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食堂はいつもより混んでいたのでテイクアウト出来るのを買って空き教室で食べた。……ココは前名前(男)が透子さんを振った場所だ。
何となくその時のことを思い出してしまった。

「明日は生徒だけで明後日は一般もだろ。シフトって組んであんの?」
「あぁ、皆放課後いったん集まってHRやるからその時に決めるって実行委員の子が言ってたよ。」
「なるほど。名前(男)は人より仕事量多いだろ?」
「うーん、多分。でも他のクラス回れないほどじゃないと思うから大丈夫だよ。」
「そっか。」
「赤也はテニス部は?」
「あー…、売るだけだから2日目に1時間ちょいくらい。こっちは肉だけその場で焼くけどあとはもう作ってあるらしいからな。」
「…多分クラスのシフトは俺と赤也で一緒にはならないと思うんだよね。」
「え、何でだ?」
「一応、俺がいる間は俺がウリになるわけじゃん?で、俺がいない間は赤也が客寄せになると思うんだけど。」
「俺がー?ねーよそれは!」
「んー……どうかなぁ。」
「つーかさ、そんなことより。」
「そんなことって、俺けっこうマジメに、」
「ココ、誰も来ないよな?」

名前(男)がピタッと動きを止めた。俺の言わんとすることを察したらしい。

机を挟んで向かい合って座っているので俺と名前(男)には微妙な距離がある。
名前(男)が手を伸ばしてきて、俺の顔をスッと撫でた。その手に頬擦りをすると名前(男)の手がするりと肩に回った。キスすんのかな、と構えているとやがて名前(男)はゆっくり手を下ろした。

「やっぱ止めた。」
「何でだよー?」
「誰か来たらどうすんの。」
「誰も来ねーよこんなトコ。」
「わかんないよー?」

つまんねー奴。意気地無し。何となく恨めしそうに名前(男)を見ていると、廊下から女のコの笑い声がした。
ビクッとなった俺の口を名前(男)の手が塞ぐ。
よく聞いてみるとその声の主はこっちに向かっているみたいだ。そんで足音は一人じゃない。
何でかここに二人でいることを見られたらまずい気がした。名前(男)の腕を引いて咄嗟にロッカーに入った。二つあるロッカーのうち片方は掃除用具入れだと思うけど、もう片方は空だったので入ることが出来た。

「…別に隠れなくても…。」

名前(男)がヒソヒソ声で言った。確かにそりゃそうだ。男女だったらともかく男二人でここにいたからといって何ということは無い。…でも何となく、

「嫌な予感がすんだよな。」
「ふーん…?」

ロッカーの中は思ったより狭く(そりゃ男二人なら当然か)俺と名前(男)は密着しなければならなくなった。名前(男)の息がかかるくらい近い。

教室のドアが勢い良く空いて男女のカップルが入ってきた。俺はロッカーの隙間から外の様子が伺えたので、何とか外を見れた。

「アハハハ、マジでー?!」

そう笑う声はどこかで聞いた覚えがある。
…あれこの人、

「…透子さん?」

名前(男)が囁いた。確かにアレは透子さんだ。隣の男は見たこともない人だけど。

二人はどう見ても親密そうな雰囲気だったので、もしかしたら付き合っているのかもなと思った。
……っていうか、透子さんって「名前(男)が忘れられないの…!」って言って無かったっけ。何なんだこの人。
……よく見たら男はかなり(もちろん名前(男)には劣るけど)イケメンだった。

「透子さんって面食い?」

名前(男)に小さい声で聞く。

「……多分。」

名前(男)が窮屈そうに身をよじらせながら答えた。…透子さんと男はだんだん距離を狭めていっている。もしかしたらキスとかそれ以上のこととかするかもしれない。
それが終わるまで、俺等がこの体制をキープするのは辛いかもしれない。でも当たり前だけど出られない。さっきの自分の行動を呪った。バカだ俺。

「……あ。」

名前(男)が何かに気付いたように小さく声を上げた。何だよ、と聞き返そうとしたら、名前(男)に後ろから抱きしめられていた。

「この方が楽だね。」

そりゃ確かに距離は近いけども!
思わず叫びそうになった。何だこれ。心臓がやばい。ドキドキが止まらねー。
名前(男)は俺の胸の当たりに手を置いているから、多分心音が激しくなってるのはバレバレだと思う。
クスッと笑う声が聞こえてきた気がした。
名前(男)は胸に当てていた手を下ろし、俺の左手を掴んで自分の左胸に誘導した。
ドッドッドッと早い鼓動を感じた。

……名前(男)も緊張してんだ。

無性に嬉しくなって、こてん、と首を後ろに傾けて名前(男)の肩に預けた。そのまま名前(男)の顔をじっと見ていると名前(男)は俺に唇を重ねてきてくれた。


End







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