ずるいおとこ
跡部景吾/男主ダーク
※は読みましたか?
俺には彼女がいた。
彼女は今朝、俺を振った。
曰く、『アンタといるの耐えられない。』
俺は彼女を愛していた。
彼女は我が儘だったが、彼女の望みは出来る限り叶えたし、
浮気をしても責めなかった。
彼女が傍にいてくれれば良かった。
それなのに、何故。
『アンタなんかより、跡部様の方が素敵なのよ。』
『アンタなんか、彼の足元にも及ばないわ。』
『何でわたしの恋人は、彼じゃないのかしら。』
彼女は跡部景吾が好きなのだろう。
ならば、尚更、彼女は俺を手放すべきではなかったのだ。
『ねぇ、わたし、彼に抱かれたわ。』
『彼はとっても逞しかった。アンタと違って。』
『彼に好きだって言われたの。わたしも好きよって言ったら彼は笑ってくれたわ。』
彼女は幸せそうにそう言うので、俺も笑って、良かったねと言ったのだ。
跡部の笑いにどんな意味が込められていたか知っていたのだろうか。俺と別れても、跡部が彼女と付き合う事は決して無いとわかっているのだろうか。
『お前の彼女、抱いたんだ。』
『ちょっと口説いたら、簡単に足開いたぜあの女。』
『怒らねぇの?お前の想いもその程度だったって事だよ。』
彼が至極楽しそうに言うので、俺も笑って、良かったねと言ったのだ。
俺が彼のものにはならないということを彼はいつ知るのだろう。
『なぁ、早く、俺のものになれよ。』
『お前の隣にいていいのは俺だけだ。あんな安い女じゃ駄目だ。』
『いつ気付く?お前には俺しかいねぇんだよ。』
跡部景吾は俺の幼馴染だ。
彼の周りはいつも華やかだったが、彼はいつも孤独だった。
彼は寂しかった。
俺は彼を憐れんだ。
何て孤独な奴なんだと、ひたすら彼に尽くしたかった。
彼の寂しさを和らげたかったのだ。
結果、彼は、俺に依存した。
俺の全てを縛ろうとする。
お前には、俺しかいないと言う。
俺は彼から逃げたくて、彼女に逃げたのだ。
彼女は我が儘だった。
彼女は傲慢だった。
彼女は俺を愛さなかった。
跡部に愛されるのが怖かった俺は、俺を決して愛さない彼女を愛していた。
なぁ、跡部。
俺を愛さないで。
俺じゃ駄目なんだよ。
彼女は俺と別れたと、跡部に告げるだろう。
彼女は跡部の恋人になろうとするだろう。
跡部は笑って、彼女を捨てるだろう。
『お前を捨てた奴に、価値なんかねーんだよ。』
彼はそう言っていた。
跡部は彼女に暴言を吐くだろう。
全てわかっていても、俺にはどうすることも出来ないのだ。
跡部が俺に依存する限り、跡部は俺を支配しようとするのだから。
『いい加減、気づいてくれ。俺は、お前が―――。』
跡部の気持ちを黙殺して、俺は新しい恋人を探すのだ。
だって、俺は、ずるいおとこ。
End
→おろかなおんな