そういうことは先に言え



「ねー名前(女)知ってる?」
「なぁに?」
「仁王くんの彼女サン、過激な仁王くんファンに凄い嫌がらせ受けてたんだって!それに耐えきれなくなって別れたらしいよ。」
「なんですと?!」
「ね、だから仁王くん今フリーらしいの!名前(女)仁王くんと友達でしょ?だからちょっとあたしのこと推薦して欲しいなって言うか……あれ名前(女)聞いてる?!ドコ行くのー?!」

皆さんお久しぶりです加齢臭が香水の匂いだと最近まで思っていたオジコンガールこと苗字名前(女)です。
今の話聞きました?!女の嫉妬って怖いですねぇ!

……と、他人事のように思ってたけども。よく考えたら真田君も仁王くんと同じテニス部レギュラーだった。その真田君にアプローチをかけてるわたしって実は疎まれてる?!

「いや、それは無いな。」
「何で断言出来るの?!」
「逆に聞くが、弦一郎に過激なファンがいると思うのか?」
「いるよ!」
「苗字以外で。」
「…………。」

いなかった!!


ハイごめんなさい暴走しました。本題に入ります。


最近私は幸村君をはじめ、テニス部レギュラーと(不本意ながら)顔馴染みになってしまったせいで、妙な頼まれごとをされることが多くなりました。
何かっていうと、出会いの斡旋というか……。
レギュラー陣に「真田の写メ送ってやるよ!」と言われてメアドを交換しまして。そしてその噂が何故か広まって、わたしに言えばレギュラーを紹介してもらえると思ってる人からレギュラー紹介して!と言われるのです。

………ものすっごく困るんだけど!!
勝手にアドレスを教えるわけにも行かないし、だからって断ると「レギュラーに気に入られてるからって調子乗るんじゃないわよ」みたいに言われるし!

誰かに相談しようと思っても頼りになるのは柳君くらいだ。(もしかしてわたし友達少ない…?)

「……本題はそれか?」
「そう!何で皆わたしがレギュラー陣とメアド交換したの知ってるの?!って言うか本人に聞きに行けよ!!」
「落ち着け。お前の解決したいことは弦一郎以外のテニス部ファンへの対応で良いんだな?」
「……まぁ、そうかな。」
「なるほど。考えておこう。」
「え、すぐに解決してくれるんじゃないの?!」
「今日は用事があるんだ。」

柳君がそう言った瞬間、教室のドアが開いて女のコが入ってきた。……この子、どっかで見たような……。新聞部の子だった気がする。

「じゃあな苗字。」

柳君はさっさと自分の荷物を持って帰ってしまった。……この冷血人間!!フラレてしまえ!

「……それで俺んトコ来たっちゅーわけか。」
「まぁたまたまというか…。わたしのトコ来る人って仁王くんファンが一番多いし、仁王くんファンは全体的に自信満々でギャルっぽい人が多いから怖いんだよ。」
「そりゃスマンのう。」
「もうちょい誠意ある謝罪を見せて欲しかったな。って言うか今度から断らないで教えていい?いいよね?ハイ、じゃあ教えとくね!」
「俺はまだ何も言うとらんよ。」
「知るか!だったらアド変しろ!」
「……ふーん、つまり苗字さんは我が身可愛さに友達を売るんか。」
「友達じゃねーし!ただの他人だし!」
「酷いのう。」

ダメだ、全て流されてしまう。
って言うかこの人が一番楽しんでるよね!むかつく!

