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「跡部さーん!俺と試合しましょーよ!」
「あーん?」

練習試合は最低でも隔週くらいのペースであるから慣れてるけど、氷帝ほどの学校とやんのは久しぶりだ。
オーダーをきちんと決めてやるときと、自由に試合して良いときとあるけど今回は後者だ。だったら強い奴と試合したいと思うだろ。

「赤也、お前は病み上がりだろう。俺が試合する。」
「ヒドイッスよ副部長!昨日は普通通りの練習させといて!」
「どっちでもいいっての。どうせなら二人まとめて相手にしてやろうか?」
「…………。」

何でこの人っていつも超自信満々なんだろうか。

「じゃあ日吉でいーや。日吉ー!」
「お前失礼過ぎないか?」
「いーじゃん俺と試合してよ。」
「……別に構わないが…。」

テニスしてる時は純粋に楽しい。集中してるとき独特の空気、相手をどう攻めていくかと巡る思考、決まった時の達成感。全部一気に味わえるなんてサイコーだ。


「ゲームセット!」

日吉との試合は快勝ってほどでもないけど勝った。前よりコイツ体力ついたな、なんて思ってると手がピリッと痛んだ。

「って…!」

見てみると、どうやらマメが潰れたらしく血が滲んでいた。

救急箱が部室に置きっぱなしなので部長に声をかけてから部室に向かった。こんなときマネージャーがいたらなと心の底から思う。
手を簡単に消毒して絆創膏を貼った(すぐ剥がれるだろうけど)。ついでに携帯チェックでもするか、と何気なく携帯を開いてみると名前(男)からメールが来ていた。

「……あれ、俺昨日練習試合って言ったよな…?」

何か急用かな、とメールを開く。

“ごめん、今日打ち上げ行けなくなった。”


「………行けなくなった…?」

用件だけの簡潔なメールは名前(男)らしいけど、色々気になる。
まず理由を言え理由を。昨日までは行く気満々だったじゃねーか。
それから、……会えるとか言ってたくせに嘘つくなよ。謝るなら謝るでもっと謝れ!
裏切られたっていうか、期待してた分ショックもでかかった。

「…名前(男)のばかやろー。」

乱暴に携帯をカバンにしまって再びコートに向かう。副部長と跡部さんの試合はまだ続いていた。

「柳せんぱーい。」
「赤也か。」
「先輩は今日は試合しないんスか?」
「そうだな、今日はデータを取ることをメインにしようと思っていたんだが。」
「俺日吉に勝ったッスよ!」
「そうか、良かったな。鉄拳制裁を免れて。」
「ですよねー!…ってそうじゃなくて!」

柳先輩は落ち着いてて頼りがいがあって大好きだ。たまに意地悪だけど。あと全部お見通しって感じがあって怖いんだけど。

「…何か解決したか?」
「え?」
「昨日、今日と赤也の様子がいつもと違うからな。」

やっぱこの人怖えな。名前(男)とのことを見透かされているようだった。

「え?あー、ハイ、まぁ。」
「いや、今までが“いつもと”違っていたのか?」
「………。」
「苗字くんか?」
「違っ!!」

しまった、と一瞬で思った。俺は感情が表情に出やすいので出来るだけ聞き流すつもりだったのに。

「………。」

柳先輩は今ので何かを察したのだろうか。心臓がばくばくしてきた。

「そうか。」
「あの、柳せんぱ、」
「俺は何も言うつもりはないから安心しろ。それより、もうすぐで弦一郎と跡部の試合が終わるぞ。」
「え、あ……ハイ。」

結局何だったんだ、と思ったけど参謀の考えが俺に読めるとも思えないので深く考えないことにした。


夕方まで練習試合、からの打ち上げ。で、名前(男)に会う。今日の俺の予定はそれだったんだけど、色々狂ってしまった。
まず練習試合が相当伸びた。副部長と跡部さんの試合がなかなか決着がつかないせいだ。結局試合を途中で切り上げて、解散になったのは5時半だった。打ち上げは5時から。まずそこでゲンナリだ。それに名前(男)が来れなくなったとか。……いや、まぁ、行くけど。

「赤也帰りマック行かねー?」
「あーすみません俺のクラス今日打ち上げで…。」
「マジ?まぁ赤也のクラス2年の最優秀賞取ってたしな。」
「え、マジスか。」
「……何でお前が知らないんだよ。」
「俺が聞きたいッスよ!!」

何で誰も教えてくれねーんだよ!泣くぞ!

「まぁそれなら早く行ってこいよ。皆待ってんじゃね?」
「俺のクラスメートはそんなに優しくはないと思うんですけどとにかく行って来ます!お疲れさまでしたー。」
「おーうお疲れー。」

学校近くのお好み焼き屋に慌てて向かった。

「赤也遅ーい!」
「悪い!部活長引いてさ!」
「とりあえず座れば?お疲れー!」

既に打ち上げを始めていたようなので店内はガヤガヤとうるさかった。とにかく腹が減っていたので適当に取り分けてもらう。

「って言うか苗字くん今日お休みなんでしょ?何で?」
「ん?俺もよくわかんねーや。いきなりメール来たし。」
「そうなんだー、残念だね。苗字くんが一番頑張ってくれたのに…。」
「まぁ大丈夫だろ。」
「名前(男)くんの私服が見れると思ったのにー。」
「……それが目当てなんだな。」

俺は部活後だから制服だったけど、周りは皆私服だった。

「二次会どーする?」

しばらく食べて飲んで騒いでを繰り返してるとあっという間に外は真っ暗になった。あ、ちなみに飲んだのはソフトドリンクだから。

さすがにこれ以上長居も出来ないのでいったん外に出ることにしたんだけど、まだ騒ぎ足りない奴等が二次会でカラオケに行きたがってるらしい。
こんな時間から未成年だけで大丈夫なのかと思うんだけど。


「赤也も行くよな?」

鮎川に当然、という表情で聞かれた。
確かに普段の俺はこういうとき率先して騒ぐタイプだ。でも、何か今日はすっげー疲れた。

「……俺今日はパスするわ。スゲー疲れてんだよ。」
「えー!赤也来ねーと盛りあがんねーじゃん!」
「悪い悪い、ホントに勘弁してくれよー。」

俺が行く気がないことがわかったのか、周りもそれ以上あんまり言わなかった。
ただ鮎川が言った一言が耳に残った。

「赤也って苗字とつるむようになってから付き合い悪くなったよなー。」


END







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