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おもしろくねー。

名前(男)が透子さんを振ってから数日。海原祭の準備が本格化してきた。

放課後は部活が無い人が残って作業をしているらしく、名前(男)も駆り出されていた。

俺は部活があるから準備は手伝えない。名前(男)は一人になるかと思ったけど、ここぞとばかりに女のコや男共に囲まれていた。
名前(男)と仲良くなりたい人は男女問わずいたらしくて、皆フレンドリーに話しかけてきてくれる、と名前(男)は喜んでいた。
さらに、部活が終わる時間と準備が終わる時間は一緒くらいなので待っててもらわなくても名前(男)と一緒に帰れるという利点がある。

……それなのに、何でか俺はおもしろくなかった。

文化祭で一番楽しいのは準備、と言われてるけどホントにそうだと思う。コレを機に名前(男)と親しくなろうと思っている人は多い。

普段の学校生活でも名前(男)に話しかける人が増えた。
一昨日は数人で昼メシを一緒に食った。
昨日は俺の部活が終わるのを名前(男)と他の数人が待っていて、夕飯を皆で食べに行った。

名前(男)が待ってるから早くしなきゃと急いで教室に向かってみりゃ男女数人と楽しそうに話す名前(男)がいたのだ。あの時のむかつきはなかなかのものだった。

「あ、赤也。」

パッと顔を上げてニコッと俺に笑いかけてくる名前(男)の笑顔を見てムショーにイライラした。


いや、さ、名前(男)が友達と溶け込めるのはいいことじゃん?
アイツいい奴なんだし。
でも俺が名前(男)の一番じゃん?なんで他の奴とヘラヘラしゃべってるわけ?
…いややっぱ今のナシな。これじゃただのやきもちだ。

たぶん、ホラ、アレだ。
俺にだけめちゃめちゃ懐いてる(と思ってた)野良猫が俺以外のやつの前でゴロにゃんしてたらちょっとむかつくじゃん。そんなんだよ。



「赤也最近何かあった?」

今は帰り道だ。今日は駅まで皆で一緒に帰ってきた。
同じ駅を使っているのは俺と名前(男)だけだったから、電車から降りると必然的に二人きりになる。
名前(男)にそう聞かれて、イライラが頂点に達した。今なら赤目になれる。

「別に。」
「だって最近ずっと機嫌悪いし、今もこっち見ないし。」
「何もねーよ疲れてんだよ。」
「でも、」
「うるっせーよ!お前にはオトモダチがたくさんできたんだから俺のことなんかどうでもいいじゃねーかよ!この浮気者!」

…ん?
俺今なんて言った?

「…赤也、今、」
「い、いや今のやっぱナシ!」
「……やきもち?」
「違えよ!」
「だって今浮気者って、」
「言ってない!」
「うわぁ、嬉しいかも。」

ぱぁっと明るくなる名前(男)のイケメンオーラに一瞬言葉が出なくなる。何コイツ。

「俺は赤也一筋だから安心していーよ?」
「調子乗んな!」
「赤也超好き。」
「うるせーよもう!」

なんかコイツ開き直ったよな!ホントに!
…こんなんでちょっと安心しちゃう俺も相当だけどさ。

「夕飯食べてく?」
「…あー…、どうすっかな…。」

名前(男)のマンションの前で少し止まる。最近外食多すぎって母親に言われてんだよな確か。

「今日は家で、」

と言いかけると名前(男)が悲しそうな顔をした。犬かお前は!

あぁ、そういえば前姉貴が「名前(男)君はもう来ないの?」って言ってた気がする。どうせならこうしよう。

「お前も俺ん家で食わね?」
「え、でも悪いし、」
「いや大丈夫だろ、ちょっと電話するから待って。」

何か言いたげな名前(男)を遮って親に電話する。ちょうど今日父親が急な飲み会が入って夕飯余るから助かると言われてタイミングの良さに思わずガッツポーズしたくなった。

「ただいまー!」
「おじゃましまーす。」

家に帰ると夕飯のいい匂いがした。こりゃ肉だな。
靴を脱いでリビングに向かおうとすると名前(男)が俺の分の靴まで揃えているのが目に入った。…こういうとこがきっと俺の家族にも気に入られるポイントだろう。

夕飯はハンバーグだった。…心なしかいつもより品数が多い。姉貴もなぜかキッチンに立っている。あいつ料理なんか普段しねーくせに何やってるんだよ。

「おかえりなさーい、名前(男)くんいらっしゃーい!」
「名前(男)くんが来るって聞いたから張り切っちゃったー。」

そういえば母親も姉貴も面食いだった。

「すいません、気を遣わせてしまって。」

申し訳なさそうに会釈する名前(男)はどっから見ても育ちが良い人に見える。

「いいのよ全然!ホラ早く手洗ってきてご飯にしましょ。」
「そうそう。赤也何やってんの早くしなさいよ。」

こいつ等…!と思わずにはいられなかったけども。
名前(男)が俺のことを一人の男として好きだなんて知ったらどういう反応するんだろうな。


END







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