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何かよくわかんなくなって目を閉じた。
名前(男)が近づいてくる感覚は消えない。心臓がバクバクする。

そのままくっつくかと思った口と口は、ギリギリのトコで止まった。

「………いいの?」

囁くような声で言われる。コイツの呼吸する音が聞こえるくらい近い。
何だろうイケメンは雰囲気を作ることまで可能なのか恐ろしいな。
俺は何も言わずにただ目を閉じていると、更に顔が近くなった気がした。
手をぎゅっと握られた。あー、俺手汗かいてねぇかな。

…………

小さなリップ音がした。心臓がヤバい。

口にされると思ったけど、口の端のギリギリのとこにキスをされた。

ゆっくり目を開けると、名前(男)はまだ近いところにいた。

「わかんねー。」
「え。」
「お前のこと好きになれるかわかんねーけど、…悪い気はしねーんだよな」
「…つまり?」
「お前の努力次第ってことでガンバレ。」

ホラ、男女の付き合いでもあるじゃん?
告白されて「お、お友達から…」ってやつ。それだよ。
お友達から頑張って恋愛関係に発展することもあるし、そのままお友達止まりってこともあるけど。
それは名前(男)の頑張りで決まるんじゃねーの?

と、何様だ俺みたいなことを本気で言った。

名前(男)はこくんと頷いた。

「じゃあ、俺頑張る。」
「おう。」

男に告白されて、何か勢いでキスしそうになって、それでもなぜか俺は満ち足りたような気持ちで家に帰ったのだった。



…え、何コレ。
次の日いきなり超冷静になった俺はそう思った。
流されている…気がする。
キラッキラのオーラに流されまくっている気がする。
っていうか流されている。

これでいいのか俺?!

「…オハヨウゴザイマス。」
「あぁおはよう赤也。昨日は大丈夫だったか。」
「え、あ、ハイ。」

朝練にいつもより早めに行くと真田副部長と柳先輩しか来ていなかった。

「…大丈夫になったみたいだな。」
「マジすか?」
「あぁ、昨日よりずっといい顔をしている。」
「はぁ…。」

これ以上柳先輩としゃべっていると全て見透かされそうだったからとっとと着替え始めた。
さすがに、「男に告白されちゃいました!」とは言えねえからなー…。


「赤也今日調子いいな!上手くいったか?」
「切原くん好調ですね。」
「へぇ、赤也いい感じじゃん。」

どうやら今日の俺は絶好調らしい。
昨日はなんだかスッキリしてよく眠れたし、練習も思ったとおりにいく。
…なんでかはワカンネー。


教室に入ると名前(男)は相変わらず本を読んでいた。
遠巻きにそれを眺める女子、とさらにそれを見て「ケッ」とか言ってる男子と。
俺も先週くらいまでは「ケッ、あんな顔だけのやつがいいのかよ」とか言ってたからあんま人のこと言えないんだけどさ。

「名前(男)オハヨー。」
「あ、赤也。おはよう。」

俺が声をかけると名前(男)は本から視線を外してにっこり笑った。
遠くできゃあ、と歓声が上がった気がする。

「…ずいぶん人気なのな。」
「え?何が?」
「いや…何でもねー…。」

いくら女子から人気だろうと、こいつは女に興味は無いんだよなあーと思った。
というか、俺にアプローチかけてくるってことだよな、昨日そう言ってたもんな。

じーっと名前(男)を見ていたが名前(男)は再び持っていた本に視線を落とした。

…おい。


何でか俺のほうが振り回されてる…気がする。


END
 




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