VS ラブルス
千歳をコートにつれてくると周りの部員が驚いたように俺を見た。
曰く、「千歳を連れてくるなんて何者や」らしい。
…なんでレギュラーがサボるのが当たり前みたく認知されてんねん。テニス部って理解不能や。
気に食わない。
名前(男)がマネージャーになったことが、ではない。
名前(男)が他人とあっさり仲良くなってしまうことが、だ。
俺は名前(男)ともともと知り合いだった。小春が生徒会会計だからその関係で俺は生徒会の人間とは親交がある。
それに名前(男)は人懐こい性格だから、割とすぐ友達になった。
「小春待ってるん?もうちょいやから堪忍な。」
教室で小春を待っていたところ、資料を手にした名前(男)と会った。それがファーストコンタクトだった。
「自分ホンマに小春が好きなんやな。」
ニッと笑われながらそう言われて、人見知りである俺はカチンと来た。馬鹿にされているように感じたからだ。
「…文句あるか。」
俺の第一声はそれだ。もともと良いとは言えない目つきと相まって感じの悪さは最高だったと思う。
「あ、そんなつもりやなかったんやけどな。そんな好きになれるもんがあんの、うらやましいわ。」
口調によっては嫌味に聞こえたであろうその言葉は、名前(男)の口から出たときは嫌味のかけらも無かった。
むしろ、本気でええなぁと言われたようで悪い気はしなかった。
「…おう。小春は世界一やからな。」
「せやな!ほな、一氏がとっとと小春と帰れるようにとっとと会議終わらせてくるわ!」
カラッと笑ってそういわれた。
5分もしないうちに小春がやってきたので、「めっちゃ早かったな」と言うと小春はニコニコしながら言った。
「名前(男)ちゃんがな、愛しのユウジ君が待っとるから早よ終わらせよ!つって早めに切り上げてくれたんよ。」
「名前(男)ちゃんって、」
「副会長のなー。さっきユウくんに会ったって言ってたで。」
「あぁ、アイツか…。」
そこで名前(男)への好感度は限りなく上昇した。なんていいやつなんだ、と。
それからも彼と話すことはちょこちょこあった。そのたびに、コイツはいい奴だと新たに塗り替えられていった。
もともと俺はどうやら女に興味が無いタチの人間だからすぐに自覚した。
俺は名前(男)が好きや、と。…もちろん小春の次に。
だから白石と千歳がおそらく名前(男)に興味を持っている現状は好ましくない。
さらに、俺の勘では謙也と財前も名前(男)を好きになる。
そんなことあってたまるか、と思ったが俺の勘はよく当たるのだ。
名前(男)ちゃんがマネージャーになったのは成り行きだけど、アタシは割と嬉しかった。
名前(男)ちゃんは周りに元気を与える能力がある。それがあまり仕事が出来るとはいえない彼が生徒会に選ばれた理由だろう。そういう理由からか、名前(男)ちゃんは女にも男にもモテた。さすがに男で名前(男)ちゃんに告白した猛者はいないようだが。
彼が元気にしているところを見るとこっちも元気が出る。そんな人物はなかなかいるもんではない。
「…何やアイツ。」
ただ、そう思わない人物もいるようだった。それがアタシの相方のユウくんだった。
蔵リンと千歳クンと、二人はすっかり名前(男)ちゃんの魅力にやられたようで、練習の合間に名前(男)ちゃんをじっと見つめている。これはすっかり恋ね、なんて思っているとユウくんがつまらなそうな声を上げた。
「あら、名前(男)ちゃんのこと?」
「せや。…アイツ、今日入ったばっかなのにめっちゃ馴染んどるやん。」
気に食わない、とでも言いたげだ。
ユウくんはああ見えて案外人見知りなのだ。その分一度彼の懐に入った人間には絶対の信頼を置く。…たとえばアタシとか。
対する名前(男)ちゃんは対人スキルが非常に高い。
「でも名前(男)ちゃんはいい子よぉ、ユウくんアタシが生徒会のときたまに話してたじゃない。」
「別に名前(男)が気に食わないわけやなくて、名前(男)が他の人間とあっさりしゃべってることがむかつ…、」
そこまで言いかけて彼はハッとしたように口を噤んだ。
…だって、今のって明らかに、
「やきもち、かしら?」
「ちゃ、ちゃうで小春!これは浮気とかやなくて!その、名前(男)のくせに蔵とかと仲良くなってんじゃねーよ的なアレで、」
あわあわと言葉を続ける彼は明らかに名前(男)ちゃんを気にしている。
ユウくんも名前(男)ちゃんが好きだったみたいだわ、とアタシは彼のモテ具合に改めて驚いた。
ユウくんに気付かれないようにクス、と笑った。
誰が名前(男)ちゃんの心を射止めるか、楽しみやわ。
END