蓼食う虫もなんとやら



私、恋してます…!

昔から好きになる人はみーんな年上。上は52歳から、下は32歳まで。


そう、私、オジサン専門なんです…!


まぁもちろん私はしがない学生の身。
オジサンがいくら好きでも、もし付き合ったりしたら相手が犯罪者になってしまうし、下手すれば援助交際と言われかねない。
それに、私が好きになる人は私みたいなガキに手を出すような人じゃなくって、渋くて大人の余裕がある、そんな人なんだもん。
となると、たいていが既婚者。恋が実る確率なんか0%に決まってるじゃない!

―――そんな私の前に現れたのが真田君だった。
真田君は本当に同い年?!って言いたくなるくらい大人びた(もとい老けた)顔をしている。
それに趣味も嗜好も渋い。考え方も頑固で昔の親父って感じだし!
もうドストライク。ツボだ。可愛すぎるよ。
彼は私のために生まれてきてくれたのってくらい、素敵過ぎる。

友達にオジサンの魅力と併せてそう伝えたら本気でドン引きされちゃったけど、同じクラスの柳君が真田君と親友らしいよって教えてくれた。

「柳君!真田君について教えて!」
「弦一郎について…か?何故だ?」
「何故って好きだからに決まってるじゃん!」
「好き…?所謂恋愛対象として、か?」
「そう!そうなの!」
「教えてもかまわないがそのようになった経緯を聞いてもいいか。」
「え?えぇー、私ね、オジサンがすごく好きなんだー!もうね、ちょっと哀愁漂ってる感じとか、すごく好きなの。無精ヒゲ生えてるオジサンも好きだしダンディーなのもたまらないの!あ、もちろんそれだけで真田君を好きになったわけじゃないんだけど、それもあるっていうか、まぁそうなの。でも真田君すっごくいい人だし、真面目だし、可愛いし、いいよね!それで、って何笑ってるの?」
「い、いや、すまない。」

つい熱く語ってしまったら柳君は肩を震わせた後、ハハハと笑った。
柳君が声を上げて笑うなんてとっても珍しいことらしくて、私は柳君を笑わせられる女として少し有名になってしまった。
不本意だ。どうせなら真田君に笑ってほしいのに。


でも、それが功を奏したみたいだ。
昼休み、友達とおしゃべりしていたところにいきなり真田君が来た。え?告白?
…いや、そんな筈無いのは百も承知だけど!
期待しちゃうのが乙女心って奴なの!

「お前が苗字名前(女)か。」
「そうですけど…って私のこと知ってるの?」
「いや、幸村や蓮二が苗字の噂をしていてだな…」

No way!ありえない!
噂ってどんなの?!
聞きたいけど「あいつオッサン好きなんだぜ」とか言われてたら身も蓋もない!どうしよう!

「あぁ、気を悪くしないでくれ。たいした噂じゃないんだ。」

でもそんな風にフォロー入れられる貴方も素敵です。きゅん。

「え、噂ってどんなの?」
「う、うむ。蓮二を笑わせたというのは本当なのか?」

…なんということでしょう。誤解です。いや誤解ではないのですが。

「あぁアレかぁ。」
「俺は蓮二とは長い付き合いになるんだが、蓮二はあまり大声で笑ったりする方ではないだろう。だから気になってな。」

なるほど、気になることは自分で解決するタチですか。
可愛すぎるよ真田君。
そう思ってたらついニヤニヤしてしまってたらしい。
怪訝そうな顔で見られた。

「何がおかしい。」
「そのわからないものは自分で解明しようとする姿勢!いいねぇ実に良いよ!」

私は貴方のそういう姿が好きですわ。と脳内で付け足していたらムッとした顔をされた。

「馬鹿にしているのか。」
「まっさか!」

「ずいぶんと楽しそうだな二人とも。」

後ろから声がして振り返ると柳君がいた。

「蓮二か、どうかしたのか?」
「弦一郎が苗字を呼び出したと聞いてな。」

うわ、こいつ野次馬かよ。

「…蓮二、いい加減お前が笑った理由を教えてくれないか。」
「弦一郎、お前のそのわからないことは自分で解明しようとする姿勢はお前らしいが、彼女もいきなり呼び出されては驚くだろう。なぁ苗字。」
「へ?あ、驚くというか、期待というか。…あ。」

