何でどうしてこうなった



「今週の日曜日は練習試合がある。」

教室に入るなり、柳君にそう言われた。


皆さんどうもこんにちは近所の診療所の先生があまりにダンディーなので軽症の風邪でも病院に通ってしまうオジコンガールこと苗字名前(女)です。
テストも無事終わり、(歴史は前よりだいぶ上がった!)皆がすっかり気を抜いているこの季節。男子テニス部は相変わらず厳しい練習を一生懸命こなしているようです。
もちろん一番練習量が多いのは真田君だと思うんだけど!素敵!素敵!


「練習試合?」
「あぁ。場所は立海のコートだ。来ないか?」
「え、でも迷惑じゃない?」
「他にも見学者は来るし、偵察も来る。むしろ応援として立海の生徒がいた方が他の部員の士気も上がるだろう。」
「ホントに?じゃあ行きたいな!何時から?」
「あぁ、9時集合で9時半開始だ。」
「じゃあ10時くらいまでには行く。」
「…いや、9時に来てくれ。」
「何で?」
「試合前の弦一郎は気合に満ちているぞ。」
「おっけー9時に行く!」

うまいこと操られてる気がしたけど、このときのわたしは本当に迂闊だったことに今気付きました。

日曜日、9時ぴったりに校門についた。
もう敷地内には入れるっぽくて、コートのほうに向かっていると切原君ともう一人、同じくレギュラーである丸井君に会った。

「あ、名前(女)先輩じゃないッスか!」
「赤也、知り合い?」
「えーっと俺のカテキョーやってくれた人ッス。苗字名前(女)先輩、聞いたことあるっしょ?」
「あ!あの三強を笑わせたという…!」

…え、わたしレギュラー陣に名前覚えられてるくらい有名なの?!

「どうしたんスか?忘れ物とか?」
「え、いや、えーっと、」
「あー!わかった、副部長の応援でしょ!」

どうしたわかった貴様ァ!!

「え、この子真田の彼女?」
「ち、違いますよ!」
「そうそう、『まだ』違います!」
「ちょっと切原君!まだって!」
「そのうち、デショ?」

いやぁまぁそのうち…ごにょごにょ。

「あ、先輩!俺数学今までで一番良かったんスよ!先輩のおかげッス!」
「良かったじゃん。」

お前のせいでわたしと真田君が二人きりになるチャンスが…とかうっすら思ったけど、まぁ今更というか。うん。このタイミングで言ったら笑われそうな気がする。

「へっへー。」

照れくさそうに笑う切原君を見て、何となくこの子が真田君達に可愛がられている理由がわかった気がする。

「じゃあ、頑張ってね。」
「え、部室来ないんスか?」
「いやわたし部外者だし!」
「大丈夫ッスよ!ね、先輩。」
「おー大丈夫じゃね?お前幸村くんや柳とも面識あるんだろぃ?」
「そりゃあるにはあるけど、」

風船ガムを膨らませながら言われても説得力に欠ける。

「ホラ、早く!」

強引に部室まで引っ張っていかれた。え、大丈夫なの?

「副部長ー!!名前(女)先輩連れてきましたよー!!」
「ちょっと切原君!」
「あー先輩、俺のことは赤也でいいッスよ!」
「いやそんなこと聞いてないし!」
「大丈夫ですって!」
「赤也?どうかしたのか?」

部室前で止まって話していたら柳君がやってきた。

「お、おはようゴザイマス…。」
「おはよう。弦一郎に会いに来たんだろう?」
「柳君が9時に来いって言うから…。」
「まぁ入れ。」

部室へ促されて中に入ると、何と(よく考えたら当たり前か)レギュラー陣がお揃いだった。
……けど真田君はいなかった。何で。

「………。」
「やぁ苗字さん、久しぶりだね。」
「…ドウモ。」

幸村君に挨拶をされる。皆は興味津々でこっちを見ている。

「柳君、こちらの方は……。」

眼鏡をかけたインテリっぽい人(真田君と同じクラスの柳生君だ確か)が柳君に声をかけた。

「あぁ、弦一郎の彼女候補の苗字名前(女)だ。」

………はい?!
さらっと凄い事言ったよねこの人?!

