絶対不可侵条約
一氏ユウジ/女主
四天宝寺のアイドルといえば、誰に聞いてもこう答えるに決まってる。
「我等がアイドル、金色小春に決まってるやないか!」
「さっすがユウジわかってるなぁ!」
「名前(女)もな!」
「いや、たぶんそれは自分等だけ…、」
「うるっさいわ謙也黙りぃ!」
「自分に小春の魅力なんて一生わからへんわ!」
「理不尽や…。」
そう、小春ちゃん。
IQ200の天才。そんで、めっちゃおもしろいしめっちゃ可愛い。非の打ち所が無いとはこのことだと思う。
あたしは生徒会の書記をやっていて、会計の小春ちゃんとはすぐ仲良くなった。
書記って地味な仕事だけど本当に大変だし、「書記」って名がついてるわりにパソコンを使った作業ばっかりで疲れるんだけど、小春ちゃんは効率の良いやり方を教えてくれたりオーバーワークだと他の役職の人に抗議してくれたりした。
「名前(女)ちゃんはいっつも頑張ってるで!」
って言われると何でか力が湧くんだよね!小春ちゃんパワーかな!
んで、今隣にいるバンダナ男はあたしと同じく小春ちゃん大好き人間。
テニスでラブルスを組んでいるらしくって、もう何から何まで小春ちゃん一色の人間、一氏ユウジである。
今、あたし達は「小春絶対不可侵条約」を結んでいるけれど、それにこぎつけるまでは大変だったのだ。
…とにかく敵視されまくったとだけ言っておこうかな。
まぁ、今ではすっかり小春ちゃんの良さを語り合う小春友達になってるからいいんだけどね!
「どないしたん名前(女)ちゃんにユウくん。」
「こ、小春ぅー!!」
「小春ちゃんの良さをちょっと語ってたんや!」
「そうなん?照れるわぁ。」
わざとらしくくねくねし出す小春ちゃん。あーもう面白いなぁ!
「ついていけんわー…。」
うげぇ、という顔をして謙也が教室から出ていった。
謙也は何でかわかんないけどあたしとユウジが小春語りをしているとき必ず一緒にいる。
「別に自分なんかお呼びじゃないわアホ!」
「せやせや!」
「むしろ何で謙也はここにおったんやろな?」
「は?名前(女)気づいてへんの?」
「何に?」
「謙也は名前(女)のことが好きなんやで。」
「はぁぁ?!おもろないわ何それ?!」
「冗談やなくて。なぁ小春。」
「やっぱり名前(女)ちゃん気づいてへんかったんやー、謙也くん可哀想や。」
「え、小春ちゃんも知ってたん?」
「ちゅーか、知らんかったの自分くらいやで。」
「ホンマに?!」
知らんわ初耳や!
小春ちゃんにしか興味無いし!
「謙也くんは名前(女)ちゃんがユウくんと二人っきりで話すのが嫌なんよ。」
「せやから小春が来たらもう帰るねん。」
「初やなー、謙也くんカ・ワ・イ・イ☆」
「浮気かー!!」
うっわー全然気づかなかった。
「付き合わんの?」
「えーあたし今小春ちゃん一筋やしー。」
「『小春絶対不可侵条約』を忘れたんか自分。小春を独り占めはでけへんのやで。」
「せやけどなぁー。」
謙也は確かにすっごいいい奴だけど、友達でいたいんだよね。
今は小春ちゃんのおっかけが一番楽しいし。
「さすがやな!小春応援団長の俺が見込んだだけのことはあるわ!恋愛より小春を取ったんやな!!」
「まぁなー。せやかてユウジも今日女のコに告られとったやん。」
「あー……振ったけどなぁ。」
「やっぱりそうなん?」
「…あんなぁ、自分等いつまでもこのままじゃおられへんねんで?」
小春ちゃんが口を開いた。何となく重たそうな話になりそうだと思った。
「アタシのこと好きって言うてくれるのは嬉しいけどな、ちゃんと恋もせんとアカンよ?」
「わかってはいるんやけど…なぁ。」
「…何がアカンねん。」
小春ちゃんは最近よくこの話をする。それがあたし達を心配しての一言だと言うことはよくわかってるんだけど、やっぱり寂しい。
3人でいることの、何がいけないの?
ユウジも同じ考えだ。
3人で一緒にいれたら、他に何もいらないんだもん。
「ほんなら、アタシにいい考えがあるんやけど。」
「何?」
「ユウくんと名前(女)ちゃんが付き合ったらええやん!」
「「は?」」
「二人でおる時もめっちゃ楽しそうやし、いいコンビやと思うで。したらアタシかて安心やわ。」
『アタシかて安心やわ』
『アタシかて安心やわ』
『アタシかて安心やわ…………』
その言葉だけが脳内をぐるぐる回る。小春ちゃんを不安にさせることは悪いことだ。あたし達が付き合えば小春ちゃんは安心する。そんなの、あたし達が選ぶ答えは一つだ。
「ユウジ、」
「何や名前(女)。」
「付き合おうか、あたし達。」
「せやな。」
こうして小春絶対不可侵条約を結んだ二人は別の意味でも結ばれたのである。
「そうやって何やかんやあって結婚したあたし達の子供がアンタやで。」
「う、嘘やん!!」
「ホンマに。なぁユウジ。」
「あぁ。」
「やから小春おじさんがちょくちょく遊びに来るん?!」
「まぁそういうことになるな。」
「じ、じゃあ『謙也』は?!」
「あー、あの後ちゃんとごめんなさいしたよ。ほら、あの忍足医院の忍足センセーや。」
「ええええ?!ほんなら母さん、今頃医者と結婚しとったかもしれへんっちゅーこと?!」
「せやな。」
「もったいな!!」
「何言うてん、もしそうやったら自分今頃この世におらんのやで。」
「あぁ、小春に感謝しいや。」
「俺が生まれたの小春さんのおかげ?!」
End