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睡眠とは全てを忘れるためにある、と思う。うん、つまり現実逃避のためにさっさと寝ることにした。
「………赤也、テスト大丈夫?」
「聞くな。」
何を言われても聞こえませーん知りませーんで通すつもりで布団を被る。
「……勉強会、する?」
「へ?!」
しかし、名前(男)から発せられた言葉はちょっと予想外だった。
……そういえば名前(男)って頭良かった気がする。普段本ばっか読んでるし。
「あ、いや、赤也がいいなら、だけど。」
「お願いします!」
今までテスト前はテニス部で勉強会するのが恒例で、俺には真田副部長という恐ろしい家庭教師がついていたんだけど、名前(男)となら頑張れそうな気がする!いやむしろ頑張れる!
「そっか、良かった。」
「えーっと、確認のために聞くけど、名前(男)って頭良いよな?」
「………まぁ、赤也よりは。」
「うるせー!!!」
「冗談冗談。自分で言うのもアレだけど、この前はクラス1位だったから安心して。」
「よっしゃ!名前(男)愛してる!真田副部長との勉強会から解放されたぜ!」
「ハイハイ、俺も愛してるよ。」
「………何か俺等すっげーバカップルじゃねぇ?」
「いいじゃん、誰かに迷惑かけてるわけじゃないし。」
「………まぁ、そっか。」
「じゃ、赤也明日も部活だし、寝よっか。」
「おぉ。」
当たり前のように同じベッドで、入った瞬間に名前(男)に抱き締められた。
「名前(男)…、この体制がデフォなの?」
「うん。」
腕枕+腰に回る腕。腕枕って腕痺れるんじゃねーかなぁと思った。
「……あー、疲れた。」
今日は色んなことがありすぎて疲れた。主に精神的に。
………あ、そうだ。風邪とか告白とかで忘れてたけど。
「名前(男)ー、」
「なに?」
「今日名前(男)の友達の、…えっとラッさんに会ったじゃん?」
「うん。」
「……何つーか、…ラッさんって少し俺に似てなかった?」
「そう?…まぁ、確かに。気強いし、うるさいし。」
「それは俺にも当てはまるってことか?」
「あ。」
「あ、じゃねぇよ失礼だなお前は!」
「ごめんごめん。……で、赤也は自分がラッさんと似てるから、俺がラッさんのこと好きだったんじゃないかって言いたいの?」
「………エスパー?」
「当たりなんだ。…うーん、でも俺元々赤也みたいな人は好みじゃなかったって言った覚えがあるんだけど。」
「……言ってたな。じゃどういう人が好みなわけ?」
「えー、うーん……。読書好きで、」
「いきなり真逆だな。」
「雰囲気が柔らかい人が好みだったな。」
「……ふーん。」
雰囲気が柔らかい、ねぇ。
俺の雰囲気は柔らかくないってことか?……いや柔らかくはないだろうけど。
「でも好みってあくまでも『好み』でしか無いんだよね。実際好きになる人は違うもん。」
「……あー、まぁ、そんなもんだろ。」
俺だって名前(男)みたいなのは好みじゃない。…そもそも性別が。
でもまぁ好きになったら負けって言うか。うん。
そこで会話は終わりになったらしい。目を閉じて横になった。
………眠れねー……。
いや、前みたいなドキドキで眠れないわけじゃなくて、今日は単に寝過ぎで眠れない。
…明日の部活午後からだけど寝とかないとキツイよな。あー眠れない。名前(男)は寝てるみたいだ。寝たフリだったら殴ろう。
抱き締められたまま何とか寝返りを打って名前(男)の顔が見えるような体制になる。
普段は大人びて見えるその顔も寝ている時は何だか幼く見えた。
「……。」
って言うか、俺コイツと両思いなわけか。愛し合ってるわけか。
あー、やっぱスゲー恥ずかしい。…んで、スゲー名前(男)が好きだ。コイツと両思いなんて夢みたいだ。
………と、名前(男)の寝顔を見ていたらこっちまで眠くなってきた。
うとうとした後、身体が深く沈み込むような眠気がやってくる。眠りにつく瞬間ってのは相変わらず気持ちが良い。
「赤也。」
気がつくと周りはいつか見たふわふわした風景だった。
あぁこれ夢か、と直感して辺りを見回す。
「赤也!」
俺の名前が聞こえてくる方向に顔を向けると名前(男)がいた。あの時と同じ、10歳くらい年上の名前(男)だけど。
「名前(男)。」
「お前、何てことしてんの?」
「……何が?」
「俺は警告したのに。」
責めるような口調だった。名前(男)は俺に対してこんな冷たい話し方をしたことは無い。なのに俺の頭の中の名前(男)はこんな冷たい口調で話すのか。
「……お前は名前(男)じゃない。」
「何言ってんの?俺は苗字名前(男)だよ。」
「名前(男)は俺を責めねーよ。お前は俺の罪悪感だ。」
名前(男)が好き。それだけで良いはずなのに、俺は怖いんだ。
「でも、俺は名前(男)が好きなんだ。」
「………そっか。」
ふわりと名前(男)に抱き締められた。ポンポンと背中を優しく叩かれる。
「大丈夫、大丈夫だよ。」
いつの間にか名前(男)は俺が知ってる今の名前(男)の姿に戻っていた。
「赤也?」
パッと画面が切り替わった。名前(男)の顔がドアップだったので思わず顔を反らす。
「おはよ。」
「……おはよ。俺うなされてた?」
「ちょっとね。でも今笑ってたよ。」
「何だそりゃ。」
「それは俺が言いたいよ。どんな夢見てたわけ?」
「…んー?名前(男)とチューする夢。」
「そんなこと言ってるとホントにするよ?」
「うっわ出たキス魔。」
「赤也限定のね。」
「そこは認めるのな。」
「まぁ、だってキス好きだし。おはようのキスでもしとく?」
「ノーサンキュー。」
「何だ、つまんない。」
名前(男)は少し笑ったあと、急に真面目な顔になった。
「怖い?」
「何が?」
「俺が。」
「……何で?」
「赤也が俺と寝た時って、赤也妙に寝つきが悪かったり、変な夢見たりするから。」
「……いや、寝つきが悪いのは、その…緊張してるからだし。変な夢見んのは何でかわかんねーけど。」
「俺さ、赤也が思ってるよりずっと赤也が好きだと思う。だから赤也が俺といて安心出来ないって言うのが何かヤダ。」
「ヤダって言われても仕方ねーだろ。名前(男)は俺といてドキドキしたりしねーの?俺はするんだよ。」
「………しないわけじゃないけど。」
「だろ?そのうち慣れると思うぜー?」
「なら良いんだけど。一人で寝た方がよく眠れるなら言ってね、布団出すから。」
「それは困るんだけど。これからどんどん寒くなるし。」
俺がニヤッと笑って返すと名前(男)も少し笑った。
END