「ホラ、聞いた事あるだろ。『三強を笑わせた女』だよ。」
「……ほう。」

仁王君が面白そうな顔をした。
何となく危険だとわたしのレーダーが察知したので身構えてしまう。

「お前さん、あの有名な?」
「………何の事でしょうか。」
「そんな構えんでよか。」

とか言われても。どう見ても危険人物だコイツ。

「あはは、相変わらず堅いなぁ。もっとはじけてよ、この前みたいに。」
「この前もはじけてないから!」
「真田の前だけ?」
「い、いやそういうわけじゃなくて……、」
「精市、あまりいじめるなと言っただろう。」
「ごめんごめん。」

何かこのやり取りデジャヴ。

「柳君、わたし何でここに呼ばれたの?」

もしかして、これは面通しってやつか。そうなのか。レギュラー陣に顔を覚えられるなんて怖すぎる。

「弦一郎を見に来たからだろう?」
「その真田君がいないじゃない。」
「先ほどトイレに行ったからな、じきに戻って来る。」
「じゃあ外で待って、」
「行かさないぜよ。」

遮るように仁王君に止められた。
めっちゃ面白そうな顔してる。言っておくが『立海テニス部レギュラーを笑わせた女』なんてもんにグレードアップする気はさらさら無いからな!!

「真田の事、好いとう?」
「水筒…?」
「『好きなのですか』と聞いているんだ。」
「あーなるほど。っていきなり核心に迫ること聞いてくるのね。」
「真田は真っ向勝負が好きじゃからな。」
「そうそう、そうなんだよね!!………うん。」

一瞬激しくテンションが上がったけどグッとこらえた。奥で見ている丸井君と…ジャッカル君が吹き出しそうになってるのが見えたからだ。

「真田のどこが好きなんじゃ?教えとうせ。」
「………。」

この質問は前に幸村君にも聞かれて答えに失敗した記憶がある。だからなるべく無難な感じに返そう。

「り、凛々しいとこ!」
「……そう来たか。」

仁王君はニヤリと笑った。……ってこれ心理戦でも何でもないただの会話じゃないの?!

「他には?」
「…努力家なとこと、真面目なとこ。」
「融通の効かないとこがあるけどどう思う?」
「筋を通してるんだからいいと思うな!」
「……俺等が試合で負けると鉄拳制裁して来るんじゃがどう思う?」
「殴った手も痛いのですよ。」

おお、わたし強くなってる!!幸村君がわくわくした感じでこっちを見てる。幸村君だけじゃなくて真田君以外のレギュラー全員わっくわくの顔してるけどさ。

「ふーん……なかなか手強いの。」

……だから何の勝負なのコレ?!

「にしても、真田って老け過ぎじゃと思わん?同い年とは思えないナリ。」
「えー!!そこが一番の魅力じゃんか!!!」
「ほう、その心は?」
「わたしの好みど真ん中ストライクだよ!渋いって言うか!!素敵じゃん!」

……………ん?アウト?

「ぶっ……、」
「あはははは!!え、お前それマジで言ってんの?」
「ま、丸井君笑っては失礼ですよ!……人の好みは千差万別で……フッ」
「あはははは!!やっぱ先輩サイコーッス!!」

はい、アウトでしたー。

「蓮二、今日のオーダーについてだが……、」

しかもこのタイミングで真田君が戻ってきてしまった。いっそう大きくなる笑い声。

「…苗字?どうしてここに、」
「弦一郎の応援に来たんだ。ついでにレギュラーに紹介しておいた。」
「な…!蓮二、勝手に……、」
「よー真田、この子マジでサイコーじゃん!」
「久々に爆笑したのー。」
「…?」

皆口々に勝手なことを言いながら部室から出ていった。残されたのはわたしと真田君の二人。うわお、二人っきりじゃん☆なんて楽しむ心の余裕はなかった。

「……また何か言ったのか。」
「笑われるつもりは無かったのですよ……。」
「…そうか。」
「あ、真田君。今日頑張ってね。応援してるから。」
「無論だ。……しかし、また周りの奴が面白がって声をかけてくるかもしれん。出来るだけコート付近には近寄るな。」
「ええ!近くで応援したいのに!」
「……それなら、常に俺の目の届く範囲にいてくれ。」
「……うん!!」
「それから、仁王には気をつけろ。彼奴は相手にするな。」
「う、うん。わかった。」

部室を出て、コートの周りに立つ。ここならそんな邪魔にならないと思うし、一応真田君の視界に入るだろうし。


その日の試合はやっぱり真田君がカッコよかったの一言。途中で倒れそうになったもん。


後日、わたしがとうとうレギュラー陣を制覇し更なるグレードアップを遂げ、ついに先生達にまで「何をしたらアイツ等を笑わせられるんだ?」と聞かれてぶちギレた事をここに記しておきます。 (え、ホントに毎回噂流す奴誰なの?)


End


「にしても面白か子じゃったのー。」
「仁王!」
「あはは、そう怒りなさんな。あの子はお前さん一筋じゃよ。」
「……!!!」







「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -