酔狂なはなし。

跡部景吾/男主友情未満



物心ついた時、俺は女になりたかった。

丸みを帯びた体つき、俺には決して出せないような声、歩くたびにさらさら揺れる髪。

どれもこれも男の俺には備わっていないもので、それがひどく羨ましかった。


例えば、俺が綺麗に綺麗に髪を伸ばして、肌の手入れをして、爪にマニキュアを塗りたぐって、睫毛をつけてみたとしても女にはなれない。

クスクス笑う。
秘密を共有しあう。
そんなことがしたかった。


俺は女にはなれないが、中性的な顔つきをしていた。


氷帝は基準服はあっても制服は無いので、毎日好きな格好をして学校へ通っていたし、周りもそんな俺に寛容だった。

「お前がこれ撮ったのか?」

そう話かけてきたのは俺の氷帝の王様こと跡部景吾。

かなり驚いたが、黙って頷いた。

「写真部の苗字名前(男)だよな?」

彼が俺の名前を知っていることに驚いたが、全校生徒の名前と顔くらい頭にいれているのだろう。

また黙って頷いた。

「お前喋れないのか?」
「喋れます。」
「じゃあ返事くらいしろよ。」

怒らせたかと思ったがあまり気分を害したようにも見えなかったので少し安心した。

彼が指さしたのは俺が撮った写真で、女の子(と言っても俺と同い年)が二人で指を絡ませている写真。

この二人はレズだ。
一見そうは見えない、でもよくよく見れば二人がひどく幸せそうにしている写真。

俺の最高傑作だとさえ思っている写真。


「よくこいつ等が許したな。」
「え、」
「こいつ等付き合ってんだろ。」
見ればわかる。

少し口角をあげながらそういう彼は様になっていた。

「……幸せそうじゃねーか。」

彼は少し目を細めてからそう呟いた。
この写真の片割れの人は、昔彼と付き合っていたらしい。

「…えぇ、すっごく。」
「そうだよな。」

伏せ目がちに呟くと、彼は手に持っていた写真を真ん中から破った。

「……むかつく…。」

苛立たし気に舌打ちを一つ。


「こんな写真撮ってないで、今度は俺様を撮れよ。」


何だ、この傍若無人な人。

自分の目の前で自分の撮った作品を破かれて、ムッとした顔で彼を見た。

「これ以上のものなんて撮れませんよ。」
「あーん?俺様が被写体になってやるって言ってんだ、いくらでも撮れるだろ?」
写真部の変わり者、苗字名前(男)くんよ。

あまりに自信たっぷりに言われて頭に来たので、一つ言い返してやろうと思った。

「じゃあ先輩、スカート履いてくれます?」
俺女の子しか撮らない主義なんで。

途端にしかめっ面になった彼を見て、愉快になる。


俺もスカート履いて撮影しましょうか?そうだ、それがいいや。

女みたいにクスクス笑いをした。

「お前だいぶ頭いかれてんぞ。」
「そりゃ、俺は写真部の変人ですから。」

ニコニコしながら言い返すと、意外にも彼はフッと笑みを漏らした。

「酔狂だな。」
「すいませんねー。」

気持ち悪い、と言われても別段気にならない。

「…面白ぇなお前。」

彼はホントに楽しそうに笑った。


End

あとがき







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