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直後、周りは大爆笑に包まれた。何故か名前(男)とか姉ちゃんまで笑っている。

「違うみたいねー、赤也が嫌だって言うから。」

笑いながら姉ちゃんが言った。名前(男)も同意する。
…え、何この空気。

「それじゃ、すいませんお姉さん。俺等行きますんで。」
「うんわかった。じゃーね。」

名前(男)に引っ張られてそのままクラスから離れた。……何が起きたのかは全くわからん。

「赤也、赤也、」

名前(男)が機嫌良さそうに話しかけてくる。何だっつーんだ全く。

「………なに。」
「俺今超嬉しい。」
「…あっそ。」

名前(男)だけは、姉ちゃんと名前(男)が付き合うなんて嫌だ、の意味がわかったんだろう。

でも大多数の人は俺がシスコンだと思っただろう。今頃姉ちゃんがあることないこと皆に話してるかもしんねー。名前(男)と姉ちゃんは実は好きあってるけど俺の妨害がひどくて、なんつー噂が広まったらどうしよう。
……いや、いくらなんでもそれは無い、よな…?

あー、もう、わかんねー。頭は相変わらずぐるぐるするし、気持ち悪くなってきた。とりあえず落ち着け俺。

「あ、いた。名前(男)ー、」

名前(男)に手を引かれたまま廊下を歩いていると高崎と彼氏らしき男の人に会った。黒髪で気の強そうな顔をしている。
コイツが名前(男)の幼馴染か、と見ていると名前(男)は嬉しそうに近寄っていった。

「あ、クロ。…と、ラッさん。ひさしぶり。」
「あのさ、俺そのあだ名ヤメロって何ッッ回も言ったよな?んでお前そのたびにうんって言ってたよな?何で全く話通じないの?」
「?」
「疑問符浮かべんな!」
「はは、ごめん何言ってるかわかんない。」
「何でだよ!」

…ん?何だコレ。何だこの違和感。つか、名前(男)の話し方とか表情とかが、まるで、

「っていうか、お前友達いたんだ。出来たんだ。よかったな。」
「うん。」
「えーとはじめまして?関口誠です。」
「あー、どーも。切原赤也です。…なんでラッさんなの?」

とりあえず気になったことを尋ねてみる。

「えーと、クロの家で飼ってる犬がラッキーっていう名前なんだけど、」
「すっごい似てるの!ラッキーと誠!」
「似てねーよ!」
「ラッキーのラッさん?」
「そうそう。」
「ホントに似てるんだって。あ、これラッキーね。」

名前(男)は携帯を突きつけてきた。そこに写っていたのは、

「…ブルドッグ…。」
「な?!似てねーだろ?!コイツら似てるしか言わねーけど似てねーだろ?」
「いやラッさん激似だよ。生まれ変わり?」
「さりげなくラッキー殺してんじゃねーよ!」

…あれ、また何か違和感。何で俺モヤモヤしてんだ。

「…切原くん大丈夫?顔色悪いけど…。さっき名前(男)が風邪気味とか言ってたよね?」
「え?あー、大丈夫大丈夫。」

ヒラヒラと手を振ったものの、実はけっこうフラフラしていた。マジで保健室行こうかな、と思った。なんつーか、心臓が痛い。これはヤバイ。

「…うん、ほんと、赤也顔色悪いね。保健室行こっか。」
「いや、大丈夫だって。」
「いーから!行くよ?」
「お、おい、」

俺の顔を見た名前(男)はまた俺を引っ張って方向転換した。

「大丈夫か?」

ラッさんも心配そうに声をかけてくる。全然知らないくせにコイツ悪い奴じゃなさそうだと思った。

「おー、ありがとな。」

名前(男)に引っ張られたままだったので振り向きながらお礼を言った。

保健室は誰もいなくて二人っきり……なーんてことがあるはずもなく、ちゃんと保健医がいた。

「すいません、体調悪いみたいなんで休ませてもらえますか。」
「あら、顔真っ赤ね。熱かしら?」
「多分そうだと思います。」

保健室の先生はすぐにベッドを用意してくれた。ここでお世話になるのは初めてで、シーツに消毒の匂いが染み付いていて落ち着かなかった。

「じゃ、お大事に。」
「え、ちょっと待てよ。お前どこに行くわけ?」
「んー、教室戻るよ。まだ忙しいだろうし。」
「………わかった。」

傍にいてくれ、なんて言えるはずもなく、名前(男)が出ていくのを静かに見送った。

こんなとこで寝れるかよ、と思ったけど俺はすぐに熟睡してしまった。体調はかなり悪かったらしい。起きたら後夜祭が始まっていた。



…………は?