「真田に相談すればええじゃろ。」
「だって解決しなさ………じゃなくて、真田君の手を煩わせるわけにはいかないじゃない!」
「本音がはみ出とうよ。」
「気のせいだよ!」

そう、真田君に相談すればいい話なのだ。でもあんまりレギュラーとアドレス交換したことを知られたくないし、それに……解決しなさそうだし……。

「ま、苗字さんみたいにレギュラーのアドレス全員分知ってる人はかなり珍しいからのう。それに断らなさそうじゃき。」
「そうなんだよね。『自分で聞けば?』とか言える心の強さをください。」
「俺に言うな。……ちゅーか、何でお前さんが皆のアドレス知っとるってバレたん?」
「それが謎なんだよね!レギュラーを笑わせた女〜の噂が広まったのも謎なんだけど!」
「ストーカーとか?」
「怖いこと言わないでください。」
「ま、頑張りんしゃい。」

逃げたなお前…!!


結局何も解決しなかったじゃないか!!


「なんだ、それなら早く俺のところに来れば良かったのに。」
「…や、何となくそれだけは嫌だったというか……。」
「遠慮しなくていいよ。苗字さんと俺の仲じゃないか。」

特別な仲になったつもりは1ミリもないけれど、そして何となくこの人に頼るのだけはどうしても嫌だったけれど、最後の砦である幸村君に相談することにした。

「まー、俺たちのファンの子の中にはけっこう過激な子もいるからね。苗字さんを潰すって話が既に出てるかもしれないし。」
「本気でやめてください……。」

幸村君は凄く綺麗なんだけど、何か…こう、ちょっと底知れないものを感じて身構えてしまうのです。

「そんなに怯えないでよ。」
「……あははは。」

地味に幸村君のファンも怖いんだよね。なんていうか、本気な感じがして。

「まぁ大丈夫だよ。手はもう打ってある。」
「えっ、ホントですか?」
「ふふふ、俺たちを甘く見ないでほしいな。苗字さんは柳と仁王と俺に相談したんだよね?」
「は、はい。」
「その人選が良かったんだよ。苗字さんの人を見る目は確かだ。」
「…?」
「まぁ好みはちょっとアレかもしれないけど。」
「アレってなんですか。」
「あぁ、気にしないで。まぁそういうわけだから、明日放課後練習を見に来てね。」
「どういうわけですか。なんですか。っていうかなんでですか。」
「来ればわかるよ。」

含みのある笑い方なんだけど、これ以上女の子達に嫌われるのは嫌だ。わたしはおじさんと真田君にキャーキャーしてる平穏な生活を取り戻したいのです。
………いや、まぁ変にレギュラー陣と関わりを持ったのは自分で、皆さんの手を煩わせるのも悪い気はするんだけど……、この件に関してはちょっと頼ってもいいと思う。


その日はテニス部はミーティングだけの日だったらしく、放課後委員会があったわたしと帰る時間がかぶったのかテニス部の人々と廊下ですれ違った。その時真田君以外のレギュラー陣がいやーな笑みを浮かべていたのが見えた、気がする。…何をたくらんでいるんだあの人たちは。

次の日の放課後、テニス部のコートに向かうといつも以上に人が多い気がした。
いや、わたしはあまりコートには行かないんだけど、熱気みたいなのがすごかった。アイドルのコンサートみたいだ。

「あ、名前(女)先輩。」
「来てくれたんだな!」
「こっち来て見学してってくださいよ!」
「特等席だぜぃ!」

ちょ、ちょっとちょっとなんだこれは。
遠巻きにコートを眺めていたら、いきなり切原君と丸井君がやってきた。一気に集まる視線。そしてコート内のベンチに案内されてしまった。

「…ここで見学をしろと?」
「もちろん!名前(女)先輩は俺たちの大事な人ですから!」

にっこりと怖いことを言うな。誰が大事な人だおもしろがってるだけじゃないか!!
周りにがっつり聞こえる声だったので、ギャラリーの子達の視線が鋭さを増した気がする。あの人誰ー?ほらあのレギュラー陣笑わせた人だよーという声が聞こえてきたのは被害妄想だと信じたい。

その後は針のムシロだった。ちくちくと刺さる視線。ベンチで石のように固まっていたけれど、やたらとちょっかいを出してくるテニス部員達のせいで視線は鋭さを増すばかりだった。

