脳味噌筋肉痛

大学生設定・事後注意



「おはよーさん。」

気だるそうな、少し掠れた声。
隣に寝ていたのは俺が大嫌いな奴でした。


「………………。」

夢であって欲しいと思ったけどこのふかふかのベッドは間違いなく俺のではなく、ついでに言うなら俺の部屋はこんなに広くはない。
つまり、この部屋は、

「どないしたん?朝弱いん?」

この忍足侑士の部屋だと言うことか。


更に更に、問題なのは俺と奴の格好。
奴はパンツ一丁だった。
もしかしたらそうやって寝るのが習慣なのかもしれないと思ったけども、俺に至っては全裸だった。
俺の名誉の為に言っておくが、俺は全裸で寝る習慣は無い。
……つまりは。

「まぁ昨日はアレやったし、な。名前(男)があないに激しいとは思わんかったで。」

…………やってしまったようだ。

俺はいわゆる同性愛者。更に言うならタチだ。バリタチだ。
タチ同士でも絶対ネコになる気は無いくらいバリバリのタチだ。

今までにこういう経験が無かったわけでは無い。
酔うと記憶が飛ぶのでなるべく酔わないようにしていたが、何故こうなった。

昨日の回想を踏まえて考察してみよう。


昨日はバイトだった。バイト先の喫茶店のマスターの奥さんが妊娠したというので他のバイト仲間と一緒にお祝いの飲み会を開いた。

そこに忍足侑士もいた。

俺は忍足侑士が苦手だった。生理的に受け付けない。
彼の持つ、全てを見透かすような雰囲気が苦手だった。
何度かシフトがかぶっていたがなるべく会話をしないようにしていた。
しかしある日唐突に言われたのだ。

「自分、ホモやろ?」

さぁっと背筋が冷たくなって固まった俺に追い討ちをかけるように彼は言った。

「ホンマにおるんやな、そんな奴。」

俺だって好きで男を好きになっているわけじゃない。だからこそその発言にカチンと来た。
忍足侑士が苦手から嫌いに格上げされた瞬間だった。

それからは徹底的に避け続けた。シフトはかぶらないようにしていたが、昨日のような日は仕方ない。
なるべく遠くの席に座ったはずだ。そんで、飲んだ。酔わないように飲んだはずだ。
途中で誰かに酒を勧められた気がする。それを飲んでから、……あれ、どうしたっけ。

「…俺昨日何したわけ。」
「ん?酔いつぶれて介抱した。住所知らへんから家に持って帰ったらいきなり押し倒してきた、っちゅーとこやな。」

ちょっと肩をすくめながら言う彼に目眩がした。
つまり、…俺は嫌いな忍足侑士に欲情したわけだ。
何それ俺最悪。若いにも程がある。男なら誰でもいいのかよ。

「………悪い。」
「ホンマにな。」

嫌味な口調で言われた。イラッときたけど全面的に悪いのは俺なわけで、言い返す言葉も無い。

「ちゅーわけで、これからよろしゅうな。」
「…は?」
「昨日俺のこと好きやって言うたやろ?」
「…マジで?」
「嘘やったん?」
「いや記憶が無いって言うか……、」
「ふーん、ヤれれば誰でも良かったってことか。」
「……………。」

いたたまれない。何で好きだなんて言ったんだと改めて目の前の男を見る。無駄の無い筋肉に整った顔。確かに顔は好みかもしれないけど、…けど…!

って言うか、アレ?

「これからよろしくってどういうことだ?」
「ん?恋人として、っちゅー意味に決まっとるやろアホか自分。」
「はぁ?!だってお前ホモじゃねーだろ?!」
「まぁな。」
「だったら無理すんなって!謝るから!俺バイト辞めるし、お前の前にはもう現れないからお前も忘れてくれよ!」
「…何やそれ。」

一瞬で機嫌が悪くなったらしい忍足侑士は、鋭い目付きで俺を睨んできた。

「俺が、恋人になったるって言うてんねん。日本語理解しとるん?」
「いや、その、忍足クンは嫌じゃないのかなー、とか、ね。ホラ、かなり偏見とかに溢れた世界に足を踏み入れなくても、」
「…俺を心配してるん?」
「え、あ、まぁな。」
「何や、それなら最初から言うてな。全然気にならんわそんなん。」
「…ソウデスカ。」
「一応言うとくけどな…、逃がさへんで。」

…ぎゃふんと言いたい。コイツ怖いよ。
忍足侑士は俺を嫌いというか、気持ち悪いと思ってると思ってた。あの時の軽蔑したような目は忘れられない。

「………寝ていい?」
「構へんで。」

とりあえず現実逃避するために寝ることにした。願わくば、起きたその場所が俺の部屋でありますように、と。


END







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