい。
「これなんかいいんじゃね?」
「そうかな、だったらこの柄の方が…。」
「いや、パンダ柄って……。確かに可愛いけど…。」
「何で?」
名前(男)は服のセンスもちょっと変わってることがわかった。名前(男)なら着こなしそうなデザインだけど、どうせならせっかくの顔が引き立つような服を着せてみたい。
店員さんと俺の二人で名前(男)の服を勝手に選んだ。
「これとか。」
「これもお似合いですよ。」
「あ、これ似合うと思う。」
「これもどうですか?」
店員さんはさすがにセンスの良いものをたくさん見繕ってくれたし、俺もスタイリッシュなものを奨めた。
「じゃあ…これとこれにします。」
名前(男)は結局ジャケットとカットソーを買った。心なしかぐったりしている。
「ちょっと……休憩……。」
「何で疲れてるんだお前。」
「服買うのって体力使うんだよね……。」
「ふーん…。」
少し休めるカフェに入って、それから本屋に行った。俺は本屋行ってもどうせマンガのとこかスポーツ雑誌のとこしか見ないけど名前(男)は小説コーナーに向かった。……ここら辺が学力の差だと思う。
スポーツ雑誌のコーナーに行くと月刊プロテニスがおいてあった。
そういえば先月、記者の人たちが取材に来ていた。写真くらい載ってねーかなと思ってパラパラとめくっていたら、後ろから肩を叩かれた。
名前(男)かな、と思って振り返るとそこに立っていたのは。
「赤也じゃん!どーしたんだよこんなところで?」
「お前さんが本屋におるなんて珍しいのう。」
…丸井先輩と仁王先輩だった。
何となく、今日は先輩達というか知り合いに会いたくはない気分だったので、正直複雑になった。
…なんでいるんだよ…!
END