一人より二人より
「たのもー!!」
勢いよくテニス部部室のドアが開かれた。開いたのは苗字名前(男)。四天宝寺中学の生徒会副会長である。
「アラ名前(男)ちゃん、どないしたん?」
一瞬の静寂の後、すぐに反応したのは金色小春。同じく生徒会で会計担当をしているので二人は顔馴染みだった。
「どうしたもこうしたもあるか!何でテニス部の予算だけ他の部の倍近くあんねん!」
「実績から考慮したら当然やろ。」
さらっと返事をしたのは白石蔵ノ介。テニス部部長を務める彼は冷静な態度を崩さなかった。
「確かに実績は他の部に比べたら偉大かもしれん。でもな、会計報告で大半が『おやつ代』っちゅーんはいただけないと思うで。」
「部員のモチベーション維持のためや。」
「とにかく、テニス部の部費は削減する!コレは会長と話し合って決めた結果や!」
「ちょっとちょっと、会計のアタシを差し置いて勝手なことせんで欲しいわぁ。」
「じゃかあしい!自分はテニス部やねんから部費削減に反対するに決まってるやろ!」
「まぁまぁ苗字、何でまた急にそんなことになったん?今まで文句も何も言わんかったのに。」
「昨日テニス部の打ったボールが俺の頭直撃したんや!絶対許されへん!」
「私怨かい!!」
忍足謙也の的確なツッコミも何のその、名前(男)の怒りは相当なものだった。
白石は暫く考えを巡らせた後、こう言った。
「うちの部員が迷惑かけてスマンな、せやけど部費はゆずれへん。やから、苗字、ウチのマネージャーやらん?」
「何でやねん!意味わからんわ!」
「まあ聞けや。苗字はテニス部の部費が無駄やと思っとるんやろ?せやけど俺等は無駄やないと思っとる。このままじゃ一向にわかりあえる日なんて来ないわ。苗字にテニス部についてよく知ってもらうためにも、ここは苗字がマネージャーをやるんが一番ええと思うんやけど。」
よくもまぁこんなべらべらべらべらしゃべれるな、と話を聞いていた部員の大半が思った。
「んー………?」
名前(男)は意味を反芻している。…頭はあまり良くないようだ。
「つまり、名前(男)ちゃんがマネージャーやるっちゅー話やで。ホラこれにハンコ押して。」
「?」
よくわからないまま入部届けにハンコを押してしまった名前(男)。彼は将来絶対詐欺にひっかかる人間だろう。
「ほな、名前(男)。今日からよろしくな。」
ニッコリといつの間にか名前で呼びつつ、白石は宣言した。
「………何でやねーん!!!」
こうして四天宝寺中テニス部に新たなマネージャーが誕生した。
END