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「んじゃ、何も無いけどあがって。」

そう言われてお邪魔した名前(男)の部屋は、本当に何も無かった。
家具は一応一通り揃っているし、部屋は綺麗なんだけど、なんというか寂しい部屋だった。

唯一使われている形跡があるテレビの周りに座った。

「何か飲む?何がいい?」
「おー悪いな。何でもいいけど。」
「んじゃお茶淹れるね。」

名前(男)がお湯を沸かそうとヤカンを手に取った。
だがしかし手つきがぎこちない。水入れすぎだバカ!

「お茶ってあったっけ……。」

不穏な呟きが聞こえてきた気がする。どういうことだおい。

「あ、あったあった。」

そう言って名前(男)はお茶の缶の蓋を開けてそのままヤカンに突っ込もうと…………。

「待て待て待て!!!」
「えっ?」

日本茶だぞ?!紅茶なら(確か)そういうやり方もあったような気が……いやわかんねーけど!
でも少なくとも日本茶は急須に入れたりするもんだと思う。多分。

「おま…いいよ、貸せ!」

俺だって自分でお茶淹れたことなんて家庭科の授業でやらされたことしかねーけど、こいつよりマシだと思った。
真田副部長の家とか柳先輩の家とかでお茶淹れてくれるとこ見たことあるし。

「とりあえず日本茶って普通は急須とかに入れねぇ?」
「そうなんだ、赤也詳しいね。」
「常識だバカ!って言うか水も入れすぎ!もったいないし時間かかるだろ?!ドイツではちゃんと量るくらいなんだぞ?!」

最後のは柳先輩の受け売りである。

「急須は?」
「んーあったっけ、ちょっと待って。」

そう言って名前(男)は食器棚を漁りだした。全然使われてなさそうなんだがどういうことだオイ。

「あったあった。」

急須と湯飲みのセットが箱に入っていた。未開封かよ。

「とりあえず水でゆすいでおいて。」
「うん。」

気の毒なほどぎこちない手つきでゆすぎだす。

「お前今まで家庭科の時間どうしてたんだよ。調理実習とか。」
「同じ班の女子が全部やってくれた。俺もやるって言ったんだけど、『苗字くんは座ってて!』って言われたからやれなかった。」
「…ふーん…もしかしてその後で『家庭的な子ってどう思う?』とか聞かれたわけ?」
「え、赤也何でわかるの。」

…イケメン死ね!
女子力アピールされてるなんて死ね!!
俺なんて『切原も手伝いなさいよ!』しか言われたことねぇよ!

ゆすぎ終わったらしい名前(男)は俺の方をじーっと見てる。いややりづらいんだけど。
急須にお茶っ葉を入れて、お湯が沸いたらしいヤカンの火を止めた。

「あれ、すぐお湯入れないの?」
「ちょっと冷ました方がいいらしいんだよ。」

これも柳先輩に教わったのである。
名前(男)はへー赤也すごい!と尊敬の眼差しで俺を見ている。いやだから常識だっつーの!(俺も柳先輩に教わるまで知らなかったけど。)

「そろそろいいかな。」

お湯を入れてから葉が開くまで少し待つ。うんうん俺やり方けっこう覚えてるな。

名前(男)はへーとかふーんとかとにかく感心しきっていて微妙に気恥ずかしい。

つかお茶淹れるだけなのに何でこいつ感動してんのかわからん。

お茶を湯飲みに注ぐ。最後の一滴が美味しんだ確か。これも柳先輩に以下略。


「あ、パンダ特集見なきゃ。」

名前(男)はテレビをつけるとそのままソファに座った。
って言うかさっきも少し思ったけどパンダ特集ってどうなんだよ男が一生懸命見るテレビとして。

「ほい、お茶入ったぜ。」
「ありがとう。」

言いながらも名前(男)はテレビから視線を逸らさなくて何かイラッときた。お礼くらい目を見て言わんか!!

「あ、美味しい。」

いや、うん。美味しかったならいいけどこっち見て言おうな。

名前(男)がテレビに釘付けなので仕方なく俺もテレビに目をやる。
…確かにパンダ可愛い。

番組としてはひたすら子供のパンダが転がってたりじゃれあってたりするだけだったが何かめちゃめちゃ癒された。

「パンダ可愛いな…。」
「でしょ?」

思わず呟くと目をキラキラさせた名前(男)が反応した。何だお前。

「じゃあDVD見る?」
「おう!待ってました!」
「用意するからお茶お代わり淹れて。」
「あーはいはい。」

こいつを見てて気付いたことは、好きなものはとことん好きになることと、意外によく笑うこと。何だかいつも無口で無表情だと思っていたけどけっこうニコニコする。

お茶のお代わりを淹れて持って行くと今度は名前(男)は俺の目を見て言った。

「うん、ありがとう。」

……そんで、こいつにキラキラした目を向けられるのが案外嫌いじゃないことに気付いた。
…………くそう、イケメン死ね。


End







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