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何度か名前(男)がため息を吐いた。多分名前(男)は俺に触ってしまったことをひどく後悔しているんだろう。
うん、そりゃ俺も名前(男)以外とこんなことになったらショックだろうな。多分寝込む。
でも名前(男)だったら別にいいっていうか、その、何だ。
……超気持ち良かった。
だからそんなため息ばっか吐かれると凹むっていうかさぁ。
別に合意なんだからいいじゃんって思うんだけど。つかお前普段割と強引なくせに何で今はがっくりしてんの。
と、言いたいことはいくつかあったけど頭の中で考えただけだった。
「……。」
「名前(男)?お前そんな凹むなよ。別に俺全然気にしてねーし。」
「赤也は何でそんな普通でいられんの。」
「いや……名前(男)が凹み過ぎだと思うけど…。」
「赤也、もしかして他の人とそういう経験あるの?」
「は?!ねーよ!気持ち悪いな!」
「…気持ち悪い?」
「あ、いや、別に名前(男)となら思わねーけど、他の奴とこんなことするとか気持ち悪い。」
「…ふーん。」
名前(男)の機嫌が良くなってきた。お、これはいい傾向だ。
「俺と、ならいいんだ?」
「んー……まぁ、な。」
「何で?」
「何でって、そりゃ名前(男)だからだろ。お前が気持ち良さそうな顔してんの見るの気分良かったし。」
「そっか。」
俺は名前(男)に抱きしめられたままの体制で、その抱きしめる力が更に強くなった。
「苦しいんだけど。」
「んー、でももうちょいくっつきたい。」
「ハイ、ハイ。」
ふぅ、と名前(男)が息を吐いた。でもこれはため息ではない。
首筋に息が当たるとくすぐったいんだよな、と思った。
少し動いて、こっちが名前(男)の首筋に顔をうずめる体制になる。名前(男)のほうが背が高いのだから、この体制のほうがずっと楽だ。
名前(男)が唾を飲み込んだ。ちょうど首が嚥下するところが見える。なんだか色っぽい。
「…んじゃ、そろそろ俺帰るね。」
「泊まってかねーの?」
「いきなりは迷惑でしょ。それに、何か我慢できなさそうだし。」
「…あっそ。」
名前(男)が立ち上がって制服の上着を着始めた。
俺の部屋から出て母親と姉貴に挨拶している。
俺も部屋から出ると玄関まで見送りに行った。
「じゃあ、また明日。」
名前(男)がそういった。
「おう。じゃな。」
俺はそう言うつもりだった。のに。
「…やっぱ帰るな。」
名前(男)の制服の裾を掴んで引き止めている俺がいた。
「風呂は階段降りて右なー。」
「うんわかった。」
結局俺が強引に引き止めて、名前(男)は俺の家に泊まることになった。
だって名前(男)、機嫌良くなったとは言え絶対後悔してるだろ。
家に帰らせたら名前(男)は一人でずっと後悔したままぐるぐるすることになるんだろう。
それが嫌だったから泊めただけだ。別に他意はない。
一人で自分の部屋のベッドに横になると、さっきの情景が浮かんできた。
心臓のドクドク言う音が聞こえてきた気がする。
…俺、やっぱり名前(男)のことが好きかもしれねー。
俺とだけ仲良いのが嬉しかったのも、他の奴と仲良くしてるのが嫌なのも、一緒にいたいって思ったのも、キスしても嫌じゃねーのも、全部名前(男)が好きだからだろう。
名前(男)にはよく考えろって言われたけど、どう考えても俺は名前(男)が好きだ。それもたぶんすっげー好きだ。
心臓の音がさらに大きくなった。痛いくらいだけどそれが気持ちいい。
自分の心臓のあたりをぎゅっと掴んだ。
「名前(男)が好き。」
小さく声に出してみると、やっぱしっくりくる。
認めたくないけど認めるべきなんだろう。
…でも名前(男)にそれを告げるのは、もう少し待とうと思った。
今、このタイミングで言ったらたださっきの行為が気持ちよかったから好きになったみたいだからだ。
…まぁそれもあるっちゃあるんだけど。
名前(男)のどこが好きか、もっとちゃんと言えるようになってから言いたい。
そんならしくないことを思った。
END