足元にボールが転がってきたので反射的に拾うとテニス部員の子(確か2年のヒラ部員だ。頑張れ未来の立海は君にかかっている!)にニコッと笑ってお礼を言われた。よく見たらこの子ちょっと老け顔だわ、と思って少しときめいた。あ、老け顔っていうのは私の中で褒め言葉なのです。
将来が楽しみだなあと思っていると再びボールが転がってきた。拾う前に顔を上げると幸村君がニコニコしながら手を振っていたのでこっちに来られる前に軽く投げておいた。のに、わざわざやってきてありがとう、とお礼を言う。律儀なのか嫌がらせなのか、と思ってしまう自分がちょっと嫌だ。

ベンチに座ってからまだ10分くらいだと思うんだけど、この10分間の長さは尋常じゃなかった。テスト中にお腹が鳴りそうになった時くらい1分が長い。あ、例えが微妙ですねごめんなさい。

柳君に「どういうことだおい」という気持ちを込めて視線を送っているけれど一向に目が合わない。なんなんだこれ。



と、まぁ最初はなんとか耐えられたんだけども。

それからもあまりにテニス部の人達が絡んでくるので、ギャラリーの女の子たちがだんだんといらだってくるのが分かった。ごめんなさいわたしは悪くないですたぶん。


何あの子、たいして可愛くもないくせに、何で贔屓されてるの。


そりゃあもっともだと思う。でも聞こえるように言われると凹むんだ。この子達だってレギュラー陣やテニス部の誰かのファンなのはわかるけども、背中越しに悪口が聞こえてくるのは結構つらい。なんだこれ、わたしこんなキャラじゃないのに泣きそうだ。
泣きそうな時、泣くな、と強く思うと涙は一瞬止まるけれど、そのあと優しい言葉をかけられたりすると一気に涙が出てくる。

「……苗字?」

わたしがとても好きな落ち着いた低い声が聞こえてきて思わず顔をあげてしまった。
声の主はやっぱりというかなんというか、真田君だった。
わたしの顔を見た真田君が少し驚いたような顔をしたので、多分泣きそうな顔をしていたんだろう。

「苗字、大丈夫か?涙目だぞ。」

…あーもう、だからこういうのに弱いんだ。

何か言おうとしたけれど、しゃくりあげてしまったら誤魔化せないのでうつむいて首を振った。
あれ、大丈夫か?って質問されて首を振ったら大丈夫じゃないってことにならないか。

「立てるか?」

こくん、とうなずく。真田君に促されるまま立ち上がって、そのまま部室に行った。部室にある簡易ベンチに座らされて、しばらく待っていろと言われた。その時はもうわたしは完全に泣いてしまっていたので真田君は手に持っていたタオルを貸してくれた。少し汗のにおいがした。

外はけっこう暗くなっていた。わたしいったいどれくらいの時間あそこにいたんだろう。

…と、急に我に返った。何泣いちゃってんだわたし。真田君の前で泣いたのは2回目だけど、今回は部活中に迷惑までかけてしまった。最悪だ。もうこっそり帰ってしまおうかと思ったけれどカバンをテニスコートのベンチに置いてきてしまっていた。バカだわたし。

真田君のタオルを握りしめながら自己嫌悪に陥っていると、部室のドアが開いた。ぞろぞろと入ってきたのはレギュラー陣その他もろもろ。怖いです。
ベンチでできるだけ小さくなっていると真田君が苗字、と声をかけてきた。

「苗字、すまない。皆悪気があったわけではないんだ。」

なんと謝られてしまった。いや真田君悪くないよ?とおろおろしていると、柳君が口を開いた。

「…苗字、俺も申し訳ないとは思っている。だが事情を説明する機会をくれないか?」
「え?あ、それは構わないけど…。」
「それでは少し部室の外に出ていてくれないか。」
「…何で?」
「名前(女)先輩が俺たちの着替え見たいってんなら別にいいッスよ?」
「赤也!」

