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朝、校門で風紀委員による服装検査が行われていた。
なんでも今週は毎日あるらしい。風紀委員もよくやるよな。
「たるんどる!」
あーめんどくさいな早くしてくれよ、と思ってると前から時代錯誤な言葉が聞こえてきた。
…たるんどる。どるって何だろう。たるんでる!でいいじゃん。…いややっぱそれは変か。でもたるんどるも変じゃん。たるんどる……俺も言われてみたい。
少しわくわくしながらその人の前に立った。たるんどる来いたるんどる…!
「F組の苗字名前(男)です。」
「あぁ、問題無し。時間を取ってすまなかった。」
……え、スルーなの。つまんない。って言うか風紀委員じゃないの、この人先生にしか見えないんだけど。
すれ違うときにその人の切り揃えられた髪が目に入った。わお、髪サラサラじゃんこの人。超綺麗。
こんな髪サラサラの先生いたんだ、柳に聞いてみるか、と思いながら教室に向かった。
「柳おはよー。」
「おはよう。苗字は検査に引っ掛からなかったんだな。」
「まぁねー。」
俺は基本的に校則を破ることはあんまりしない。(柳にやんわりと諌められるし)
「俺マジメだし。」
「馬鹿なことを言うな。」
柳はやれやれと首を振った。その時に髪がサラサラと揺れた。あ、この髪スゲー好き。髪の隙間から見える目とかスゲー好きだ。
ふと思ったんだけど、俺ってもしかして面食いなのかもしれない。
柳さん(俺が恋した時の柳)は慎ましそうなたおやかな美人だったし、柳自身も綺麗だと思う。
柳は睫毛が長くて超綺麗だ。髪もツヤツヤだし。何で柳は女のコじゃないんだろうか。
「柳って女のコ?」
「…………答える必要があるか?」
「やっぱ男子だよねぇ。」
「当たり前だ。」
「何で俺も男子なのかな。」
「さぁな。」
自分の髪の毛を触ってみる。あんまサラサラしてない。
柳の髪の毛を触ってみる。超ーサラッサラ。キューティクルヤバイ。
「髪こんなに綺麗なのに男子なんだー。」
「お前の男女の判断基準は髪なのか?」
「だってさー。」
柳のサラサラヘアーはどうやって保たれているんだろうか。
「柳ってシャンプー何使ってんの?」「母が京都から取り寄せているものだ。」
「それ使えば俺もそういう髪になる?」
「……なりたいのか?」
「ただの興味本位。」
「…どうだろうな、俺の髪は元々こうだからわからない。」
「元々こんなにサラサラなんだー。頬擦りしていい?」
「やめろ。」
顔を近付けたら思いっきりガードされた。ヒドイ。
「あ、そういえば、今日校門で検査してた人でさー、柳くらい髪サラッサラの人いるじゃん?」
「あぁ、弦一郎か。」
…げんいちろう。柳くらいになると先生も名前で呼ぶのかもしれない。
「あの人も髪サラサラだったよねぇ。」
「あぁ、そうだな。」
「サラサラって言うかツヤツヤ?あの人帽子取ったら天使のわっかできてるのかな。あ、でも何で帽子被ってんだろ。ハゲてんの?」
「…………髪はちゃんとある。」
「あ、そうなの。じゃあ何で帽子?」
「…信念だそうだ。」
「ふーん、へんな人。」
「お前が言うな。」
「でもあの人うらやましいなー。俺あの髪になれたらスゲー幸せだな。」
この辺で柳が一瞬むっとした顔をした。
柳は表情が無いようで案外表情豊かだったりする。
「あいつの髪は生まれつきだ。特別なことはしていないはずだ。」
「へー詳しいね。柳って先生についても詳しいんだ。」
「先生?」
「え?」
げんいちろー先生じゃないの?
「……………。」
「……………。」
脱力したようにため息を吐かれる。
それからククッと小さく笑われた。
「弦一郎はお前と同い年だぞ。」
「あはは、柳も冗談とか言うんだ。」
「冗談ではない。制服を着ていただろう。」
「着てたっけ?」
「……………。」
「髪と顔しか見てなかった。俺ああいう髪すきだから。」
「好き、か。」
柳が一瞬顔を上げて俺を見た。それから少しして再び首が振られた。
目にかかるサラサラの髪はやっぱりうらやましい。
うん、俺はげんいちろう先生の髪より柳の髪のほうが好きかも。
「あ、でも俺柳が一番すきだよ?」
「…お前は日本語をきちんと使えるようになるといいな。」
柳が俺の髪に触れた。
「俺はお前の髪も好きだがな。」
「ふうん?」
「今日の昼はどうするつもりだ?」
「んー、今日は天気がいいから外で食べるー。」
「そうか。どうせなら弦一郎も呼ぶか?」
「柳と二人がいい。」
「わかった。」
少しだけ不満そうだった柳の機嫌がよくなっていくのがわかった。
「あ、今度柳のうち泊まり行っていい?シャンプー使わせて。」
「構わない。なんなら今日来るか?」
「行くー。」
「では放課後部活が終わるまで待っていてくれ。一緒に帰ろう。」
「おっけー!」
そのあたりで始業のベルが鳴って、柳は自分の席に戻っていった。
その日、柳の機嫌はずーっと良かったので、昼休みに髪に頬擦りさせてもらおうと思った。
END