3.5
切原は話してみるとやっぱりいい奴だった。無邪気に笑ったり、どんどん話しかけてきてくれるのは素直に嬉しかった。
誰かと出掛けたときに途中で帰りたくならなかったのは初めてだ。とか言ったら重いかもしれないけど。
それに駅前のショッピングモールに来たのも初めてだった。いつも気になってはいたんだけど、一人で行くような場所じゃないし、店員さんに話しかけられるのは苦手なので敬遠していた。
そこで俺は運命的な出会いをした。パンダの凛々というキャラクターに出会ったのだ。
超可愛い。胸がドキドキする。恋かもしれない。きっと運命に違いないと思った。
「…何コレ。」
「あー、クラスの女子が持ってた気がする。何かのキャラクターだろ?」
「…超可愛い。」
「…は?」
切原はぽかーんとした表情で俺と凛々を交互に見ていたけど、結局何も言わなかった。
それから晩御飯を食べて、ゲームセンターに連れて行ってもらった。
切原はいい奴だ、と思う。
普通に友達になりたいな、と思ったところで、あぁそうだ切原にとってこれは罰ゲームの一環なんだと思い直す。俺は楽しかったけど切原はそうじゃないんだよな。
今は帰り道だ。きっとこのまま別れて、明日からはまた何も無かったように過ごすんだろう。
「…あぁ、俺の家ここだから。」
「お前けっこういいとこ住んでるのなー。」
「まぁ…うん。……あのさ。」
「ん?何?」
それなら、まぁ最後にこれくらい言ったっていいと思うのだ。
「…俺知ってたんだよね、お前があのバンド好きって。」
「え、マジ?」
「前教室ででっかい声でしゃべってたじゃん。」
「あー…そんなような気もする。」
「だから、友達になりたいなって思ってたんだよね。」
「…ふーん…。」
「だから、今日ちょっと嬉しかった。」
「お、おお。」
「切原は罰ゲームかもしれないけどさ。」
切原の表情が固まった。コイツ分かりやすいのな。
「…お前何で知って…。あの時教室いなかったくせに…。」
「クラスの女子が教えてくれた。」
「いや…それはだな……。」
「別にいいよ、じゃ。」
何でわざわざこんなことを言ったのかはわかんないけど、俺も人間だし罰ゲーム扱いされたらそりゃあ傷つく。
それだけは言っておきたかった。
「お、おい待てよ!」
切原は慌てたように俺を呼び止めた。まだ何かあんのかな、と思って振り返って様子を伺う。
「その、確かに悪かった…ごめん。」
「…………。」
「でも、お前と友達になりたいのはホントだし、…何つか…。」
「ホントに?」
無意識のうちにそう答えていた。
「え?あ、あぁマジで!」
「…そっか。あのさ、切原。」
「ん?」
「メールアドレス教えてくれる?」
自分からアドレスを聞くのなんて初めてだから少し緊張したのだけど。
「おう!って言うか、もう友達なんだろ?俺切原って呼ばれるのあんま好きじゃねーから、赤也って呼べよ。」
「うん、分かった。じゃ俺も名前(男)でいいよ。」
笑顔で答えてくれたので安心する。切原、改め赤也が笑ったとこは何となくラッさんに似てると思った。
友達が出来たのも嬉しいし、凛々に会えたことも嬉しい。俺は一度に嬉しいことが重なると不安になる性質なんだけど、今は純粋に嬉しいという感情だけだった。
家に帰って自分のベッドに横たわる。父親が帰ってくることは稀なので今更気にならないけど、自分以外誰もいない家ってのはなかなか広くて暗い。父親はいつも月の始めに帰ってきて、1ヶ月には多すぎるほどの生活費を置いてまた仕事に行く。母親は彼氏がいなくなったときだけ思い出したように俺に連絡してくるけど、少しするとまた連絡がつかなくなる。
別に親と上手くいっていないわけじゃないんだと思う。父親とはたまに話すけど、忙しいから邪魔してはいけないっていう刷り込みのようなものがあるから自分から連絡しないだけだ。
……そういうのを上手くいっていないって言うのかもしれないけど。
赤也にメールとかしようかな、と思ったけど何となく気が咎めた。父親だけでなく、人に自分から連絡を取るのは苦手みたいだった。
メール来ないかな、と思ったけど携帯は一向に何も受信しなかった。
やっぱ赤也のあれはリップサービスっていうか、勢いだったのかな。
昨日までなら全然気にならなかったことが気になる。人間関係はめんどくさいと思って携帯の電源を切って寝た。
END