神様違うんです
怒ったり笑ったり泣いたり、とにかく子供は永久機関みたいな生き物だと思う。
白石にもこんな時代が……いや、アイツにはなかったわ。うん。まぁ、それはええねん。
目の前の永久機関、もとい遠山金太郎くんを見ながら俺はぼんやり思った。
子供、かわええ。
「なー、自分が苗字名前(男)か?!」
下校中につい買ってしまったたこ焼きを食べていたら、知らない子供に話しかけられた。
ラケットの入ったカバンを背負っていて、彪柄のタンクトップを着ている。
知り合いではないが心あたりも無いのでとりあえず返事だけしてみた。
「え?あ、せやけど…。」
「自分、白石の恋人ってホンマなん?」
ぶはっ!と思い切りたこ焼きを吹き出すところだった。吹き出す前に喉にたこが引っかかって死にかけたけど、まぁそれよりこの真っ直ぐな目をした子供の言った内容の方が大問題だ。
「………自分、白石の知り合いなん?」
「せや!四天宝寺中テニス部一年の遠山金太郎や!」
じいっと目を見つめられて思わず反らした。
いや仕方ないやん。こんな子供に俺と白石の関係知られるってどないやねん。なんて答えたらええんや。
俺が目を反らしたと同時に金太郎くんも俺の手元に視線を移したらしい。
……ちゅーか、めっちゃたこ焼き見てる。
「…食う?」
「ホンマに?!おおきに!!」
いきなり食欲も無くなったし、何よりいたたまれなかったので余りのたこ焼きをまとめてパスする。
それからすぐに携帯を取り出して白石に電話をした。
……ワンコールで出た白石に俺は戦慄を覚えた。たまたま携帯いじってただけだと思いたい。
「もしもし名前(男)?どないしたん俺が恋しいんか?俺もめっちゃ名前(男)に会いた、」
「自分はいたいけな子供に何を話してんねん!」
「…何の話や?」
「今、遠山金太郎っちゅー子が俺んトコ来とるんやけど。」
「あぁ金ちゃんか。」
「『自分、白石の恋人ってホンマなん?』って言われたんやけど。どういうことや。」
「そのまんまやん。俺と名前(男)が恋人同士っちゅー事実を話したまでや。」
「……いや、せやけど……。」
謙也君のときも思ったけど何でコイツこんな口が軽いねん。
………いや、口が軽いというか、そんだけ信頼出来る仲間なんだってことはわかるけど、いたたまれない。心臓に悪い。
「めっちゃウマイわ!おおきに兄ちゃん!」
「おー……。」
無邪気にたこ焼きを食べているこの男の子が男同士の恋愛というものを知ってしまっていいのかと思うのだ。
「白石、あんまそういうんは人に言わない方がええと思うんやけど…。」
「何で?俺等何も恥ずかしいことしてないやん。」
いや恥ずかしいことはしたような気がするけど……うん、まぁそれはいいや。掘り下げると悲しいことになりそうだ。
「せやけど……、」
「コソコソ隠す方がやらしいわ。」
白石の言葉は真っ直ぐ俺に刺さる。
確かに白石にとって俺と付き合ってるのは何も恥ずかしいことじゃないんだろう。
「……せやけど、世の中にはそういうんがダメな人もいっぱいおるやん。白石のことを好きな人は、そんな白石を見たくない知りたくないと思うで。」
「別にどうだってええやん。幻滅されるなら望むところやし。」
「せやから……、」
俺は何を言いたいんだろう。白石は綺麗なのだ。
だからそんなこと言って欲しくない。
自分に好意を持っている人間を大切にして欲しいと思う。
「……今どこにおるん?」
「駅前のたこ焼き屋。」
「ほな今から行くわ。金ちゃん捕まえといてな。」
「おー。」
捕まえとくって何だ、と思って金太郎くんがいるはずの場所を見ると彼はもういなかった。
「……あああ?!」
慌てて電話を切り店の外に出ると、どこかへ走っていく彼が見えた。
「ちょお待て自分!!」
元陸上部の血が騒ぐぜ!と追いかけた。
……うん、まぁ追い付けなかったけどな。コイツ何でこんなに早いねん。化け物か。
そういえば前会った忍足謙也くんも早かった気がする。テニス部ってなにもんや。
幸い金太郎くんは駅前のストリートテニス場で止まったようだ。
