神様なんかより



名前(男)はどうやら俺のことが大好きらしい。

小さい頃の俺は名前(男)を実の兄のように慕っていた。女兄弟しかいない自分にとって一番話がしやすかったし、親に言えないようなことでも名前(男)になら言えた。

名前(男)は面倒見が良いので大きくなった今でも俺が落ち込むと駆け付けて励ましてくれるんだと思っていたが、どうやら名前(男)はずっと俺が好きだったらしい。
よく考えてみればそれはそうだ。いくら面倒見が良くてもたかが同性の幼なじみの為に普通そこまでしない。

名前(男)がずっと俺を好きだったのだと悟った瞬間に名前(男)が無性にいとおしくなった。
彼女が出来た、と喜ぶ俺に良かったなと言ってくれた名前(男)は心の中ではどんなことを考えていたのだろうか。
振られたと嘆く俺にどんな気持ちで励ましの言葉をくれたのか。
名前(男)が今まで俺に与えてくれていた愛を、返さなければと思ったのだ。

名前(男)は恥ずかしがり屋だから、俺が何か言っても流したり否定したりするけど俺はきちんとわかっている。名前(男)は俺が大好きだ。

「名前(男)、眠いんか?」
「んー……、眠く、ない………。」
「何で強がるねん。眠かったら寝てええで。」

今日は名前(男)の家に泊まる日だ。名前(男)のお父さんとお母さんにたいそう気に入られている俺は何の疑問も持たれず泊まりを許可された。
……余談だが、俺の家族がやたらと名前(男)を気に入っているのが最近苛立たしい。友香里なんか本気で名前(男)が好きだと思う。

名前(男)の部屋で二人でTVを見ていたら、眠くなってきたらしい名前(男)が俺の肩に寄りかかってきた。

うっわ何やめっちゃ近い名前(男)の呼吸音すんのえろいヤバイわこの状態

とか思わなかったわけではないが何とか平常心を保った。

名前(男)をベッドに運ぶと(もう歯磨きは済ませたっちゅー話や)俺も一緒に中に入る。
名前(男)のベッドは当たり前だが名前(男)の匂いがして最高に落ち着く。
名前(男)が高校を卒業するまで「そういった」行為はしないと約束したものの、この空間は俺の理性を奪おうとしてくる。

何とか我慢して電気を消そうとした瞬間、名前(男)の携帯が鳴った。

……恋人の携帯。それは付き合う上で一番見てはいけないものだ。お互いの信頼が崩れるし、俺が喜ぶような情報は一切無いだろうから。俺は名前(男)が俺の携帯を見たいといえば喜んで差し出すが、名前(男)は見られたいとは思わないだろう。

……それでも。
この魅惑のアイテムを見たいと思ってしまう。

どうやら着信の方らしく、携帯はしばらく鳴りっぱなしだ。

……電話に出るだけ、や。

自分に言い訳をして電話を取った。

画面に表示されていたのは真知子の名前だった。

は?!何で真知子が名前(男)に電話してくんねん!!

「もしもし?」
「あ、名前(男)く……自分誰や?」
「残念やな名前(男)やなくて。」
「蔵か?」
「当たり。」
「何で蔵が名前(男)くんの電話に出んねん。」
「そっちこそ何で真知子が名前(男)に電話かけてんねん。」
「担任からの連絡や。」
「伝言なら伝えとくで?」
「ほんなら明日の数学が英語に変わりました言うといて。」
「ん、了解や。」
「……ちゅーか、名前(男)くんはどこやねん。」
「あぁ、今隣で寝てるわ。疲れさせてしもたんかなぁ?」

わざとらしく笑いながら言う。……嘘は言ってない。

「は?!」
「せやから、名前(男)は隣で、」
「もうええわ聞きたないわそんなん!!」

ブッと電話が切れた。勝った気分や。

そのまま名前(男)の携帯をいじる。悪いことをしている自覚はあるが、彼氏の携帯をチェックする彼女のような気分だ。断じて疑っているわけでは無い。

「……あ、俺専用のフォルダがある。」

早速嬉しい発見だ。メールの受信箱に「白石」というフォルダを見つけた。

「俺どんなメール送ったんやったっけ…。」

何気なく開いて見ると一件保護されたメールがあった。その内容は、………。


パタンと携帯を閉じて枕元に置いた。…アカン、めっちゃ嬉しいわ。

「おやすみ、名前(男)。」

部屋の電気を消して、名前(男)に軽くキスをしてから俺も眠りについた。



『名前(男)、めっちゃ好きやで!』

そんなメールを保護しているなんて、俺はなんて溺愛されているんだろうか。


END







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