攻められるきのこ。
「ひよー!日吉ぃー!!」
大声で俺を呼ぶ彼女を、どうか止めてくれ。
苗字名前(女)は俺の同級生で幼馴染。幼稚園のときから毎年クラスが一緒である。誰の陰謀だろうか。
顔は…綺麗な方。パッと見は清楚。
ただ性格はちょっとアレだ。
「大声で呼ぶなっつってんだろ!」
「まーまー、怒らないでよ、ヒヨちゃん。」
「その名で呼ぶな…!」
俺と名前(女)は何故か恋人同士として見られている。
もちろん違う。違うに決まっているだろう。
「というか何でお前がここにいるんだ。」
ここ、とは昼休みの屋上。
「今日はお昼皆で食おうぜ!」とおかっぱの赤い頭の先輩に言われ来てみたら何故か名前(女)もいたのだ。
「あぁ、俺らが呼んだんや。」
「長太郎が日吉に彼女いるって言ってたからな。」
「…彼女?これが?」
「えっ違うの?」
「違う。こんな破天荒な奴を彼女にできるほど俺は人間として出来ていない。」
「ヒヨ、ちょっと言いすぎかな。」
名前(女)が口を挟んできた。自然と皆が名前(女)に視線を寄せる。
「本人がいる前でそういうこと言うの良くないねぇ。前に日吉君がわたしのおうちにきたときにしちゃったこと、バラしていいの?」
にんまり、と笑う悪魔の化身。もとい俺の幼馴染。
…名前(女)は俺の弱みを握っている。それも5,6個。
「何だよ、日吉何しちゃったわけ?!」
「えーっとですねー。」
「言うんじゃねぇ…!」
こいつの性格の悪さは俺が保障する。
超、が何個つくだろうかカウントしてみたい。
「というか二人は本当に恋人同士じゃねぇの?」
「「違います。」」
「綺麗にハモってるくせして何言うてるん自分等。息ぴったりやし、お似合いやで。」
「何でわたしがこんなキノコヘアーの彼女にならなきゃいけないんですか、嫌ですよ。」
「俺だってこんな人の弱みを握ってゆする彼女なんていらないです。」
「昔っから目つきも悪いし嫌味な性格だったんですよ。」
「昔から嫌味な性格だったのはこいつですよ。初めて弱み握られたのは俺が5歳のときですよ5歳!」
「はっ何かあると下剋上下剋上うるさかったから仕方ないんじゃない。」
「人の座右の銘を否定するような奴に言われたくないな。」
「…いや、十分、仲良しさんやろ…。」
呆れたように言う忍足さんを見てふと我に返る。
…なんだこの周りの温かい目は。
「いつもクールな日吉が口喧嘩してる時点で珍しいだろ!」
「しかも名前で呼んでるし。」
「幼馴染、いうなんともGoodなポジションやん。」
…だから、違うって何回言ったらわかるんだ。(最後の忍足さんのセリフは微妙にかみ合ってないし。)
「だから…っ」
違うんだ、と言いかけたところで都合よく予鈴がなって皆撤収してしまった。
二人で教室に戻る途中。
「ねーねー日吉君。」
「何だよ。」
「わたしたちって恋人同士に見えるのかなぁ?」
「さぁな。」
「ヒヨは、わたしみたいなのが彼女だったら迷惑、かなぁ?」
「な、に言ってんだよ。」
どうしたんだこいつ。
うつむきながら言う名前(女)につられて足が止まってしまった。
「ね、迷惑?」
「別に、迷惑とかじゃ、ないけど…。」
じっと見上げられると妙に緊張する。
何だこの空気。意識してしまうと心臓の音がうるさくなり顔が赤くなったのがわかった。
片手で隠したが絶対に気づかれただろう。
……ピロリロリン。
…この音は…
「やった!赤面する日吉君、げっつ!ファンに高値で売りつけてやらなきゃ!」
カメラのシャッター音…!!
こいつを殴りたいと思ったのは何回目だろうか。
「名前(女)、貴様どうなるかわかってるんだろうな…!!」
「ごめんごめん、アハハハハ!」
謝るなら笑うな!
…でも、さっき心臓が高鳴ったのは事実で。
「え、ちょっと黙らないでよ、マジで切れた?ごめんってば!消すから!」
名前(女)もタチが悪いが、その名前(女)にずっと前から惚れている俺はもっとタチが悪い。
見てろよ、絶対惚れさせてやる。
End