あぁそういうことか!恥ずかしい!
そそくさと部室を出てドアの横でぼーっと立っていることにした。
さっきまでたくさんいたギャラリーはいつの間にかいなくなっていた。

5分くらいで全員の着替えが終わった。(男の子って着替え早いよね…。)

「もう下校時間になるからファミレスでいいかな?もちろん苗字さんの分は俺たちが奢るから。」
「え、いいよそんな…。」
「そうさせてくれ。」

何かいろいろと言いたいことはあったけども、とりあえず行こうと引っ張られた。ちなみに私のカバンはジャッカル君が持ってきてくれた。いい人だ。

「…まず、俺たちから謝らせてほしい。まさかギャラリーの子達があんなに攻撃的になるとは思わなかったんだ。」

ファミレスに着いてすぐ、幸村君にそう言われた。

「え、ええと、部活中に泣いたりしてすみませんでした…。」
「あーやっぱ泣いちゃってましたよね、すんません!」
「知らない方に悪意をぶつけられるのは辛いことですよね。ですから私は反対したのです。」

なんとなく柳生君がかばってくれた。さすが紳士だ。素敵だ。
そのあと、柳生君がレギュラー陣を責めてレギュラー陣が謝るという構図になったのは自然なことだと思う。

「苗字、まず俺の話を聞いてくれ。苗字が俺、精市、仁王にテニス部のファンの女子のことを相談したとき、俺たちは苗字を助けようと一つ策を練ることにした。」
「助けようと、なんてよく言いますね。私たちに持ちかけてきたとき、あなた方の顔は完全に面白がっている顔でしたよ。」
「何だ柳生、やたらとつっかかるね。もしかして柳生は苗字さんに気があるのかい?」
「下衆の勘繰りはやめたまえ。」
「大体最終的に柳生も認めとったろ。」
「ですから私は、」

…あれ、なんか喧嘩になってませんか。

「いい加減にしろ!幸村、仁王。まずはきちんと苗字に謝罪するのが先だろう。柳生も蓮二の話をまずは最後まで聞いてみてはどうなんだ。」

そこで真田君のお言葉。皆の言い争いがピタッと止まった。さすが真田君は素敵だなぁと思って惚れ直しちゃった。…わたし立ち直り早いよなぁ。

「それから苗字。」
「な、なに?!」
「テニス部のファンの女子のこと、とは一体何だ?」
「…い、いやそれは…、」
「弦一郎、それも俺から説明しよう。」

するんかい!!!とつっこみそうになった。危ない危ない。

「ではまず苗字の相談についてからだな。」

苗字が俺たちに相談してきたことは、俺たちテニス部レギュラーのファンの行動についてのことだ。苗字はレギュラー全員と連絡先を交換している上、あまり気が強いタイプではない。だからファンの間で「レギュラーのメールアドレスが知りたかったら苗字に聞けばいい」という認識になってしまった。
もちろん、すべてのファンがそうだというわけではないが、一部の熱狂的と言ってもいいファンが苗字にしつこく迫ったのは事実だ。
苗字はその件についてまず俺に相談した。(「なぜ蓮二に真っ先に相談したのだ?」)…俺は苗字と同じクラスで、さらに苗字によく相談を受けるので相談相手としてはまぁ適当だろう。俺はまず苗字がレギュラーと連絡先を交換したことを広めた相手を見つけることにした。故に苗字に対してすぐに具体的なアドバイスをすることができなかった。
俺では頼りにならないと判断したのか(「いやそんなことないよ!」)、苗字は次に仁王に相談した。(「えっ、仁王先輩に?」)恐らく連絡先を尋ねにくる女子の大半が仁王のファンだったんだろう。仁王は人に連絡先を教えることはほとんどなく、またすぐにメールアドレスを変更してしまうので、仁王のファンは仁王の連絡先を知ろうと躍起になっていた。本人に直接聞いても素直に教えてくれるような人物ではないしな。(「プリッ。」)
しかし、当然というか何というか、仁王は苗字の相談を親身になって受けることをしなかった。いつものようにごまかしてしまうのを見て苗字は仁王は戦力外だと感じたのだろう。(「だからそこまで思ってないよ!」)ちなみに、仁王は自分のファンでそういった迷惑な行動を取る相手を概ね把握していたので裏を取るために行動していたそうだ。(「嘘つけ!!」「…プピーナ。」)
そこで最後の手段として苗字は精市に相談した。精市は苗字が自分より前に相談した相手が俺と仁王だと知ると、ある策を思いついた。それが今日決行されたのだが…。

