わからないのは貴方です



皆さんこんにちは。
電車で席が空いていたら迷わずサラリーマンの隣に座るオジコンガールこと苗字名前(女)です。
真田君にアプローチを始めてからはや1ヶ月。

状況は、間違いなく良くなってると思うんだ…!


メールの返信は相変わらず遅くて簡素だけどそんなところも可愛くて大好きだ…!

もう背中を見ているだけで満足していた自分がアホらしいわ。
今、わたしすっごく幸せ!


……だったのだけれど。

やっぱり人間は強欲な生き物でして。
もっとお話したい!
もっと仲良くなりたい!
そんな欲望が渦巻いて止まらないのです。

欲張りでもいいじゃない、人間だもの。

どこかのみつをのようなことを考えていたが、落ち着こう。今は授業中。
クラスの違う真田君と唯一同じ選択科目。
ちなみに歴史。
真田君が取りそうだと思って取ったらビンゴでした。

合法的に(?)真田君の背中が見れるビッグチャンス!!
これを逃す手は無いでしょーがわたし!

そう思い直して再び真田君に集中する。
授業なんかもはやBGMに過ぎないわ!

先生が板書する度にノートに記入していく真田君。
授業態度ももちろん真面目。模範生過ぎるわ…!

時折顎に手を添えて考えこんでいるようだ。
うんうん素敵!!

ニヤニヤとうっすら笑いながら眺めていて、気づいたら授業が終わっていた。

うーん、早いなー。

ついでにチャンスだから真田君に話しかけに行こう!

「真田くーん。」
「苗字か、どうかしたのか?」

用事はありませんが貴方の声が聞きたかっただけです。

「え、えーっと、さっきノート取りきれなかったところがあるから少し写させてくれる?」
「たるんどるぞ苗字。そんなに早いペースでは無かっただろう。」

すみません貴方の背中が素敵なのが悪いんですが。

「ちょっとぼーっとしちゃってさ。」
「まったく…次は気をつけろ。」

そう言って結局ノートを貸してくれた。
せっかくだからここで写しちゃおうと思って自分のノートを広げたら真田君が眉をひそめた。

「全く書いていないではないか!」
「え、あ、そうかな。」
「授業中何をしていたんだ!」

貴方の観察ですとか言ったら張り倒されそうだったので苦笑いをしておいた。

「あ、あの、わたしこの教科あんま得意じゃないんだ。だから理解するのに時間かかっちゃって…。」

我ながらナイス言い訳!歴史に理解するとかあまり無い気がするけど気にしたら負けだ。
言った事も全部嘘というわけではない。
わたしは理系科目が得意な人間だから、歴史のような暗記系科目はどうも苦手なのだ。


「それならばわざわざ選択で取る事も無かろう。」
「え?!いや、あ、あのー、苦手を克服したいなー、なんて。」

……我ながら少し苦しい言い訳だなぁと思ったら真田君がハッとしたような顔をした。

「そうか、そういう選択もあるのだな!」
「へ?」
「俺は今まで選択科目は得意科目しか取っていなかったが、もっと視野を広げねばならんな。」
「え、あーそうだよね。」
「苗字、俺はお前のおかげでまた一つ精進出来た。恩に着るぞ。」
「ど、どういたしまして…?」

何だか真田君はこの言い訳がいたく気に入ったようだ。


次の日、授業の準備をしていると柳君が近付いてきた。

「なに?真田君がどうかしたの?」
「まだ弦一郎絡みとは…。」
「だって私たちその話しかしないじゃん。」
「確かにそうだな。昨日弦一郎に選択科目の選択方法についてアドバイスしたようだな。」
「何か語弊がある気がするけど大体そういう事かな。」
「弦一郎がたいそう気に入っていたぞ。苗字の事を誉めていた。」
「マジ?!やったね!」

わたしへの評価も上がったということかな!

行き当たりばったりの人生だけど色々結果オーライだよね!


そう思ってウキウキしていたのに。

「しかし苗字はそれで良いのか?」
「え?」
「弦一郎は後期の選択に何を取るかわかりづらくなっただろう。」
「あ………いやでも、何を取るか聞いたらいいじゃん!」
「聞けるのか?」
「…勇気が出ません。」
「もし聞いたとしてもあまり参考にはならないだろう。」
「何で?」
「弦一郎は苦手科目が無い、と自称しているからな。ガイダンス後にその場で決めて提出するだろう。」

立海の科目選択のシステムは、まず科目の発表があってからその場でガイダンスを受けて、すぐに決めるというものだ。
何でも周りと相談する時間を作らずに「自分に」必要な科目を取れるようにするためらしい。

「今まで弦一郎は必ず歴史を選択していたが、恐らく次は歴史以外ということしかわからないな。」
「……もしかしてわたし、墓穴も掘ったの?」
「恐らくな。」
「いやいや、柳君なら真田君が何を取るかくらいわかるよね?!」
「確かにそうだが、」
「じゃあさ!」
「100%では無いので何とも言えないな。嘘を教えるわけには行かない。」
「ええー確率が一番高いのを教えてくれればいいじゃん!」
「それは俺のプライドが許さない。確実な情報しか教えたくないな。」

こ、この完璧主義が…!

「そして弦一郎は苗字は再び歴史を選択すると思っているぞ。」
「何で?!」
「今回の件で苦手である事を知ったからな。克服するまでは歴史を取るべきだろう、と言うことだ。」

あうう…真田君らしいけども…!

「わたしが別の教科取ったらどう思うかな…?」
「まだ苦手が残っているのに次に進むとは…と思われるだろう。」
「…………。」

なんということでしょう

「次のテストで歴史が高得点ならばいい話だろう。」
「うー……頑張ります…。」
「弦一郎に教えてもらったらどうだ?」
「ええ!そんな勇気無いよ…。」
「俺から話をしても良いが。」
「よろしくお願いしまーす!!」
「………。」

いやぁ柳君いい人!

「まぁあまりに出来が悪いと弦一郎の雷が落ちるだろうから自分で復習もするんだぞ。」
「わかりました!」

テスト前に真田君と一緒にお勉強なんてわっくわく!
早くテストにならないかな!

いつものわたしなら考えられない事を思いながら次の授業に臨んだ。

選択じゃないのに歴史なんて最悪だと思うけど、真田君に呆れられたくないのですっごく集中できて、
普段すぐ寝るわたしを知っている先生にしきりに保健室へ行かないか勧められた。
……失礼な…。

そこ!わたしが保健室を勧められるたびに笑うんじゃない柳君!!


END


「真田君、柳君から話聞いた?」
「あぁ。俺で良ければ力になろう。しかし…」
「ん?どうしたの?」
「赤也にも勉強を教えなければならなくてな…。」
「…………。」
「3人で構わないか?」
「ぜぜぜ全然大丈夫!!」
「そうか、それは良かった!」







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