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柳のお姉さん捏造していますご注意



さて、以前俺が柳を怒らせたことがあることを覚えているだろうか。
あの時の柳の怒りは静かな怒りだった。
柳は声を荒げて怒るタイプではない。
だから静かに淡々と怒っていて、それがとても怖かったのだ。
あの時は思いっきりガツンと怒られた方が良かったと思った。

…うーん、今はどうだろうか。
どっちもどっちだと思う。
怒られるのは好きじゃない。


「………ねー柳、どいてよ。」
「断る。」

柳の家に遊びに行って、柳のお姉さんに会った。
(凄い綺麗な人で一瞬ときめいたけど、俺の隣に立ってる柳の方が俺は好きみたいだ。)
そのまま離れにある柳の部屋に行って、少し話をして、最後までやってなかった数学の宿題をやらされて、抱き着こうとしてガードされて、さて帰ろうと思ったところで押し倒された。

「え、なに?」

最初は本気で、珍しく柳からスキンシップをしてきたのかと思った。
だけど柳の目を見て、違うと直感した。柳の目……いつも閉じられた切れ長の目は何故か怒っているように見えた。

「柳?」

俺なんかしたっけ、と自分の行動を思い返してみたけど特に何も思い浮かばない。

「ねー、どうしたの?」

床に二人して寝転がる体制なので柳の髪が俺の顔に少しかかった。つまりそれくらい近いってことだ。

無言でどんどん近づいてくる柳に危機感を覚えた。

「え、あの、柳サン…?」

……な、なんかこう、今にもキスをしそうな体制だからドキドキした。だって普段は俺からしかしないし、柳はいやいや受け入れてるのかと思ったから。

柳はさらに近づいてきた。うわぁ睫毛超綺麗です柳さん。
なんかよくわからなくなって思わず目を閉じた。息がかかるくらい近い。



………。


…あれ、なんかこう…、柳の感触的なものを感じるかと思ったんだけど…、あれ?

恐る恐る目を開けてみると、柳は相変わらず近かった。
よく見ると口角が上がっている。つまり、笑っているということだ。

「…もー!なんなんだよさっきから!」
「あぁすまない。苗字はこういうことに慣れているのかと思っていたが、そうでもないみたいだな。」
「こういうことって?キスとかハグとか?」
「あぁ。てっきり俺は苗字は経験豊富なのかと思っていたぞ。」
「まさか!柳俺のあだ名知ってるでしょ?宇宙人だよ。彼女も彼氏もいたことなんてありませんー。」
「そうか。…あぁ、ところでお前、姉さんに髪飾りを渡すんじゃないのか?」
「…そういえば。」

柳がやっと俺の上からどいてくれたので起き上がってカバンを開けた。
綺麗に包装しなおした銀の髪飾りを取り出す。それから柳のお姉さんを思い出した。あのサラサラの黒髪によく似合うだろう。まるでこのために作ったみたいに。

でも、と思い直した。
初対面の人から髪飾りもらってうれしいもんなのかな。不審者だと思われそうだ。

「ねー、やっぱ柳から渡しといてよ。」
「それは承知できないな。」
「なんでよ!いいじゃんいけずー。俺が渡したら変じゃない?ほら!」

多少強引に渡すと、柳はすごく嫌そうにそれを受け取った。
それから少しの間その包みを眺めていたかと思うと、いきなり包装を解き始めた。

「…ちょっと、なにしてんの?」
「なぁ、苗字。やはりこれは俺にくれないか。」
「いいけど?もともと柳に買ったものだし。」
「あぁ、ありがとう。」

なんか今日の柳よくわかんない。なんでだ。

「…つけないの?」
「つけないぞ。」
「えー、何で?もったいないじゃん!柳に絶対似合うって!」

勝手につけてやろうか、と座っている柳の上に乗り上げる体制になった。
すると柳が俺の体をふわりと抱きすくめた。思わず思考が停止する。
胸にぎゅうっと顔を押し付けられた。あぁ柳の匂いだ、とぼんやり思った。なんていうか、畳と、それから少しお香みたいな匂いがする。この匂いは落ち着くから好きだなんて考えていた。