…いまほど自分の口を憎んだことはない。

「期待?何の期待だ?」

つい口を滑らして本音が漏れた。
普段妄想ばっかしているとこうなるのかと深く反省した。
そしてそれを聞き逃さない柳君を殴りたくなった。

「いや口が滑りました気にしないでください本当忘れてくださいお願いしますお願いです。」
「生憎、俺は記憶力が良過ぎてな。」
「どの辺が海馬ですか今すぐ摘出してあげるんでちょっと横になってください。」
「遠慮しておこう。それじゃあな。」

柳君は口の端を持ち上げるだけの嫌な笑いをするとそのままどこかへ行ってしまった。

「あーうあーもう嫌だ私は今から山篭りするから私として生きていく私があと30人いると私になって…。」
「大丈夫か苗字。」
「大丈夫じゃないですもう嫌だ私はただ影でコソコソストーカーしてるだけで良かったのにもう…。」
「落ち着け。何があったのか全くわからんのだが…。」
「だ・か・ら!私は真田君に呼び出されて何か期待しちゃってたのを真田君に知られちゃって絶賛恥ずかしいですよキャンペーンなうって感じなのですよ!」
「だから何を期待していたんだ!」
「そんなの告白されるかもってのに決まってるじゃない乙女心をわかっ……。」


や ら か し た 。

何この空気。気まず過ぎる。
誰のせいですか。私のせいです。

「あー……っと…海馬はどこですか。」
「何でもそれで解決しようとするな。つまり苗字は俺に告白されたかったのか?」

もうやだこの人…。

「……。」

なんて答えたらいいかわからなくて俯いてしまった。
この反応で、鈍いであろう真田君にも伝わってしまったらしい。

「その、すまない。」

謝られた。そりゃはそうだ。
これじゃ私が告白したようなものだし。
断られるのは当たり前だけどそれでも泣きそうになる。

「いや、私こそいきなりごめんなさい…。」
「そうではない。問い詰めたりしてすまなかった。」
「あ、は、うん。大丈、夫。」

泣くな泣くな泣くな。
と思っても出るもんは出るんだから仕方ない。

いきなり変な発言された挙句泣かれるなんて真田君も災難だな、と他人事のように思った。

どうしよう。嫌われたかな。
少なくともうっとうしい女だとは思われただろうな。

「くっ…。」


…く?

「くくくくっ」

何か笑われたー?!

「え、ちょ、何笑ってんの?!」
「す、すまない。海馬の発言がおかしくてだな…。」

我慢していたんだが、耐えきれなくなってしまったんだ、と。

えぇ感情抑えるのは難しいですよねわかりますわかります、が。
目の前でアンタに失恋して泣いてる女の子(私!)は無視か、スルーか。
おいコラ。

…変な人だ。

でもそこが好きだ。
笑った顔なんてレア過ぎる。
涙も止まるわ。

「お前は面白いな。」

よく言われます嘘です。

「…ねぇ真田君。」
「…何だ。」
「私、真田君好きだよ。わかったと思うけど。」
「あぁ。」
「だから、これからも好きでいていい?」
「……お前の好きにしたらいい。」

いつもより眉間の皺が少ない真田君は、そう言ってそっぽを向いた。

(遠からず、初めて恋が叶う予感がした。)


End


「それで、蓮二は何を笑っていたんだ。」
「私が真田君ってかわいいよねって言ったら大笑い。」
「かわ…?!」

後日、私は「柳と真田を笑わせられる女」として有名になりました。
(と言うか、誰だ覗いてた奴は。)






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