プライバシーをくださいな
始めに言っておく。弦一郎と苗字は付き合っていない。
あぁ、そうだ。だから新聞部のお前がいくら弦一郎のスクープを特ダネにしようとしてもただの名誉毀損にしかならない。諦めろ。
………何?じゃあせめて二人がどういう感じなのか知りたい?それこそ見た通りだと言いたいが。
苗字はいつでもどこでも弦一郎を見かけると目で追っている。弦一郎は弦一郎で苗字からメールが来たり、苗字と会話した日は機嫌が良い。
最近の弦一郎の悩みは「苗字にテニス部の練習を見に来て欲しいがまた部員が迷惑を掛けないだろうか、大体こんなことで悩む俺は男として女々しくないだろうか」だ。激しくどうでも良いだろう。
苗字は苗字で浮かれきっているかと思いきやどうでも良いことで悩むからな。見ていて殴りたくな……おっと口が滑った。今のは聞き流してくれ。
いや、俺は彼等を嫌いなわけではない。むしろ好きだ。
…何だその目は。そしてボイスレコーダーをしまえ。帰るぞ。
ゴホン。
弦一郎と苗字は…そうだな、友達以上恋人未満と言ったところか。弦一郎はこの年での恋愛などまだ早い!という思考回路の持ち主だし、苗字も早急に関係を変えるつもりは無いらしい。
いっそ俺達がくっつけてやろうか、というのはテニス部の総意だ。それくらい見ていてもどかしい。
いい人達なんですね、だと?本当にそう思うのか?確かに苗字を応援したいという気持ちが無い奴はいないだろうが。
精市、仁王あたりはからかうのに面白いからというのが理由だろう。柳生も何だかんだで面白がっているはずだ。
ジャッカル、赤也、丸井は真田をたるませてしまおうという魂胆だろうな。
それに仁王と丸井は自分の男女関係に口出しされることがなくなることを期待しているだろう。
……俺?あぁ、親友の恋を応援したいからとでも書いておいてくれ。どうせその勢いでメモをとるということは記事にするんだろう。
苗字さんが真田君を好きになった経緯を知りたい?本人に聞け。
……わかったわかった。そんな顔をするな。皺が出来るぞ。
苗字は元々老けた………もとい、大人っぽい雰囲気の人が好きらしい。哀愁のある人が煙草を蒸かしている写真集とやらを見せられたこともあるぞ。だから弦一郎が好きなんだそうだ。
……いや冗談では無い。だから本人に聞きに行けと言っているだろう。
最初に聞いた時は俺も思わず笑ってしまったがな。それをお前が広めてくれたおかげで苗字が少し有名になって弦一郎と苗字には交流が生まれたのだから何とも言えないが。そのあとの噂を広めたのもお前だろう?
……何、それは違う?まぁそういうことにしておこうか。
苗字が弦一郎に告白した時に弦一郎は返事を保留にしたのだが、あんな女は初めてだとしきりに言っていたな。…弦一郎はそれなりにオシャレでイマドキという感じの子には敬遠されていたからな。
俺がイマドキとか言うと気持ちが悪い?怒るぞ。
しかし自分で言うのはおかしいが、俺がいなかったらあの二人は確実に進展することが無かった。苗字は一人でぐるぐる空回り弦一郎に思いを伝えることすらしなかったはずだ。
……そうだな、俺としては休日にあの二人がどこかへ出掛けるようになるところまでは後押しするつもりだ。それ以上面倒を見るのはかえって逆効果だろう。
クリスマスにも通常通り部活を組んだ弦一郎には何というか、むしろ安心感を覚えたがな。あぁこいつは弦一郎だ、と思ったぞ。
結局部員の猛反発によってクリスマスとイヴの練習は自主練になったが、弦一郎は苗字を誘うという発想が無いようだ。そもそも弦一郎はクリスマスに何かをするという発想自体が無いが。
俺としては初詣に誘うのではないか、と見ている。というか、俺がそれとなく誘導するつもりだ。
毎年正月はテニス部で集まっているが、今年はそれに苗字も参加することになるはずだ。
……苗字をマネージャーにしないのか?
あぁそれは精市との会話でも出たな。苗字は確かにあぁ見えて要領も良く、頭も悪くない。真面目に働くだろうし弦一郎に怒られてもめげないだろう。しかしマネージャーと付き合うなんて不純だ!と弦一郎が思うかもしれない。というわけで、マネージャーに引き入れるのは苗字と弦一郎が付き合い出してからというのが結論だ。
もういいだろう。俺の知っていることは全て話したぞ?
最後に一番聞きたいことがある?だったら先に言えば良かっただろう。
「……柳は苗字さんが好きなの?」
……あぁ、どう思う?お前はこれが聞きたくて、…いや、これだけが聞きたくて俺にわざわざインタビューしたんじゃないのか?
しかし俺は今わずかに憤っている。何故か?それは簡単だ。何故俺がお前に聞かれるがまま質問に答えているのか、何故お前のためにこんなに時間を割いているのかをよく考えろ。インタビューは以上だ。
END