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「おせぇよ!お前等どこ行ってたわけ?」
「………飯。」

何となく背徳感を感じるのはさっきの行為のせいか。


教室に戻ってからはまた別々に作業が始まった。

「なーんかさぁ、赤也と苗字って異常に仲良いよなー。」
「……そうか?」
「苗字って今まで他の人と喋んなかったろ?焚き付けたのは俺等だけど、お前あの日何したわけ?」
「いやー、話してみたらいい奴だったってだけ。」
「ふーん。まぁ確かにけっこう冗談通じるしいい奴だよな。」

俺と一緒に作業してるのはあの日名前(男)と話すきっかけになったトランプゲームをした奴の一人、鮎川だ。あん時は真面目にコイツを呪ったけど今じゃ感謝してる。あれが無きゃ名前(男)と話すことは無かっただろうしな。

「あー!俺があん時ゲームで負けてたら今頃俺が苗字と仲良しだったかもしんねーのに!」
「……は?お前名前(男)と仲良くなりたかったわけ?」
「苗字みたいにイケメンな奴の傍にいたら俺もイケメンになるかもしんねーだろ!」
「多分それは無いから安心しろ。」
「うるせー!実際イケメンになったお前が言うな!」
「……は?」

何だそれ、初耳なんだけど。

「え、お前気付いてねーの?苗字と仲良くなってから、女子の間でお前がカッコ良くなったって噂があんだけど。」
「…いや、俺女子に嫌われたと思ってた。」
「最初はな。でもだんだん、『あの苗字くんと仲良くなれた赤也って凄いんじゃ…』『そういえば心なしかイケメンに見える…!』ってなったらしいぜ。」
「知るか。って言うか名前(男)の隣にいたら比較物がアレなんだから俺までイケメンに見える筈ねーだろ。」
「そんなもんかー?」
「あぁ。つまり俺が元々イケメンだったってことで、」
「冗談きついぜ!」
「黙れ!」
「…つか、そう思われてると思ってたんなら何でお前は苗字と一緒にいるわけ?惨めじゃね?」
「…お前は女子にモテることしか考えてねーことがよくわかった。」

相変わらず清々しいまでのクズだ。でも俺はあんま鮎川を嫌いじゃない。コイツは口では女子がどうこうしか言わねーけど実際は友情を大事にするしな。

「俺あん時さ、お前に悪いことしちゃったなって思ってたんだよ。」
「何だよ急に。」
「いや…、罰ゲームとは言え苗字と仲良くなれとか無茶振りだよなって思ってたわけ。それなのにお前は苗字と仲良くなっちまうし、そんで俺等とつるむこと無くなったし…。」
「何が言いてーの?」
「……何だろうな。ま、たまには俺も構ってよ寂しい!ってことだよ!」
「キモッ!お前ホモかよ!」
「えー赤也クン酷いー。俺というものがありながら苗字に浮気なんかしやがってー!」

急にクネクネしだすコイツについ笑いが込み上げてくる。

「何言ってんだよ鮎川…!俺はお前一筋だ、信じてくれよ…!」
「赤也…!俺嬉しい…!!」

ついノってしまった。うん、端から見たらかなりキモイ会話で、


…………端から見たら…?

いや、今俺等は外で作業中だし、他に人はいないし、誰かに見つかる筈は無い……と思う。

思うよ、確かにそう思う。だから今後ろから感じる突き刺すような視線は俺の罪悪感から来る気のせいのはずだ。きっとそうだ。そうに決まっている。

「お、苗字どーした?」
「HRだから呼びに来た。」
「もうそんな時間かー。行こうぜ赤也。」
「………おう。」

……………。

……………ハハッ、冗談だろ。



冷静に考えろ。あれはノリだ。どう見ても冗談だ。だから名前(男)も何とも思ってないはずだ。別に付き合ってもいないし俺が罪悪感を感じることは何一つ無い、はず。

教室まで戻る最中に名前(男)の様子を伺う。

「二人とも仲良いんだね。」

……ハイアウトー!!名前(男)さん嫉妬してますコレは。もう彼ったら嫉妬深いんだからッ!なんて思う心のゆとりは勿論無い。だって俺は名前(男)が好きで、誤解されたままは困る。でも鮎川が横にいる今誤解を解くのは無理だ。

「だろ?最近苗字と赤也仲良すぎだけど元々赤也は俺のだったんだぜー?」

黙れ魚面…!
おっとつい本音が。ごめん鮎川、マジ黙ってくれ。コレは冗談じゃないんだ。

「ふーん……、じゃ今は俺のってこと?」

……お?もしかして名前(男)も冗談として受け取ってるのか?
鮎川もそうかもなーなんて笑ってるし、俺が慌て過ぎただけだったかもしんねーな。
………良かった………。

教室に着くと担任も全員揃っていて、HRが始まった。一応ここで解散、になるけど実際皆もっと残って作業する。ただの区切りだ。
HRが終われば買い出しとか差し入れとかも自由に行けるようになるし、あと3時間くらいは皆残るだろう。

教室はだいぶ出来上がっていて、けっこう感動した。

「えーっと、明日と明後日のシフトを決めちゃいますね。」

実行委員が黒板代わりの段ボールにシフトの表を書きながら言った。(黒板は邪魔なので布で目隠しされている。)

「この時間とこの時間は書き入れ時なんで苗字くんに入って欲しいんですが…、その……、」

だんだん声が小さくなっていく実行委員がちょっと可愛い。名前(男)も快く了承した。

「他の人は男女比があまり極端にならないように入ってください。1日2時間で。ウェイトレスは特に固まらないように。」

人がいっせいに群がる。俺もさりげなく名前(男)と同じ時間にシフトを組んだ。

「……まぁ、こんなもんかな。」

適当に組んだ割にはけっこう上手く組めたらしく、そのままそのシフトが適用されることになった。飯の前の名前(男)の心配は杞憂に終わったわけだ。

それから担任が皆に差し入れを配ってくれてHRは終了した。


End







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