バイバイズ



俺の悩みは、何で世の中にはイケメンという生き物がいて、イケメンはあらゆる箇所で優遇されるのかってこと!


差別とは差があるから生まれる。つまりイケメンは差別を生み出す元凶であり、イケメンでないその他大勢は間接的にイケメンに虐げられている。というのが俺の持論である。無茶苦茶なことは百も承知だ。
とにかく、何が言いたいかって言うと、
イケメンうぜぇ!!!


「………と、言うことでお前とは無理。死んでも無理。」
「………さよか。」

目の前の眉目秀麗容姿端麗才色兼備な男は肩を竦めた。

この眉目秀麗容姿端麗才色兼備な男は白石蔵ノ介。関東出身の俺がどんだけやねん!とツッコミたくなるほどイケメンだ。しかもイケメンならせめてバカか性格悪い奴であれよと思うけども、頭は超良く性格も超良く、はっきり言って欠点が無い。せいぜい絶頂!という残念な口癖くらいだ。(あれ、これって結構残念度高くね?)

そんな奴から愛の告白をされた。
………そりゃ断るだろ!!


目の前の眉目秀麗容姿端麗才色兼備(長いから以下BYSでいこう)の白石少年は、見るからにショックを受けていた。……俺から言わせれば、男が男に告白して万に一つでもオッケーをもらえるとでも思っていたことが驚きなのだが。

「……なぁ名前(男)、それでも俺自分が好きやねん。好きでおってもええか?」
「それはお前の自由だからいいんじゃね?」
「……ほな、そうさせてもらうわ。おおきに!」

さて、何でBYSの白石少年と平凡代表の俺が告白をする、されるような関係になったかと言うと。

2年生の時に四天宝寺に転入してきた俺は、早くクラスに馴染めるようにという理由でクラス委員を押し付けられた。ありえないと思うだろ?でも信じられないことに、クラス全体がノリノリだったので断るに断れず引き受けてしまった。

クラス委員ってのはクラスの中枢という感じの奴がなるモンだと思ってたし、実際委員会でもメンバーはいかにも委員をやりそうな奴が集まっていた。
うわー俺思いっきり場違いじゃねぇかよと思ってたら、俺の隣に座ってた奴が話しかけてきた。

「なぁなぁ自分名前なんて言うん?」

………これが白石だった。俺はその時の白石のあまりのイケメンさに度肝を抜かれたが、あまり騒ぐのも失礼かと思って出来るだけ普通に接した。

「苗字名前(男)。お前は?」
「あ、スマン。自分から名乗るのが礼儀やったな。白石蔵ノ介や、よろしゅう。」

白石蔵ノ介。その時初めて名前を覚えた。

話してみるといい奴で、イケメンが全て悪ではないんだなとは思った。

メールアドレスを聞かれて、何か軽い相談を受けるくらいに仲良くなってしまった。

「部長になったけど、俺が部長で良いのか。」
選ばれたんだから精一杯頑張れ。愚痴くらいなら聞いてやるよ。

「女のコにつきまとわれて困ってるんだけどどうすればいいと思うか。」
程度にもよるけどあまりに酷いなら真面目に警察行くか学校に相談しろ。まずは迷惑だってことをぼかさず伝えろ。

「男同士の恋愛ってどう思うか。」
当人同士が良ければいいと思う。

「健康体操がマンネリ化してる気がする。」
知るか。

そんな感じでよくわからない質問から真面目な質問まで、俺もよく律義に答えてきたもんだ。
3年になってクラスが一緒になってから、さらにメールがたくさん来るようになっても返事は必ずしていた。……そもそも、誰からメールが来ても無視はしないけど。

でも告白された今考えてみれば、無駄なことを嫌う白石がこんなにしょっちゅうメールしてくるってことは俺に何らかの好意があったってことだし、3つ目の質問とか完全にアウトだよな。

後で白石が言ってたんだけど、白石は俺が白石を特別扱いしないから好きになったそうだ。
白石には悩みなんて何にもない、と本気で思ってる奴はたくさんいるらしい。

俺だって「女につきまとわれて困ってる」なんて質問を受けた時、イケメンの宿命だろとか言いたくなったさ。でもそんなこと言えねーだろ。


と、話を戻そう。
BYSの白石はそのままとぼとぼと帰った。俺は追いかけて一緒に帰った方がいいのか一瞬迷ったけど、さすがに自分を振った奴とは帰りたくねーだろうな、と少し時間を潰してから帰ることにした。