「その策とわたしがコートのベンチに座ってたこととに何の関係があるの?」
「あぁ、そこからは俺が説明しようかな。」

俺が思いついた作戦はね、苗字さんを俺たちテニス部のファンにも愛されるようにしようっていう作戦だったんだ。ベンチに座っている苗字さんに、仁王がイリュージョンで化けた真田になって会話させるっていうね。
もう台本も準備したり、ギャラリーをいつもより集めたりして、俺がんばったよ。苗字さんが赤くなったり青くなったりするところを想像しながら。…おっと、ちょっとした冗談だよ。(「そ、そうですか…。」)
そこで苗字さんが好きなのは真田っていうのを何となく皆が察したら、レギュラー陣に色目使ってるんじゃないわよみたいなやっかみも多少おさまると思ったんだよね。そのあとで俺が「こういうことだから、みんなも苗字さんを応援してほしい。」って言えば少なくとも表面上は平和になると踏んだんだ。もちろんレギュラーの皆にはその話は通してあるから完璧だと思ったのに、(「俺は聞いていないぞ!」)その日に限って真田が部活に遅れてくるとは思わなかったよ。
いつ真田が来るかわからないから仁王を真田に化けさせるわけにもいかなかったし、だんだん俺たちもおもしろくなってきちゃったんだ。それで余計なちょっかいをかけたりしてたら、まさかあんなことになるとは思わなかった。本当にごめんね。
それでやっと真田が来たから部室にでも閉じ込めようと思ったのに、すぐジャージに着替えてきちゃうし真っ先に苗字さんに声かけるしで予定が狂ってしまったんだ。
本当に申し訳ないと思ってるし、苗字さんがそこまで嫌な思いをするとは思わなかったんだ。すまない。


…と、深々と頭を下げられてしまった。えーっと、セリフが長かったです。

「…あ、あの先輩、俺たちもすいません。調子乗っちゃって…。」
「ホント、悪かった。」

そして何と全員立ち上がってからの謝罪。ちょっと周りの視線がまた痛いんですが。わたし何者だよみたいな空気になってるし。

「苗字さん、あなたには私たちを罰する権利があります。本当にすみません。」
「いや罰するなんて…、」

正直な話、今の話を聞いてちょっとひどいなぁと思った。
おもしろがって、とか、調子に乗って、とか、わたしが傷つかないとでも思っているんだろうか。
…いや、わたしもそうだけど、真田君とかテニス部のファンの子達とかも傷ついたかもしれないのに、と少し思った。

「真田君はどう思ってる?」

問題の発端となったのはわたしだから、今の気持ちは誰にも言う気はないんだけど、真田君は間違いなく被害者だ。真田君が彼らに対して何も思ってないならわたしが何かする権利はないわけだ。

「…そうだな、俺は、」

苗字がなぜ俺に相談してくれなかったかを聞きたいんだが。


…………。

落ち着くんだわたし。解決しなさそうだったから…とか言っちゃいけないんだ。真田君に迷惑かかっちゃうと思った!とか言えばいいんだよわたし。
あれ、でもそれ言ったら柳君たちには迷惑かかってもいいと思ってるのかってことになるよね?わー何て言っていいのかわからないや。

