例えばきっとこういうの



柳君聞いてくださいよ

どうした苗字

昨日真田君と二人で帰って来ちゃった☆

それは良かったな

でも真田君真面目だよねぇ。わたしの家まで来たら即バイバイ。立ち話すらナシ。これって脈ナシ?

弦一郎の性格はお前が一番知っているだろう。あれが寄り道するような性格に見えるか?

いーえ全く。わたしそういうとこ好きになったんだもん

だろう。だから安心しろ

柳君いい人。真田君いなかったら惚れてたわ

弦一郎がいて良かった

どういう意味よ!!

詳しく説明して欲しいか?

ゴメンいらないです



苗字と蓮二は仲が良い。同じクラスというせいもあるだろうが、苗字は悩みは全て蓮二に相談しているようだし、蓮二は蓮二で苗字をからかうのは楽しそうだ。
蓮二はあれで人をおちょくって楽しむところがあるので、苗字のような打てば響く反応を示す人間は面白いのだろう。苗字も蓮二のデータや分析力等、頼りになる部分は多々あるのだろう。
だが、苗字は俺に好意を抱いているはずだ。それなのに本人の前でこういった会話を展開するのは如何なものか。

「弦一郎?」

いや、そもそも俺はそんな細かいことを気にする人間だっただろうか。もっと広い視野を持たねば…、

「真田君?」
「あぁすまない、何だ?」
「だから、来週の日曜日暇?」
「来週は確か…、」
「部活は午前中のみの予定だ。」
「あぁそうだったな。午後は祖父の弟子だった方が運営している剣道場に行く予定だ。」
「………そっか。」

苗字はそれからまた蓮二のもとへ行ってしまった。蓮二に何か泣きつくような動作をしているように見える。

もしかしたら苗字は本当は蓮二が好きで、蓮二に近づくために俺の名前を出したのではないか、とつい思ってしまった。
その思いはひどく重く俺にのしかかってきた。
昼休み、蓮二に昼食を一緒に食べようと言われてやってきた食堂にて、俺は生まれて初めて食事を少し残した。


大体、苗字は最初から少しおかしかったのだ。
蓮二を笑わせることが出来た女、という噂で初めて苗字を知った。苗字は周りと少しずれているようだが、それでも決して嫌な性格だとか悪い奴というわけではない。頭も悪くなく、以前赤也に勉強を教えた際にはとてもわかりやすい説明をしていたのを記憶している。
そんな女が俺を好きだという。
俺の何処が好きなのかと尋ねたことはないが、今はそれがひどく気になる。

蓮二と一緒にいるときの苗字の表情はくるくると忙しなく変わる。
笑ったかと思えば怒り、悲しんでいるかと思えばすぐ笑いだす。それは魅力的だったが、なぜ俺といるときにはそうならないのだろうか。今もそうだ。蓮二に泣きついていたはずが、すっかりご機嫌でケラケラ笑っている。
………苗字は、何が決め手で俺を好きになったのだろうか。


「気になるか?」

放課後、部活前の部室にて、蓮二にそう言われた。
俺の親友はとにかく鋭い。それが有難いときもあれば困惑するときもある。今は後者だ。

「……何がだ?」

自分でもわかっていながら蓮二に質問を返した。

「質問を質問で返すのはやましいことがある証拠だ。苗字が気になるか?と俺は聞いている。」
「……何故俺が苗字を気にしなくてはならないんだ?」
「簡単だ。お前が苗字を好きだからだろう。」
「!!」
「何だその表情は。気付いていなかったとは言わせないぞ?」
「…いや、しかし、」
「しかし、何だ?昼休みも苗字が俺の元に来たから嫉妬していただろう。」
「嫉妬?」
「嫉妬でなければ何だ?苗字が俺と仲良くしているのが気になっていたんだろう?…それこそ、食事を残すくらいに。」

苗字が好きである。
蓮二に嫉妬している。

どちらも俺にとって経験したことがないものだった。

「ついでに言っておくが、苗字と俺が付き合う可能性は0%だ。」
「0?!」
「あぁ。俺は苗字の好みから外れているからな。…もっとも、完全に的外れというわけではないが。」
「苗字はどういう人物が好みなんだ?」
「……さぁな。本人にでも聞けばいい。それより、早く部活を始めないか。ほら、お前達も早く着替えろ。」

蓮二の一言で部室にいた他のレギュラー陣がいっせいに動き出した。
よく見ると全員微かに震えている。

苗字の好みか。しかし、俺がど真ん中で蓮二がど真ん中ではないとはどういうことだろうか。身長は蓮二の方がわずかに高いし、二人とも黒髪だ。帽子の有無だろうか。…いや、帽子は好みとは関係ないだろう。

「そんなに気になるのなら、部活が終わるまで苗字は待っているはずだから苗字に直接聞きにいけばいいだろう。」
「そうなのか?」
「あぁ。今日は試合形式の練習があるからな。お前の雄姿が見たいそうだ。」
「そうか。ではそうすることにしよう。」

苗字の好みとはどういう人物なのだろうか。それに思いを馳せつつ俺は部活のためコートに向かった。



「……苗字の好みって…ブッ。」
「…おいブン太、笑うのは失礼だろう。………笑うのは。」
「おめーだって笑ってんだろ。」
「名前(女)先輩、なんて答えるんスかねぇ。」
「気になるね。皆で見に行こうか。」


END






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