キミがいるから



名前(男)の家って下手すると自分ん家より居心地いいかも、と思う。
名前(男)は料理上手いし何だかんだで優しいし。普段家にいても姉貴にパシリにされたり親に怒られてばっかだから余計にそう感じる。

「名前(男)ーめしー。」
「今作ってるから。早く食べたいなら手伝って。」
「あー………。」

部活帰りに名前(男)の家に行った。今日は苗字家に泊まるつもりだ。
部活はいつも通りハードだったので疲れてる俺は動きたくねー、とだらんとソファに横たわったままだった。こういう時、家だったら怒られるけど名前(男)は怒らないで苦笑いするだけだ。むしろ最初からこうなることがわかってるような反応をする。

「ん、出来た。食卓で食べる?ソファで食べる?」
「持ってきてー………。」
「ハイハイ。」

名前(男)の家には食卓ももちろんあるんだけど、動きたくないのでこっちまで持ってきてもらった。

「ホラ赤也起きて。」
「うー……。」

名前(男)が皿を持ってこっちまで来た。でも動くのがだるい俺はまだ寝っぱなしでいた。

「しょーがないなぁ。」

名前(男)はそう呟くと俺に覆い被さってきた。

「…ちょっと待て、何してんだお前。」
「んー?」

手首を押さえられる。…多分、俺の方が筋肉ついてるから本気になればふりほどけるんだろうけど、されるがままでいた。

「…白雪姫。」
「……アホか!!」

ちゅーして起こすっていうやつか?!ベタ過ぎだろ!って言うか名前(男)の思考がキモイよ!

「何言ってんだおま、…………。」
「……………。」
「……………。」

結局キスされた。くそう。
名前(男)は相変わらず安心のキス魔っぷりだった。

「んじゃ、食べますか。」
「……………おう。」

今日の夕飯はステーキ丼。肉は安いやつらしいけどタレがめっちゃ旨かった。…ニンニクが効いてたからしばらくキスしたくねーけど。

「多分赤也このまま寝ちゃうと思うから先にお風呂入ったら?」
「おーそうする。」

風呂を沸かしてもらって、タオルを渡された。至れり尽くせりってやつ?いやぁいい気分!

足をだーっと伸ばして入れる名前(男)ん家の風呂は俺のお気に入りだ。入浴剤も好きなのを使えと言われたから檜の香りをチョイスした。あー超気持ちいい。

「風呂お先ー、」

リビングに入って名前(男)に声をかけた。反応が無い。

「名前(男)ー?」

名前(男)は顔をテーブルに伏せていた。
…寝てんのか?

起こした方がいいかなと思って見ていると、名前(男)はひどくうなされだした。

「嫌だ……やめて!」

苦しそうに言う名前(男)を慌てて起こそうとして、幸村部長が言ってたことを思い出した。

『うなされてる相手は起こしちゃいけないんだよ、その夢にとりつかれるからね。』

でもこんな苦しそうにしている奴を起こさないなんてそれもひどい気がした。

「名前(男)、」

手をギュッと握ってやると名前(男)は目を覚ました。

「……赤也?」
「大丈夫か?」

顔を上げた名前(男)はボロボロ泣いていた。

「夢、見たんだ。父さんと母さんの、」

前に少し言ってた。母親が別の男と浮気して、現場を見て女が怖くなったこと。
丸井先輩に聞いた、父親と上手くいってないこと。

「二人はずっと言い争いしてて、俺は暗い部屋でずっと一人でいた。」
「朝起きたら誰もいなくて、部屋が凄く広くて怖かった。」
「父さんも母さんも浮気してたんだ。お互いがお互いを責めてた。」

名前(男)が人とあまり関わろうとしないワケって、これなんだろうな。一人にされるのが怖い。だから最初から一人でいようとしてるんだ。

「名前(男)、」

どうすればいいかわかんなくて、とりあえず、抱きしめてみた。
名前(男)は俺の胸にすがり付くように抱き返してきた。


どれくらいそうしていたのか。名前(男)が小さく動いた。

「………何か恥ずかしくなってきたんだけど。」
「…ドンマイ。」
「最悪…。」

そろそろと俺から離れると、頭を抱えてうわーとかうあーとか言ってる。

「お前って寂しがり屋なのな。」
「忘れてください。」
「無理。」

何でかわかんねーけど、無性にコイツが愛しかった。

「よしよし、俺がいますからねー。」
「赤也!」

コイツの寂しさを埋めてやるためなら、もう少しそばにいてやってもいいかなと思った。

名前(男)とどうなるのか、とかはまだわかんねー。でもコイツがいつか他の人のそばにいることを望む日までは、俺がいてやってもいいと思った。


END


連載でどの辺りに位置する話なのかによって意味が変わってきますが、好きに想像しちゃってください。


リクエストありがとうございました!






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