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今日は文化祭の前日準備だ。授業とかは全部カットされて一日準備にあてがわれる。テニス部のほうは仕込みは丸井先輩がやってるし、他は屋台の看板製作だけなので手が空いてる人だけで十分らしい。
けっこう装飾とかに凝っているらしいから、俺のクラスの奴は可能な限りクラス準備を手伝っている。俺ももちろんクラス側にまわされた。
内部は窓に細い板を何枚もつけて中国窓みたいにしていたし、(何つーの?線の集合体っていうか格子より複雑な感じの模様つけてた。)机をいくつかくっつけてアジアンっぽい模様のテーブルクロスを敷いたりしている。さすがに天井まで加工するのは無理っぽかったけど蛍光灯から紐を何本も垂らしたり、セロファンを貼ってライトに色をつけたりとかするらしい。
メニューはメニューでなかなか凝っていて、冷凍のを使ったりもするけどけっこう手作りのものを出す予定、らしい。そっちは今味付けとかを考えている最中らしい。(さっきからいい匂いする。)
全部伝聞口調なのは俺が今までほとんど準備に携わってこなかった証拠である。

俺は裏方というか、看板とか大きなものを作る作業を頼まれた。割と体力がいる仕事だから今まで放課後残って作業していた奴等には敬遠されてたけど、今日は部活やってる奴等もクラスのほうを手伝っているから順調に進んでいる。

文化祭ってこんなマジでやるもんなんだな、としみじみ思った。

「赤也ー、」

名前(男)が皿を持ってやってきた。

「ん?どーした。」
「これ、味見してみてくれる?」
「マジで!サンキュー!」

何だ何だと一緒に作業していた奴等が集まってきた。作業も一段落したところだったので皆で休憩に入る。名前(男)が持ってきたのは小さい肉まんみたいな餃子みたいな奴だった。

「何コレ超美味い。」
「小籠包って言うんだ。」

俺が先に食ったのを皮切りに皆が我先にとショーロンポーを食っていく。

「うっめーコレ!超やばい!」

やばいを美味いって意味で使うなバカ。

「誰が作ったんだ?!嫁に来て欲しいんだけど!」

多分名前(男)だ。

「ホントは中にスープ入ってる奴らしいんだけど、さすがにそれは無理だったからさ。」
「…は?まさかお前がこれ…、」

名前(男)の口調から、これを作ったのが名前(男)だと皆が気付いたらしい。まぁ、名前(男)が料理上手なんて誰も知らないよな、俺以外!

「苗字くん凄いんだよ!あたし達が苦労してたのにひょいひょいって作っちゃうんだから!」
「苗字くんって料理得意なんだね!知らなかった!」

女子達がやって来た。女子って何で群れる生き物なんだろう。

男子が名前(男)を尊敬の目で見つめている。女子はそれプラス愛というか、何かもう目がハートになりそうな勢いで見つめている。名前(男)は少し居心地が悪そうにしている。

ふふん、このイケメンは俺の為に料理を会得したんだぜ。とか調子に乗ったことを思った。

「あと何出すわけ?」
「えーっと、杏仁豆腐とマンゴープリンも出すよ。」
「全部手作り?」
「さすがに市販のモト使うけどね。手作りの方が利益大きいし。」

名前(男)ってスゲーと思った瞬間だった。皆感心している。

「じゃあ明日は苗字調理場?!」

男子の一人が驚いたように言った。え、そりゃそうだろ。多分クラスで一番料理上手なのは名前(男)だぞ。

「もったいないだろ!」
「は?」
「クラス…いや多分学年1のイケメンが!何で調理場なんだよ!」
「…いや、」

皆ハッとしている。まさかコイツ等全員名前(男)を客寄せにする気だったんじゃね?いやもったいない理由はわかるけども。確かにもったいないけども。

「確かに勿体無いよね……。ねぇ苗字くんちょっとこれ着てみて!」

親戚の家が貸し衣装屋の女子が名前(男)に何か服を手渡した。

「チャイナ服…?」
「そう!男の人用もあるんだよね!」

そう言った瞬間女子の視線が一気に集まる。わかりやすいなオイ。

まぁ、うん。……俺も着てみて欲しいと思ってる奴の一人だったりする。そりゃ見たいだろ!
名前(男)はチラリと俺を見た。俺が周りにわからないように頷くと、フ、と笑ってから「じゃあ着てみる。」と言った。



「………。」
「…………。」

皆無言だ。名前(男)は気まずそうな顔をしている。

「…あの、何か反応無いとキツイんだけど…、」
「………か、」
「か?」
「カッコイイ!!超カッコイイ!」
「え、これ似合い過ぎじゃないの?!」

女子の黄色い声が飛んだ。男子は何も言わないけど多分皆思ってることはひとつ。

…やっべー、超カッコイイ。

名前(男)が着ているのは男モノのチャイナ服だ。カンフー服と似てるけど上半身の部分が長い感じ。下は長ズボンみたいな…。何て言っていいかわかんねーけど、とにかく似合う。

「うっわ苗字くんカッコイイ!似合うね!」

パッと華やかな声がしたので振り向くとチャイナドレスを纏った数名の女子がいた。我がクラスが誇る美女達だ。身体にピタッと貼り付くドレスが妙に似合う。多分胸はパッドかなんか詰めたんだろうけど、ウエストは引き締まっているしスリットがいい感じなのでつい見てしまう。

「ね、あそこマジでやばくない?!」
「すっご!あれ苗字くんじゃん!明日絶対行こう!」

他クラスの人が廊下を通っていく時にそんな声がした。

「…やっぱり苗字は呼び込みすべきじゃね?」

男子の一人がぽつりと言った。俺もそうするべきだと思う。


END







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