つまり俺2日目寝てただけってことか?
え、ちょっと待て。こんなのってねーだろ。聞いてねーよ。つーか名前(男)に告白する予定が完全に狂ったんだけど。

ベッドから出ると「よく寝てるみたいだから起こさなかったよ。鍵は職員室に返しておいてください」という書き置きと保健室の鍵が置いてあった。
つまり先生も後夜祭に行っちまったわけか。…そういえば何かのイベントに出るらしいとか聞いたな。

鍵を持って保健室を出た。職員室は何人か先生が残っていたけど大部分は後夜祭を見に行ったらしい。
孤独感に苛まれつつ、荷物が置いてある教室に向かう。鍵が開けっ放しだったけど、俺の荷物はそこには無かった。名前(男)か誰かが持って行ってくれたのかな、と思いつつ窓から外を見る。

「……こっから見えるんだ。」

控え室として使っていた教室からは後夜祭のステージがよく見えた。

10分くらい、そこから後夜祭の様子を見る。今からあそこに行く気には何となくなれなくて、このまま帰ってしまおうかと思った。


『それでは皆でカウントダウンしましょう!10、9、8………、』

司会の人が声を張り上げていた。…もうすぐ花火が上がる。こんなつもりじゃなかったのにな、と思ったら何でか笑いが込み上げてきた。何これ、自嘲ってやつか?

『花火スタート!!』

司会の掛け声と共に点火スイッチが押された。ヒュウ、と空に向かって花火が上がる音がして、少ししてから綺麗に開いた花火が見えた。花火マジックの始まりか、と再びステージの様子を見ると、花火を純粋に見ている人、意中の人を探してるように見える人が皆入り乱れていた。

ステージ付近は明るいけどさすがにここから名前(男)を探すのは無理かな、とわかっているのに生徒の中から名前(男)を探そうとしている自分がおかしかった。

今頃女子に声かけられてんのかな、と思うと心臓がずきずき痛んだ。………あー、もう。俺名前(男)のことこんなに好きだったっけ。気持ち悪いな。

と、名前(男)を探すのを半ば諦めたその時、窓のすぐ下の街灯の下(ややこしいな!)に名前(男)と女のコが立っているのが見えた。名前(男)は俺のカバンも持っている。
何か女のコに言われて、名前(男)が何かを答えた。…この時間にすることなんて一つ、告白だけだろう。

女のコが俯いて立ち去った瞬間、名前(男)がパッと上を向いた。
名前(男)と目が合った、気がした。この教室の電気はつけてないから俺の顔が見えるはずはないのに。心臓がドッドッと大きく動き始めた。

名前(男)はこっちを見たまんまだ。それから、……表情はよく見えなかったけど微笑んだ気がする。

「そこに、いて。」

名前(男)は口パクでそう言った、はずだ。花火の音に紛れてよく聞こえなかった。

それから女のコ達から逃げるように、学校の中に入っていくのが見えた。


「………赤也、見つけた。」

走って来たのか荒い息の名前(男)が教室に入ってきた。
………ホントに来やがった、コイツ。

「………名前(男)、」
「体調は大丈夫?一回保健室行ったんだけど先生に起こすなって言われちゃって、それで、赤也の荷物もついでに持って来ちゃったんだけど、」
「名前(男)。」

名前(男)の話を遮るように言った。
名前(男)は話を中断して俺を見る。

「………何で来たんだよ。」

窓を背にして立っている俺の背後から花火の音がした。

「だって、今なら花火マジックにかかるかなって。」

名前(男)は当たり前のことのように答えた。コイツはこういう奴だ。

「……お前頭おかしいよ。」
「え、」

名前(男)は驚いたように俺を見つめる。

「こんなにイケメンなのにホモだし、なんか普通にイイ奴なのに友達いないし、イケメンのくせに料理上手だし、」
「……誉めてるの、それ。」

俺のこと振り回した挙句勝手に嫉妬するし案外イタズラ好きだし、それで、それで、

「………そんで俺のこと、好きだって言うし、」
「……赤也?」

名前(男)は怪訝そうに俺を見ていた。
……あぁ違う、俺はこんなことが言いたいんじゃないんだ。

「………あのさ、」
「うん。」
「俺、お前のこと好き。」

ドン、と一際大きな音がして、大きな歓声が上がった。


END







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