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やっと外の光が見えた。眩しくて思わず目を瞑った。
「けっこう怖かったな…。」
「ね!でもあたし途中仁王先輩に会ってから記憶があんまり無い。」
「浮かれ過ぎだろ!」
「って言うか赤也さぁ、いつまで苗字くんにしがみついてる気?」
「は?」
言われるまで気付かなかったけど、俺は名前(男)にしがみついてるままだった。
「………悪い。」
「ううん大丈夫。」
「…え、いつから俺この状態だった?」
「仁王先輩に会ったあたり。」
「……マジかよ。」
つまり半分以上名前(男)にしがみついてたらしい。
まぁ暗かったし誰もいちいち見てないとは思うけど。
「あたし達が一番最初に入ったから皆まだ出てこないっぽいね。ちょっと飲み物買いたいんだけどいい?」
「おー、じゃあ自販機の前のスペース行くか。」
背中から聞こえてくる叫び声(鮎川のものだと思う)をシカトしつつ自販機へ向かう。
やっぱりジロジロ見られるのは相変わらずだった。…って言うか、俺場違い?
「って言うか赤也さぁ、苗字くんにしがみつくとかマジダッサイんだけど」
「うるせーな!」
「しかも途中であたし置いて行こうとするしー。スリット破れるかと思った。」
「多少破けたくらいがセクシーだろー?」
「キモイ!」
名前(男)は基本的にこういうときは聞き役なのでにこにこしてることが多い。今日もそんな感じだったんだけど、田辺が名前(男)に話を振った。
「っていうかあたしずっと気になってたんだけどさぁ、苗字くんって何で赤也と仲良くなったわけ?接点無くない?」
「え、」
「何か意外、っていうか。」
「…まぁ、うん。でも赤也いい人だし。俺は好きだよ?」
「…よく本人の前でいえるなお前…。」
「赤也何照れてんの?」
田辺は普通に友達としての好き、か、冗談の一環として受け取ったらしい。
あーもう、何か照れるし恥ずかしいし最悪だと思った。
「……男の子の友情ってさー、何かいいよね。」
「何だよ急に。」
「うらやましいよ。女のコだとどうしても恋愛とか絡んできてめんどくさいけど、男同士だとサバサバしてそうなイメージ。」
「そんなもんか?」名前(男)と俺とはむちゃくちゃ恋愛が絡んでるわけだけど、とはとても言えない。
「……アハハ、急に変なこと言っちゃってゴメン。そろそろ皆も出てくるから行こうか。」
「おお。」
つまり田辺は何が言いたかったんだろうか。何となく釈然としないまま皆のところに戻った。
そのあとも皆であちこち回ったり食べたりして、文化祭一日目は終わった。
「今日の売り上げだけで黒字になりました!!明日も皆頑張ろう!」
実行委員が声をあげると皆から歓声が上がった。名前(男)もかなり喜んでいる。(ように見える。)
その日は早めに解散になり、明日の準備をしただけで帰れることになった。
借りた服は洗うと乾かないかもしれないのでファブリーズをかけまくって何とか一日持たせることになった。名前(男)が嫌そうな顔をしたのは言うまでもない。
「名前(男)って潔癖症?」
「いや、そういうわけじゃないけど…、何となく嫌だなーって思って。」
「ふーん、お前運動部入ったら死にそうだな。」
「何で?」
「前丸井先輩のロッカーからスゲーことになったジャージが出てきてさぁ。もっこりしてると思ったらカビで、」
「ゴメンもうやめて。」
今は帰り道である。知らない先輩とか後輩とかにチラチラ見られているような気がするけど、多分俺を見てるんじゃなくて名前(男)を見てるんだろう。
今日の名前(男)はかなりカッコ良かったしな。
「赤也、今日はまっすぐ帰る?」
「んー……、そうだな。今日は帰るよ。」
「そっか。」
「明日の帰りはどっか行かねえ?」
「うん、そうだね。」
んでもって俺は明日、花火マジックにあやかって名前(男)に告白してやる。
結果はぶっちゃけわかんない。名前(男)が俺を好きなのは知ってるけど、俺を受け入れるかどうかってまた別の話だと思う。
「じゃあ、今日はここで。」
「おー、明日も今日と同じ時間に行くな。」
「うん。」
名前(男)のマンションの前で別れた。名前(男)の背中がエレベーターに消えるまで見届けてから家に帰った。
家に帰ってから飯を食べるのもそこそこにすぐ風呂に入って告白のセリフを考える。
好きです?付き合って欲しい?
あーもう何でもいいや。ただ伝えられれば。
「うーあついー……。」
風呂の中で考え過ぎたせいか、少し逆上せたみたいだ。と思って窓を開けて風に当たっていた。
最近夜はだいぶ涼しいよな、と思って窓開けっ放しで寝た。
翌日俺は風邪を引いた。
………え、マジかよ。嘘だろオイ。
END