手を合わせて

丸井ブン太/男主



「俺、今日誕生日なんだよね。」

えーっと。
話したことも無いクラスメイトにそう言われた場合どうすればいいのでしょうか。


丸井ブン太。
彼はいつもお腹を空かせている。
そして彼は女の子にモテる。
頭は良いとはいえないが普通。
顔が良い。
とても強いテニス部のレギュラーだとか。

これが俺の知っている丸井の情報。
それ以外、例えば性格だとか好み趣味なんかは全く知らない。
そんな感じだったのだ。

「え、シカト?」
「あ、いやおめでとう。」
「さんきゅっ。…ん。」
「…?」

とりあえずおめでとうとだけ言っておいた。

しかし彼が差し出した手は引っ込められることはなく。
いったい何のつもりだろうか。

「…いや、プレゼント。」
「は?」

なんつー図々しさだコイツ。
というか俺は今日知ったんだぞお前が誕生日だなんて。

「しょうがねぇなぁ、これで我慢してやるよ。お前いっつも美味そうなモン食ってるから気になってたんだよ。」

そう言いつつ奴は俺の昼食に目を向けた。

―――なるほど、そういう事か。


俺の家はパン屋兼ケーキ屋のようなことをしている。
そのせいで俺の昼食は毎日パン。
サンドウィッチやホットドック、それに店で人気のメロンパン。
購買で買うよりもずっと美味しいと我ながら思う。

「欲しいの?」
「くれんの?」
「…いいよ、何が欲しい?」
「コレ!」

そう言って奴は俺のメロンパンを持っていった。

帰宅部であと2時間程度で学校が終了する俺にとってはパンが一つ減ろうとあまり腹具合に影響はないのでほうっておいた。


しかし今日はなんだか変な日だった。

学校が終わって帰ろうとしたら、担任に捕まって資料整理を命じられ。
それが終わったので帰ろうとしたら教室に忘れ物をしたことに気づき、
教室に入ろうとしたら誰かが誰かに告白しようとしている真っ最中だった。

…うわぁ、ついてねぇ。
そして腹減った。

そのまま帰るわけにも行かず、ドアの前でうろうろしていたら向こう側からドアが開いた。
出てきたのは、泣いているらしい女の子。
その子は俺を見ようともしないで廊下を走っていった。

教室の中を覗くと、中に居たのは丸井。


「苗字じゃん。どったの?」
「いや、忘れ物を…。」
「マジで?てゆーかお前こんな遅くまで残ってるの珍しいな。」
「何かいろいろあったんだよ。」
「ふーん?」

ガムをぷくぅっと膨らませながら手元で何かをもてあそんでいる。

「何それ?」
「さっきの子がくれたんだよ。」
「あ、そう。」
「…お前がさっきくれたパン、どこの店の?すげー美味かった。」
「ウチの。」
「ウチの?」
「俺の家パン屋なんだよ。」
「マジで?!だからお前いっつもなんかいい匂いしたんだ!」
「嗅ぐなよ…。」
「何かさぁ、最近女の子たち、俺にお菓子をたくさんあげれば付き合えるって勘違いしてるらしいんだよな。」
「…?」
「俺はグルメなの。」

何か、コイツ脈絡が無いな。

「お前美味しそうなんだよなぁー。」

不意に丸井が近づいてきたかと思うと、そのまま頬をべろっと舐められた。



…は?


「うーん、やっぱ甘くない。」
「あ、たり前だろ…!!」

あまりのことに動揺して思考が正常に働かない。

「いや、お前美味しそうだなーってずっと思ってたんだよな。でも甘いわけじゃないんかー。」
「お前大丈夫か?」
「お?大丈夫だぜ?」

あまりに当然の事のように言うのでこっちが逆におかしいのかと思ってしまう。


…いやいや、そんなわけない。

「でもマズイわけじゃねーんな。」

ニヤッと笑ったかと思うとそのまま唇ごと舐めあげられたのでさすがに殴っておいた。

「何すんだよ!」
「正しい反応だろうが!何してんだお前!」
「舐めただけじゃん。」
「だけって…!」

何と言ってやろうか考えてぐるぐるしているうちに再び丸井が近づいてきたのでガードする。

「別にもうしねーから。」
「信じられるか!」
「ひっでーな。……なー、お前の家行かせてよ。」
「嫌だ。」
「何でだよー、常連になるぜー?」
「帰れ!」
「やだー。」


何度も抵抗を試みたが一向に聞きやしない。
とうとう家までついて来てしまった。

「おー、ここが苗字の家かー。」
「もう帰れよお前…。」
「えー、せっかくだし何か食って帰る。」

丸井は少し店の中を巡回したかと思うと、ケーキの入ったショーケースに釘付けになった。

「何だよ、ケーキもあるのかよ!」
「だからなんだよ…。」
「言っただろぃ?俺今日誕生日なんだぜ!これ買う!」

コイツのことだから家にもホールケーキはあるだろうに、またさらに買っている。

…あぁ、そのケーキは確か。


「それ俺が今朝焼いたやつ。」
「嘘、マジで?」
「もう古くなってるし持ってけよ。」
「やりぃ!マジかよ!」

大袈裟なまでに喜ぶ丸井を見るとこっちまで嬉しくなる…わけない。

落ち着け、俺。
コイツにさっき何をされたか思い出せ。

「お前の誕生日には俺がケーキ焼いてやるよ。よく作るんだぜ。」
「いいよ別に。」
「俺がしたいの!」
「あーはいはい。」


この短時間で、丸井がどういう人間だかわかってきた。

わがままで俺様。
好きなものはケーキ。
趣味はお菓子作り。

別に知る気は無かった情報だというのに。

「なーなー、明日コレとコレ持ってきてくんね?金は払うからさ。」

メロンパンとカレーパンを指差しながら言ってくる。
別に拒否してもいいのだが。

「…わかった。」

気づいたら頷いていた。


何でだか明日から楽しみだと思った俺はコイツのペースに流され始めているのかもしれない。

コイツに舐められた頬と唇が異常に熱かった。


END

ブン太誕夢。

HAPPY BIRTHDAY!!!!






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