……何て言うか、これで白石との友情が壊れたと思うと、告白してきた白石に理不尽な怒りまで感じた。


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あのBYSの白石が振られた、しかも俺に!
と家に帰ってから改めて自分がしたことに鳥肌が立ったものの、だからと言ってどうすることもできねー!と一人でジタバタするしか無かった。


次の日、白石があまりにも普通に接してくるので、昨日のことは夢だったのかと思った。

「あー名前(男)、おはようさん。」
「おぉ。」

あれ、何で?と拍子抜けしたのも事実。でもなかったことになったのならそのほうがありがたい。

「おはよー。」
「………。」

ただ、白石の微妙に気まずそうな表情を見て、あ、やっぱ現実だったと思い直した。

「……あの、白石さん…?」
「何?」
「いや、何でもない…デス。」

話しかけられない。何を言えばいいのかわからない。

「おー何やっとるん自分等!お通夜かっちゅーねん!昨日出た宿題やったか?!」

朝からやかましい謙也が話しかけてきた。いつもはうるせーなくらいにしか思わないけど、初めて謙也ナイス!と思った。

「……って言うか…宿題?!」
「何や忘れてたん?!アホちゃう?!俺もやけど!」
「じゃあ言うなよ!!うっわ、完全に忘れてたわ……。」

これはマジでヤバイ。数学の宿題は忘れるとその日の授業で延々指されて面白いことを言わないと座れないという関東人の俺にとってまさに鬼畜仕様になっている。

「まぁ、俺等には白石がついてるから安心やな!白石ぃー、頼む!宿題写させてくれへん?」
「……あー…忘れたわ。」
「は?!そんな冗談飛ばしてる暇無いんやけど!」
「いや、ホンマに忘れた。」
「……嘘やろ?」
「せやからホンマやて。」

白石は自分のノートを広げて見せた。まさしく昨日やったところで泊まっている。

「………何で?!」
「知らん。」

白石は慌てて宿題を始める様子も無く、頬杖をついて窓の外を見ていた。

「……誰か写させてくれる人おるー?!」

謙也は諦めたのか他の奴に宿題を借りに行った。

「……宿題どうするわけ?」
「ん……。」

……答えになってません。

俺も誰かに借りに行かないと間に合わないな、と思って立ち上がった瞬間、白石に腕を引っ張られた。

「………サボらん?」

どうした、優等生が。



そんなわけで屋上にやってきた。千歳がいるかなと思ったけど今日は珍しく授業に出ているらしい。…いや、保健室で寝てるとか?

今日はどんよりと曇っているから、外でサボる人は誰もいなかった。

「……なぁ白石、昨日の、」
「名前(男)、」

俺が何か言い掛けたけど白石に遮られた。

「……何?」
「昨日、ゴメンな。」
「いや……何で謝るんだよ。」
「名前(男)に気ィ遣わせてしもたなぁって。」
「別に気なんか遣ってねーけど。」
「うん、でもゴメンな。好きになってゴメン。」
「……何だよそれ。」
「え?」
「謝ってどうすんだよ。謝ったって白石は俺を好きなことに変わり無いだろ?」
「いや、名前(男)が嫌なら諦め、」
「諦めんの?今までの付き合いがなくなるかもしれないって承知で告白したんだろ?」
「………………。」
「謝られても困るんだけど。」

………あれ、何で俺怒ってんの?

白石はしばらくぽかんとしてたけど、少ししてからニッと笑った。

「………せやな。謝ったのはナシ。…俺、名前(男)のそういうトコが好きやで。」
「………お、おお。」

それから少し何か迷ったような素振りを見せてから、俺の顔を両手で包んできた。
………え、これってまさか。

白石の顔がどんどん近づいてくる。ヤバイ、近くで見るとまた綺麗過ぎる。さすがBYSだ。

って言うか俺ファーストキスなんだけど!

「ストーップ!!」
「な、何でやねん!」
「当たり前だろ!いきなりキスしようとすんな変態!」
「や、やって今ならイケるって神様が…!」
「どんな神様だよ…!」

言いながらも心臓はバクバクだった。白石の顔マジで近かった。あれは心臓に悪い。
イケメンであることを最大限に利用しやがってコイツ…!

「……名前(男)、顔真っ赤やで。」
「うるさい!お前なんか大嫌いだ!」
「ハイハイ、俺は大好きやで。」

白石の楽しそうに笑う顔に一瞬見惚れた。


心臓の音は相変わらずうるさいし、間近で見た白石の顔がまだ脳裏にくっきりと残ってる。
だからイケメンは嫌いなんだ。顔が良いだけでこんなに得をするから…!

白石をキッと睨むと苦笑いで返された。


心臓の音はまだ止みそうにない。


END







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