「苗字は弦一郎のことが好きなのは知っているだろう?苗字は弦一郎には極力迷惑をかけたくないと思っているんだ。」
「しかし、」
「迷惑をかけたくないと同時に、愛想を尽かされたくないって気持ちもあるんだよ。真田に頼ってばかりいたら真田に嫌われるんじゃないかって恋する乙女は思うものだからね。」
「だが、」
「出来るだけ自分で解決したいっちゅーのもあったし、実際迷惑かけてたんは真田のファンじゃなく俺たちのファンじゃ。それを真田に相談するのは筋違いかと思うがの。」
「けれど、」
「まぁそりゃそうだよな。恋人ならわかるけど、自分の思い人にあんまりマイナスな面見せたくないだろぃ?」
「それでも、」
「ただの「自分のことが好きな方」でしたら、相談してほしいなどとはあまり思わないのでは?」
「いや、」
「まぁあんまり気にするなよ。だったら次から相談してもらえるようになればいいんじゃねーの?」
「それは、」
「おーいいっすね!ほかの男になんか相談するな!俺にだけ相談しろ!って!ほら!」

…なんだこの連携プレー。すごいぞ。

思わず感動していたけれど、…えーっとこれってもしかして皆わたしをかばってくれてる…のか?
もしかしてわたしの本音は顔に書いてあったのかもしれない。それを察したのかなぁ。なにはともあれありがとうございます。

「…じゃあ、今度何かあったら真田君に相談していい?」
「あぁ。もちろんだ。」

今回みたいな悩みではなく、もっと漠然とした悩みなんかだったら真田君に相談するのはとてもいいと思う。だから素直に相談するつもりだ。
真田君はさっきまで深い眉間のしわが刻まれていたけれど、いつの間にかすっかり穏やかな顔に戻っていた。うん、やっぱこの顔ほんとに好きだ。

「じゃあ、早く料理を注文しようか。さっきから店員さんの目が尋常じゃないのに気づいてた?」
「…うわぁすごい目だ…。」
「今日は俺たちが奢るから好きなだけ食べてよ。」
「えー、じゃあ遠慮なくゴチになります!」

今日はいろいろあってとても疲れたけども、いろんな人のいろんな面を知れた気がする。まぁお腹はぺこぺこなわけですがね!!

程なくして運ばれてくる料理を食べながら、少し気になったことを話してみた。

「そういえば皆と連絡先を交換したことを広めた相手って誰だったの?」
「……。」
「何で黙るの?!」
「黙秘権を行使する。」
「ちょっと柳君?!」

たぶんそれを広めた相手が他の噂も広めたんだろうなぁとぼんやり思いました。


END


「に、しても真田がギャラリーを一喝したのは見物だったね。」
「あぁ。苗字が泣かされたとなると本気で怒るようだな。いいデータが取れた。」
「えーでも俺真田副部長の声に無条件で反応しちゃうんスよ。俺が怒られたのかと思った。」
「しっかしあんな声で怒鳴って苗字さんは聞こえなかったんかのう。」
「部室は外の音が入りにくいですし、かなり動揺していましたから聞こえなかったのではないでしょうか?」
「それにしても、苗字さんってちょっと可愛いよね。黙って耐えてるところとか本当に可愛かったよ。俺を見るとちょっと身構えるのもね。」
「精市がそうやっていじめるから警戒されるんだ。」
「あーあ。真田がいなかったら奪ってやるのに。」
「部長ってなんだかんだで副部長好きですよねー。」
「ふふ、それはどうかな。」
「でも真田がいなかったら俺達が苗字のおもしろさに気づくこともなかったんじゃねえ?」
「まぁそれはそうだね。ふふっ、これからもどんどんおもしろくなりそうだね。」


え、あぁちなみにね。
わたしに「テニス部レギュラー全員を笑わせて、全員を謝らせた女」なんて恐ろしい噂が流れたとかね、そういうことはないから。ホントに。ホントにないからね!!







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