26
「お風呂お先ー。」
名前(男)が風呂から出てきた。ちなみに服は俺のサイズフリーの服を貸したんだけど、微妙に短いような気がする。
「おー、じゃあ俺入ってくるなー。」
でも風呂上がりって色っぽいよなとか思いながら部屋から出る。声上ずってなかったかな。
風呂場はきれいに使われていた。シャンプーの飛び散ったあととかはもちろん無い。
妙に緊張しながら頭を洗った。
「ふひー。名前(男)、注いで来ちゃったけど飲む?」
コーラを渡しながらそう言う。
「あぁうんありがと、……ってどうしたのその頭。」
「…天パは濡れるとストレートになんだよ!!」
「そうなんだ、増えると思ってた。」
「……怒るぞ。」
「え、ゴメン。」
どうせ増えるワカメ…とかそういう発想だろ。うん、殴っていいか。
「何か変な感じするー。」
名前(男)はコーラを机に置くと首にかかってたタオルで俺の頭を拭きはじめた。
近い。つかナチュラルにそんなことすんな恥ずかしい。
「そうそう、このお布団使ってって、赤也のお母さんが出してくれた。」
「おー、…そっか。」
床に敷かれた布団は来客用のふかふかの布団だ。多分俺のベッドより気持ち良く寝られると思う。羽毛だし。
「一緒に寝るからいいですって言いそうになったけどさ。」
当たり前のようにさらっと言われてコーラを吹き出した。
「一緒に寝るのか?!」
「寝ないの?」
「い、いや……、」
普通に変だろ、だって朝母ちゃんが起こしに来るし。
…でもまぁ一緒に寝たくないと言ったら嘘になるわけで、…うん。
「寝る。」
「…うん!」
名前(男)が嬉しそうに笑った。あー、またドキドキしてきた。
新しい歯ブラシをおろして名前(男)に渡して二人で並んで歯磨きをする。変な感じだ。
余談だけど名前(男)の家にも俺の歯ブラシが置いてあったりする。あと服とかちょっとしたお泊まりセットとか。
スポーツマンの歯は命!らしいので俺は副部長達から徹底的に歯磨き指導をされている。おかげで立海に入ってから虫歯が出来たことは一度もない。
「いっふもほもっへはんはへど、」
「ひはきながらはべるな!」
名前(男)が謎の言葉をしゃべり出した。俺の返事も多分謎の言葉だったんだろうけど。
名前(男)は口をゆすいでから再びしゃべり出した。
「いっつも思ってたんだけど、赤也って丁寧に歯磨くよね。」
「ほふか?」
「うん。歯磨いてる時の赤也って可愛い。」
「はぁ?!」
名前(男)がまた謎の言葉をしゃべり出した。…歯磨きが可愛いってどういう発想だよ。
「歯ブラシくわえてるとこが可愛い。」
「………。」
やっぱ変な奴だ。
………俺がコイツのこと好きなのって何でだ。
俺も口をゆすいで、おやすみーとリビングにいた姉ちゃんと母ちゃんに声をかけて部屋に戻った。
「寝る前に何かCDでも聴くか?」
「うん、…あ、これがいい。」
名前(男)が言ってるのは、俺等が仲良くなったきっかけのバンドのCDだった。
「うお、何か懐かしいなー、初めてしゃべった時のこと覚えてる?」
「うん。あの日、5限目の休み時間に女のコ達が血相変えてやってきて、『クラスの男子が苗字くんと仲良くなれとか言う命令を切原にしてたから気をつけて!』って言ってきたんだ。」
「………そうですか。」
「ぶっちゃけショックだったけどね。俺罰ゲームかよ!って思ったし。」
「いやもうホントに悪いとしか言い様が無いんだけど。」
「でも、赤也が前このバンドについて話してたからちょっと興味あったんだ。」
「あぁ、…言ってたなそんなこと。」
「うん。でもやっぱあんまいい気持ちしなかったから最初は俺も無愛想だったしね。」
「やっぱ無愛想だったよな?!話題無くて超気まずかったんだけど!」
「あはは、そう、赤也のその気まずそうな顔見て、コイツ悪い奴じゃないかもって思ったんだ。」
「そうだったのかよ!」
「でもあんなにしゃべれたのは初めてだったな。楽しかったよ。」
「ふーん……。…俺も楽しかったな。ワクワクした。」
「そんで、帰りに寄り道して、夕御飯一緒に食べてー……。友達とそんなんしたの初めてだった。」
「…お前どんだけ孤独な人生歩んできたわけ?」
「そういうの苦手なんだよ。」
「まぁそれで次の日も一緒に帰ってー…ゲーセン行って、あぁ、その後名前(男)ん家行ったよな。」
「あーそうそう。赤也がお茶淹れてくれたよね。」
「あの時のお前お茶も淹れられなかったもんな。それが今じゃ料理まで出来るようになるとか。」
「頑張ったんだって。……その次の日だっけ?食堂行ったの。」
「あー、『仲良くするのやめない?』発言からの告白な。」
「ざっくり言うとそうなんだけどさ…、俺の苦悩はスルーなわけ?」
「だっていきなり言われたわけだし。名前(男)は何が決め手で俺に告白してきたんだよ。」
「んー……元々赤也みたいな人はタイプじゃなかったから、普通に友達になる気でいたんだけどさ。赤也っていっつも楽しそうに笑ってるから、そこが好きになったかな。教室で赤也待ってたとき、一瞬テニスコート見たんだけど、赤也はすっごい楽しそうに笑ってたんだよね。」
「…へぇ…。」
「それで、…何か好きかなぁって思ってたんだ。直接の決め手は『大好き!』発言なんだけど。」
「は?!いつ言ったんだよそんなこと!」
「食堂で、『赤也って肉好きだよね』って言ったら『大好き!』って。そん時にこう…ズキューンっていうか。」
「ズキューンってお前…。」
「ホントにそうなんだって!それで、あーもうヤバイと思って距離置こうとしたんだ。」
「ふーん。」
何だか色々わかって面白い。名前(男)は俺が好みじゃなかったって言うのはショックだったけど。つかどういうのが好みなわけ?
「でもホントにあの時は終わったと思ったよ。せっかく友達…好きな人が出来たのに、絶対避けられるんだろうなって。」
「あー…まぁ普通そうする、かな。」
「そしたらキスしたんだもん、めちゃめちゃびっくりした。」
「いや、アレはだな…、」
「でも、嬉しかった。」
……ッ!
その笑顔は反則じゃありませんか名前(男)くん。
「…寝るか。」
「うん。」
CDを止めてベッドに入る。当たり前のようにギュッと抱きしめられて、腕枕をされた。
「腕しびれるぜ?」
「いーの。じゃ、おやすみ。」
おでこにキスをされる。
電気を消すと名前(男)が唇を触ってきた。
「…何だよ。」
「別にー。」
ツウッとなぞられると何だか背筋がぞわぞわした。
「おい、」
口を開きかけた時に名前(男)の親指が口の中に入った。
舌に触れてくる指。何となく名前(男)の意図がわかって、そのまま舐めた。
「ん…っは、」
「あーかや、そういう声出さない。」
出したくて出してるわけじゃねーし!そう言いたかったけど何となくいい気持ちになってきたから指を舐めるのを続けた。
爪を舌でなぞって、ちゅ、とわざと音を立てて吸うと名前(男)の指が口から離れた。
「煽るねー。」
「んー?」
「何でもない。寝よっか。」
名前(男)が姿勢を直すとそのまま寝る体制に入った。
…俺も寝るか。
END