そこで何人かと試合始めている。……うん、何か色々ツッコミたかったけど何て言えばいいかわからなかった。
「ん?兄ちゃん追いかけて来たん?」
「白石が自分のこと捕まえといてくれって……。」
「えー、白石来るん?イヤやー。」
「何で?白石嫌いなん?」
白石が嫌われてるなんてびっくりだ。
「嫌いやないけど毒手が……。」
「毒手?」
「毒手知らんのん?焼けた砂と……、」
「あぁ、マンガの…。白石の腕ってそうやったんか…。」
「せや!兄ちゃんも気ぃ付けや!」
もう絶対白石に触らんとこ。
……ん?あれ、この前あちこち触られたとき、白石は利き手=左手でしていたような。
さらに言うなら包帯は巻いてなかった気がする……。
「………俺…死ぬかもしれんわ…。」
「えええ?!何でや!」
「白石に前…毒手で触られた気ィするわ…。」
「ホンマに?!いやや!兄ちゃん、死んだらアカン!!」
「俺かて死にたくないわ!!」
「何してんねん。」
このタイミングで白石が登場した。走ってきたらしく少し汗をかいている。汗が輝くイケメン、と一瞬見惚れた。
…けど、そんな場合ではない。
「し、白石…!!」
「白石!この兄ちゃん死ぬ!」
「は?」
「ええか、名前(男)は小さい時から俺と一緒におるから、少しずつ毒手に対する抗体が出来てるんや。」
「こうたい?」
「せや。毒が大丈夫な身体になるっちゅーことや。」
「ええ、そんなん出来るんか!」
「せやで。やから名前(男)は大丈夫や。」
白石が部長の顔をしている。
俺にはいつまでも甘えてくるからあまり考えたことがなかったけど、白石も大人になったものだ。
「ほな、今日はもう帰って宿題せえ。」
「えー、宿題イヤやー。」
「そんなこと言う悪い子には……、」
「うわーっ、嘘や!ほなワイもう帰る!またな兄ちゃんに白石!」
金太郎くんはそのまますぐに帰っていった。
「……なぁ白石、毒手って…、」
「あぁ、嘘に決まってるやん。高校生にもなって信じるとは思わなかったわ。」
「…………。」
「せやけど、そんなところも好きやでっ!」
「ハイハイ。」
「………で、な。さっき電話で言うてたことの続きなんやけど。」
「…あぁ。」
「俺は、否定する奴は否定すればええと思う。俺は名前(男)が好きやし、それを公開すんのが恥ずかしいって思ったことはないわ。」
「…やから、俺は、」
「うん、せやけどな。名前(男)が傷付いたらめっちゃ嫌やねん。俺は何言われてもええけど、名前(男)が誰かに何か言われたらめっちゃ嫌や。」
「そんなん俺かて一緒や。白石が誰かに偏見を持たれるトコなんか見たくない。」
「……俺が名前(男)と付き合うてることを知ってんのは、テニス部の一部のメンバーと真知子くらいや。幸い、皆偏見を持ったりするような奴やない。……真知子も、まぁええ女やし。」
「…せやな。俺は出来ればこれ以上色んな人には知られたくないわ。」
「わかったわ、そこは名前(男)の意志を尊重する。」
「おおきに。」
白石はニカッと笑った。美形はくしゃっと笑ってもカッコイイ。うん、俺ホンマに面食いやな。
「………で、いつまで手繋いでるん?」
「は?!」
いつの間にか俺と白石は手を繋いで歩いていた。
………あれ、何だこの感じ。こんなオチとかいらんわ。
「さっきからめっちゃ視線感じたわー。まぁ名前(男)が手繋いでくれるなんて小学生以来やからめっちゃ嬉しいけどな。」
「……………。」
さっきのやりとりは何だったんだ一体。
「………もう嫌や…。」
「まぁええやん、知り合いに見られてたら『罰ゲームや』って言えば。」
「そんなん嘘でも言いたくないわ。」
「………名前(男)、俺を口説かんといて。」
「はぁぁ?!」
その後何度か手を振りほどこうとしたが、結局家までずっと繋ぎっぱなしだった。
……ホンマに、白石の毒手にやられつつあるかもしれへんわ。手がめっちゃ熱い。
END「そういえばさっきよく俺の場所わかったな。」
「愛の力やで!」
「……ええかげんGPS解除してくれへん?」
「無理。」