「俺はお前の方が似合うと思うがな。苗字は体つきも細いから、女物の着物を着て、おしろいを塗って、紅も差したらさぞかし綺麗だろう。」

柳が俺の髪を弄びながら言った。

なんとなく恥ずかしくなって、思いっきり柳の胸に自分から顔を押し付けて、背中に腕を回した。女の子の体はやわらかいから好きだけど、男でこんなことしたいなんて思うのは柳しかいない。

「なに、柳オッサンみたい。きもちわるい。」

思いのほか甘い声が出た。うわなんだこれ。恋人に甘えてるみたいだ。

柳も言葉の内容の割に気分を害さなかったようで、ククッと薄く笑う声が上から聞こえてきた。


それから髪を何度も何度もなでられて、両手で顔を包み込まれて上を向かされた。

柳が何かを言いかけて、再び口を閉じた。

「なに?」
「いや、なんでもないぞ。」
「なんでもないってことはありえないって前に柳が言ってたよね?」
「あぁそうだな。だから相手がなんでもないというときは『お前は知らなくていい』ということだ。」
「なにそれ。余計気になるじゃん。」
「…苗字。」
「…なに。」

急に名前を呼ばれてちょっと身構える。またなんか怒られるのかな、と思ったけど違った。


「苗字、俺はお前が好きだ。」


え、今更?とちょっと思った。ぽかんと柳を見上げていると柳は続けた。

「あぁ、もちろん一人の人間として、お前が好きだ。お前の全てを知りたいと思うし、お前に欲情している。」

お前に言うつもりはなかったが、俺にはもう耐えられない。お前が好きで、どうにかなりそうだ。…苗字も俺を嫌いではないだろう。だから、もしお前さえ良ければ、考えてみてくれないか。

目の前を凄い速さで言葉が駆け抜けていった感じがした。

考えてみてくれって、何をだ。欲情とか言ってたからセックスしたいってこと?っていうか柳に性欲とかあったんだ驚きだ。

俺は多分相当間抜けな顔をしていたと思う。柳が喉の奥で笑った。

「…苗字、」
「ん…。」

何と言うか、ちょっと掠れた色っぽい声で名前を呼ばれた。それから軽くキスをされた。
頭を撫でられながら何回もされる。
くっついたままの体制なので、柳の身体が反応していることに気付いてしまった。……気まずい。
気付かないフリをしてされるがままになっていると、ちょっとだけキスがねちっこくなった。

「…ん、柳。」
「何だ?」
「今日はもうダメ。おしまい。」

両手を伸ばして柳を軽く押し返すと柳は簡単に俺から離れた。

「……今日は、だな?」
「明日もダメ。」
「では明後日に続きでもするか。」

冗談なのか本気なのかわかんないけどとりあえず笑っておいた。


その後夕御飯をご馳走になって、柳が駅まで送ってくれた。
その間の柳はいつも通りだったので、電車に乗る直前までさっきのことを忘れていた。
電車が来て、乗ろうとした瞬間に柳が一瞬俺の手を掴んだ。

「……夢ではないからな。」

そう耳元で囁かれた。
……うん、わかってますって。

電車も駅も、時間が時間だからか人はほとんどいなかったので良かった。……ちょっと恥ずかしくなった。

「じゃあ、また明日。」
「あぁ。気をつけて帰れよ。」


家に帰るとすぐに風呂に入ったり諸々の用事を済ませて布団に入った。
ちなみに俺は布団は潜る派。夏に冷房ガンガンにして布団かぶって寝るのとか大好き。あ、でもこれはマネすると怒られるからやっちゃダメね。

それで一呼吸ついたところでふと思い当たった。
今日の柳は怒っていたんじゃなくて、俺の反応を確かめてたんじゃないだろうか。
で、イケると踏んだから俺に告白した…とか。
考え過ぎかもしれないけど、柳は本当に凄いからあり得ない話じゃない。

…まぁ、何にせよなるようになるか、と目を閉じた。
目を閉じた瞬間に、至近距離の柳の睫毛やら唇やら息遣いやらを思い出してしまって、なかなか寝付けなかった。


END







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