Dead or Die?
幸村精市/女主
もう、ほんとに。
この女どうしてくれようか。
俺の彼女こと苗字名前(女)は、本当に何度も何度も俺をイライラさせてくれる。
告白だとわかりきった場面で他の男にノコノコついていったりだとか、
テニス部の応援に来たかと思ったら夢中で女テニに声援を送っていたりだとか。
しかも一番むかつくのは、名前(女)は俺がワガママだと思っていること。
恋人同士というのだったらもう少し、俺に夢中になってもらいたい。
俺は自然なことを要求しているだけなのに。
今回だってそうだ。
「もうさ、精ちゃんワガママ過ぎ。わたしだって付き合いとか事情とか、いろいろあるんだからね。」
まったく反省した様子がない名前(女)を見て、どうやってお仕置きしてやろうかとかそういう考えが頭をもたげる。
事の起こりは、こうだ。
名前(女)のクラスで調理実習があったらしい。
作ったものは各自でラッピングして持ち帰って良いというものだったそうだ。
それならば、何を作ったにせよ俺にまず渡すべきだろう。
『精ちゃん、これ調理実習で作ったんだけど…食べてみてくれる?美味しくなかったらゴメンね…。』
俺だって一人の男だ、そんな様子を想像しなかったと言えば嘘になる。
上目遣いで少し緊張した面持ちで俺を見つめる名前(女)、と思うと俄然元気が湧いてきた。
のに。
「名前(女)、今日調理実習だったんだろ?」
「え?!よく知ってるね…アハハ。」
軽く話題に出しただけで挙動不審になる名前(女)を見ていやな予感がした。
俺のこういう予感は9割9分当たるんだけどね。
「どうかしたの?」
「べべべ別に何でもないよ。」
「俺にくれないの?」
「あ、あれね、食べた!自分で食べちゃったの!」
「えー、そうなの、残念だな。名前(女)が作ったの食べたかったな。」
「また今度作るね!そしたら精ちゃんに一番にあげるから!」
「ふふ、あんまり期待しないで待ってるね。」
「ひどっ!」
少しショックではあったけれど、それでもまだこの時点で俺の機嫌は悪くなかったのだ。
食いしん坊の名前(女)らしいな、とほほえましくすら思っていたのに。
「よー苗字!さっきのやつめっちゃ美味かったぜ!ありがとな!」
ガムを食べながら歩いてきた赤い頭のこの一言で俺の機嫌はジェットコースター並みに、垂直に落下したのだ。
「どういうこと?」
「いやその、何と言いますか…。」
「俺にはくれないのにブン太にはあげるんだ?」
「ちょっと事情があって…。」
「事情?ふうん、それなら恋人よりも他の男を優先させるに値する事情がどんなものか聞かせてもらおうか。」
俺たちの会話を聞いてどうやらマズイと理解したブン太はそそくさを逃げていった。
「あ、逃げられた…!」
「名前(女)、今はこっちの話をしてるんだよね?」
「そそそそうですね…。」
「それじゃあ、事情を聞かせてくれる?」
疑問系だがもはや命令に近い口調で言うと観念したらしい名前(女)はポツポツと話を始めた。
統合すると、名前(女)の友達がブン太を好きらしく、調理実習で作ったものを渡したいのだが一人で渡す勇気がないので名前(女)も一緒に渡してほしい、と言われたらしい。
「そこは断るべきだろう?」
「でも、あまりに必死だったから断れなくて…」
「ふぅん?名前(女)は相手が必死だったら断れないの?付き合ってって迫られても断れないの?」
「それとこれとは論点が違うよ!」
「違わないさ。だってそういうことだろう?」
「ぜんぜん違うってば!」
そして俺が厳しく言及したので出たのが最初の一言だというわけだ。
もう完璧に切れそうになった。
ワガママだって?これが?
名前(女)がすごくすごく反省して、次は俺にちゃんとあげる、って約束してちゃんと俺の言うことを聞いてくれたら許してもいいとは思ったけれど。
「そういうこと言うんだ?」
にっこり。
そう呼ばれるにふさわしいであろう表情を浮かべて名前(女)を見ると、ものすごく不安そうな顔をしている。
「いや、嘘。今の嘘。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」
「嘘?俺に嘘を言ったの?」
「いや、あの、その、ごめんなさい」
「俺は傷ついたよ。名前(女)ときたらいつでも俺がワガママみたいに言うし。恋人同士なんだから、多少束縛したっていいじゃないか。」
今まで思っていたことと併せて伝えると、名前(女)はぽかんとした顔をしていた。
「なに、その顔。」
「う、ううん。精ちゃんがそうやってハッキリ言ってくれるの初めてだからびっくりした。」
「え?」
「だって、いつも何も言わずに不機嫌になったりご機嫌になったりするんだもん。」
「そんなことないよ。」
「ホントにそう思う?」
いつも急に不機嫌になったり、かと思うとご機嫌になったりするんだもん。
わたしだってちゃんと言葉にしてもらわないと伝わらないよ。
でも、精ちゃんがそう思ってくれてるのがわかって嬉しい。
ふわっと笑われて毒気を抜かれる。
……確かに、俺は言葉が足りなかったのかもしれない。
「…俺は嫉妬深いんだ。」
「そうみたいだね。」
「いつも俺だけ見てほしいって思うよ。」
「うん。」
「だから、もう少し名前(女)は俺を大切にして欲しいな。」
「…頑張るね。」
「うん。」
「わたしも、精ちゃんが好きだからね。」
「うん、そうだね。」
なるほど、俺たちは少しすれ違っていたのかもしれない。
「だったら、お仕置きだよね。」
「うぇ?!」
「だって、そうだろう?俺は独占欲が強いんだから。」
「いや、いやいやいや。」
「俺は傷ついたからね。」
何となくうやむやにされそうだったからはっきり宣言する。
「名前(女)も俺が好きなんだから、甘んじてお仕置きを引き受けるよね?」
さて、名前(女)はどんな返事をするにせよ。
多分、俺の思う通りになる気がした。
「精ちゃん、ズルいんだけど…。」
End「あ、ブン太。」
「ゆゆゆ幸村くんどどどどうした?」
「グラウンド何周走りたい?」
「………………。」