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「あー!いたいた切原に苗字くん!」
デオドラントスプレーを浴びるように使ってから、一緒に回ることになっている数人にメールをして何とか合流した。
女子数名はチャイナドレスだし、名前(男)もチャイナ服なので俺等の集団は何というか、凄い目立っていた。これも宣伝、と思って耐える。
「どこ行きたい?」
「テニス部!!切原身内割引とかにならないの?」
「ならねーだろ…。じゃテニス部行くか。」
女子の強い希望により最初はテニス部に行くことになった。
もちろんめちゃくちゃ混んでいる。大体が女子生徒だった。
「あ、赤也!来たんだ!」
「どもッスー。」
ガムを膨らませながら(マスクしろマスク!)丸井先輩が肉を焼いていた。
「お前等のクラス評判いいな!つか、ガチだな。可愛いぜぃ!」
名前(男)や女子のカッコをしげしげと見つめる。女子は少し恥ずかしそうにしている。
「とりあえず下さいよー。一人一つ!」
「まいどー!ホラ早く焼けよジャッカル!」
「お前も働け!」
ジャッカル先輩と丸井先輩は基本的にテニス部の方にいるらしい。ジャッカル先輩は慣れた手つきで焼けた肉をパンみたいなのに挟んでいく。
「案外上手いッスねー。」
「案外は余計だ。ホラよ。」
商品を受け取って食べながら歩く。女子達がきゃあきゃあ何か言っていた。大方丸井先輩に可愛いって言われて喜んでいるんだろう。男子はひたすら食べることに集中している。名前(男)もその一人だ。
「名前(男)がそんなに集中して食うのも珍しいな。」
「んー?俺多分ものすごくお腹減ってたんだと思う。」
「……まぁ、重労働だったしな……。」
「コレ美味しいね。」
「だろ?」
皆が食べ終わったあたりでパンフレットを見ながらどこに行くか計画する。こういう時間が青春って感じだよな!
「じゃあお化け屋敷行かねぇ?!」
鮎川が提案する。女子とくっつきたいという下心が透けて見えたのできっと却下されんだろうな、と思っていたら、
「いいね!行こう行こう!」
何故か女子もノリノリだった。何となく、コイツ等の下心も透けて見える。………名前(男)か。
「どうせなら男女ペアに、」
「だったらくじ引こうぜ!」
他の男子が余計なことを言い掛けたのを遮った。
別に名前(男)と組みたいからとかじゃなくて、………いやもう認めていいんだった。名前(男)と組みたいです。名前(男)が他の女子にくっつかれてるのなんて嫌です。
適当にくじを作って引く。2人〜3人で一組になるように作った。名前(男)と一緒になれますように、と思いながら引いた結果、
「……えーっと、俺と名前(男)と、…田辺か。」
名前(男)とは一緒になれたものの女子も一緒になってしまった。田辺はチャイナドレスを着ている女子…つまり美人だ。俺のクラスで一番美人に分類されると思う。何て言うか、大人っぽいのだ。
「何、赤也もいんのー?」
「悪かったな!」
田辺はサバサバしてて割と好きな奴だった。実際名前(男)に会う前は田辺を意識してたこともあった。…男らし過ぎてそういう対象からは外れたけど。
名前(男)は何かニコニコしてた。コイツは割と無口だけど大体いつもニコニコしている。
「じゃ、さっさと行こうぜ。」
3人で並んでお化け屋敷に入った。なかなか暗くて怖い。
怪しい音楽が流れてるし、どこからか風が吹いている。
「…あ、案外本格的だな。」
「あ、赤也、アンタビビってるでしょ。」
「は?田辺のがビビってるじゃねーか。」
「…二人とも声が上擦ってるんだけど。」
名前(男)は至って冷静だった。お前は少しビビれ!!
先頭を無理矢理名前(男)にして背中を押す。
途中で、名前(男)があまりにもビビらないからお化け役の人が不憫になったので田辺を先頭にした。
「赤也情けな!最低!」
「うるせー!!女子なんだから叫べ、………。」
ピタッとほっぺに嫌な感触がした。…こんにゃくとかふざけんな!食べ物無駄にしてんじゃねー!と思って振り向くと血まみれの人が立っていた。
「〜〜〜〜ッ!!」
叫びにならない声が出た。隣にいた名前(男)にギュッとしがみつく。名前(男)は少しそのお化けを観察したあと、小声で言った。
「あ、こんにちは仁王先輩。」
「ぷり」
「は?!」
お化けはよく見ると仁王先輩だった。
「えっ、仁王先輩?!」
田辺が寄ってきた。コイツは仁王先輩ファンか。
「……3人とも早く行くナリ。」
驚いたのが俺だけだったのが不満なのか、仁王先輩は俺等を追い払うような仕草をした。ぽーっとしてる田辺の背中を押して先に進んだ。
名前(男)にしがみついたままの俺を仁王先輩がニヤニヤ眺めていたことも知らずに。
END