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「じゃ、明日の成功を祈ろう!皆ありがと!お疲れさま!」
「お疲れー!」

結局下校時刻ギリギリになった。でも皆、やりきったという満足そうな顔をしている。

「名前(男)、帰ろーぜ。」
「うん。……あ、そういえばさ。」
「どうした?」
「後夜祭の最後って何かあんの?さっきクラスの子に『苗字くんならテニス部の先輩に勝てるかもね』とか言われたんだけど。」
「あー、後夜祭の最後って花火あんだろ?その時間に告白すると想いが実るとかいうジンクスがあるんだ。」

通称花火マジックだか何とか。花火のおかげで誰も彼も3割増しらしい。
バレンタインみたいな、恋する女のコや野郎共にきっかけを与える時間なのだと幸村部長が言ってた。

「…立海って変なトコロマンチックだよね…。」
「あー確かにな。ま、そういう告白は成功率が高いって言うか、ノリに出来ちゃえるからリスクが少ないんじゃね?」
「なるほど。…じゃ俺も赤也に告白しよっかな。」
「…今更だろ。」
「まぁね。」

名前(男)がこのことを知らないのは透子さんと付き合ってたからかな。
さすがに彼女持ちに告白は出来ないだろうし。

「去年は後夜祭出なかったから知らなかったよ。」
「……は?!」
「めんどくさくてさ。」
「……信じられねー、後夜祭マジ面白いぜ。高等部の先輩が色々やったりとかするし。」
「そうなんだ。」

俺もそん時に名前(男)に告白しちゃおうかな、と思ったけど、きっと名前(男)はめちゃくちゃ人気で捕まらないだろうな。俺もレギュラーだし、去年よりはモテるだろう。

「……赤也は去年どうだったの?」
「えー?2人くらいに告白されたけど…どっちも知らない奴だったから断ったよ。」
「…そっか。今年、多分モテると思うよ。」
「はー?嫌味かっつーの。」

名前(男)に言われると嫌味にしか思えない。多分一番人気は幸村部長…か仁王先輩あたりだと思うけど、だいぶ上位に食い込むだろう。(別に誰もカウントしないけどさ。)

「赤也はさぁ、自分で思ってるよりモテるって自覚した方がいいよ。」
「それはこっちのセリフだっつーの。」

学校から駅、駅から家までは一人だと長いけど名前(男)と一緒だと短い。暗くなった道を名前(男)と歩くのは何度もあるけど明日が楽しみだと思うとまた新鮮だった。

名前(男)のマンションの前に着く。……そういえば呼ばれてたな。

「今日は何の用なわけ?」
「ん、ちょっとね。」

名前(男)の部屋に着く。相変わらずガランとした部屋だったけどキッチン周りはずっと生活臭がするようになった。
名前(男)は元々必要以上に物を持たない性格なのかもな、と思って名前(男)の寝室に入るとパンダで溢れていた。

「……………。」

前言撤回。コイツはただ変なだけだ。

「増えたでしょ?」
「……あぁ。」

ベッドにはご丁寧に細長い抱き枕が置いてある。これに抱きついてんのかと思うとちょっと気持ち悪……いや何でもない。

「教室に飾りたいんだけど無くしちゃったら嫌だしどうしようかなって。」
「知るか。まさかお前このために呼び出したんじゃ……。」
「違うよ。ほらこれ見て!」

名前(男)は得意気にフライパンを見せてきた。パンダの絵が書かれている。

「……………は?」
「フライパンダって言うんだって。」

グッチさんプロデュースなんだって。テフロン加工で凄い便利だし軽いし、と延々と話し続ける名前(男)は珍しくテンションが高いみたいだった。普段の無口っぷりが嘘みたいだ。

「…まさかお前このために呼び出したんじゃないだろうな。」
「え、凄いでしょ?」
「………。」

キュン、とした。


……いや嘘だろ。変だろコイツ。何でキュンとしちゃってんだ俺。

「あー、もう、お前バカじゃねーの?」
「酷いなー。嫉妬しなかっただけ褒めてよ。」
「嫉妬?」
「赤也は鮎川のだったんだっけ?」
「…………。」
「わかってるよ、冗談でしょ?」
「当たり前だろ!」
「うん、わかってるよ。でもさぁ。」

腕をグイッと引き寄せられた。名前(男)に強く抱き締められる。

「…すげー妬いた。」
「結局嫉妬してんじゃねーか。」
「仕方ないじゃん。…男にも女にも嫉妬するってめんどくさいな。」
「……まぁ、俺だって妬いたよ。」
「誰に?」
「高崎。お前と仲良かった子が身近にいると思わなかったし。」
「あぁ…。でも話したの久しぶりだよ。」
「何で?」
「んー…、何でだろ。距離が空いたって言うか、お互いそんな話す方じゃないからさ。」
「……高崎って、名前(男)のこと好きなんじゃねーの?」
「それは無い。」
「なっ、何で断言出来るんだよ。わかんないだろ!」
「絶対に無いから大丈夫。」
「はぁ?!」
「絶対に無いから。…って言うか、夕御飯何がいい?」

いきなり話題を変えられた気がしてムッとした。きっぱりし過ぎていて逆に怪しいと思った。

「……何、その目。」
「高崎が名前(男)に興味無いって証拠でもあんのかよ。」
「あるよ。だってクロ彼氏いるもん。俺のもう一人の幼なじみ。」
「え。」
「3人で仲良かったんだけど、そのうち2人が付き合ってるっていう状況。」
「気まず!」
「しかも俺とクロだけ同じ学校。」
「更に気まず!…って言うかお前ドコ住んでたわけ?」
「東京の端っこだよ。」
「彼氏ってどこの中学?」
「ん?普通に公立中学。明後日来るらしいよ。」
「……へー。」
「もっと聞きたい?」
「…あぁ。」
「じゃご飯作りながらね。何がイイ?」
「ん、何でも…。あ、中華鍋の力を見せてくれるって前言ってたよな?」
「あ、それは無理。」
「何でだよ!」
「明日使うから。」
「あ、そっか。」
「って言うかフライパンダ使いたいし。」
「………そうか。」

名前(男)が色々話してくれる。少しだけ名前(男)に詳しくなった気がした。俺も仲良かった奴とか、…あんま話したく無かったけど元カノの話とかした。
泊まっていきたかったけど、明日名前(男)から忙しいので朝一緒に行く約束をして今日は帰ることにした。


End







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