欲しいのは○○
忍足侑士/女主/logページの設定引き継ぎ/詳しくはこちら
今日は忍足先輩の誕生日らしい。うん、めんどくさい。
わたしのモットーはてきとーあばうと。かわいくない性格なのは自分が一番よくわかってる。
ちなみに、何でそんな奴がマネージャーなんつーボランティア事業をやってるかというと、テニスをやってる彼等が純粋に好きだからなのだ。……誰にも言ったことは無いけど。
まぁそれはこの際どうでもいい。
数日前からわたしの悩みはひとつ。
秋の誕生日無双(わたし命名)の一つ、忍足先輩の誕生日だ。
向日先輩には納豆ストラップ(文句言ってたけどラケットバックにつけてくれてる)、
宍戸先輩には何か家にあった粗品(中身はタオルだった、先輩にとってタオルは消耗品だからぴったりだ)、
跡部部長には駄菓子とカップ麺(よくわからないけどたいそう喜ばれた)をあげた。
滝先輩には似合いそうなイタリア製のボールペンをあげるつもりだ。
しかし忍足先輩には何をあげたらいいか全くわからない。
向日先輩や本人からの情報によるとラブロマンスものの映画が好きらしいけど、多分わたしが見たことあるようなやつは忍足先輩なら全て見てしまっているだろうから、DVDをあげたとしても気まずいことになりそうだ。(何だかんだでその場では喜んでくれると思うけど。)
他に先輩が喜びそうなものって言ったって、好きな食べ物にはこだわりを持ってるから下手なものあげられないし、欲しいものは?って聞いてもヒミツと答えられたし。
それで頭を悩ませてるというわけだ。普段忍足先輩の為に脳味噌なんて使わないからすぐ頭が痛くなる。脳味噌も筋肉痛になるのかな。
「何や自分、最近元気あらへんな。せっかく跡部の誕生日無事に終わったばっかなんに。何か悩みでもあるん?」
何も知らない忍足先輩が呑気に話しかけてきた。アンタのせいだっつーの。
「別にー……。」
「相変わらず可愛げないなぁ、ホラ、せっかく先輩が相談乗ったるって言ってんのやから、素直に吐き出してみぃや。」
「…じゃあ言いますけど、先輩って誕生日何が欲しいですか。」
「え?」
何でそこで固まるかなアンタ。
「……俺のことで悩んどったん?」
「…まぁ。先輩の喜びそうなものとかわかんないですし。」
「ハハ、そう思ってくれるだけで十分やで?ありがとうな。」
珍しく含みの無い笑顔だった。正直先輩の顔だけは好みだから、いいな、と少しだけ思う。
……この人は、普段変態のくせにたまに凄くカッコイイと思う。そう思ってしまうのがとても悔しいんだけど。
「何が欲しいですか?」
「……んー、何って言われてもなぁ、急には思いつかへんわ。」
「何か思い付いたら教えてくださいね。」
「ハイハイ。」
そう言って人当たりの良さそうな顔で笑ってたのが3日前。
今日は忍足先輩の誕生日なのだけど、先輩はいっこうに欲しいものを教えてくれない。
「侑士ー!誕生日おめでとー!!」
「おおきにがっくん!」
向日先輩がさっきプレゼントを渡していた。中身はリストバンドで、そうだテニス用品にしとけば良かったと思ったけど後の祭り。部員やファンの人からのプレゼントはほとんどテニス用品だった。
「ホラよ、忍足。」
「おー、俺の好きなメーカーのグリップテープやん、おおきにー。」
「お誕生日おめでとうございますっ、こ、これどうぞ…!」
「テニスボールか、ボールは消耗品やからありがたいわー!嬢ちゃんおおきに。」
そんな場面を見てしまったのでわたしのプレゼントはさらに選択肢が狭まった。しかももう部活が終わる時間だ。今から買いに行っても遅いだろう。(関係ないけどボールをプレゼントしてくれた子はなかなか気が利くと思った。)
「どーしたの、マネージャーちゃん。」
部室でうんうん言っているとジローさんがいつの間にか近くにいた。
「何か怖ーい顔してたC。」
「え、スイマセン。」
「忍足が女のコからプレゼントもらってるの気になるの?」
「何でですか?」
「……。」
「あ、そうだ。ジロー先輩は忍足先輩に何あげましたか?」
「んー?俺は肩たたき券!」
「母の日か!」
「でも喜んでたよー?」
まぁ忍足先輩って肩こりひどそうだしな。
なんて失礼なことを考えていたらジロー先輩は「大事なのは気持ちだC!」と言って帰ってしまった。
気付いたら部室に残っていたのはわたしだけになっていた。忍足先輩はもう帰ったのだろうか。結局おめでとうも言えなかった。
「帰るん?」
部室から出ようとしたら忍足先輩が来た。残って自主練をしていたらしい。
「あ、はい。お疲れ様です。」
「…なぁ、ちょっと待っててくれへん?どうせなら一緒に帰ろうや。」
「いいですよ。」
忍足先輩と二人で歩くなんて初めてかもしれない。一応先輩の中では一番可愛がってくれてるとは思うんだけど。
「あんな、」
「?」
「マネージャーに言われて欲しいもんずっと考えててんけど、」
「はい。」
「あ、ゲーセンや。プリクラ撮らん?」
「は?」
話の途中なんですけど!とかツッコミたかったけど何か言う前にゲーセンに引っ張られた。
そのままプリ機の中に連れ込まれて200円徴収された。
《カレカノモード!素敵な恋人同士の写真が撮れるよ!》
先輩は迷いなく機械を操作していく。
「あの、先輩…?」
「笑って。」
よくわからないまま二人でプリクラを撮っていく。最後の一枚になった時に先輩はいきなり腰に腕を回してきた。
「ちょっ、忍足せんぱ、」
「動くな。」
ぐいっと先輩の胸板に顔を押し付けられる。端からは抱きしめられてるように見えるだろう。
《撮影終了!ピンクの落書きコーナーに移動してね!》
撮影が終了した。
「何がしたかったんですかアンタは。」
「…二人で撮った写真が欲しかったんや。」
並んでプリクラに落書きをしながら話す。
「はぁ?」
「せやから、マネージャーと二人で写っとる写真が欲しいねん。」
「…何で。」
「わからん。」
落書きを終わらせて印刷されたプリクラを半分にする。げ、最後の奴、思いっきり抱き合ってるようにしか見えない。
「うん、ええ感じやん。」
「何がですか。」
「マネージャーもこうして見ると案外美人やな。」
「黙ってもらえます?」
ゲーセンから出て再び歩き出す。先輩は満足げにプリクラを眺めている。
「誕生日プレゼント、これでええよ。」
「こんなんでいいんですか。」
「あぁ。…何や、こうやって帰り道に内緒で二人でプリクラ撮るとかめっちゃロマンチックやん。」
「………?」
映画か何かのシーンを再現したのだろうか。まぁ200円で済むなら安上がりだ。
「先輩、」
「何や?」
「お誕生日おめでとうございます。」
「ありがとう、な。」
先輩はわたしの頭を撫でた。
いつもならキモイ触んなくらい言うのに、何故か今日はそんな気になれなかった。
「ほなら、また明日。」
「はい。」
何で忍足先輩の誕生日プレゼントをこんな必死で考えてたのか(喜んで欲しかった、とか)、
何で他の先輩へのプレゼントは決まったのに先輩へのだけ決まらなかったのか(他の人と被りたくなかった、とか)、
何で今日のわたしはいつもの毒舌が出なかったのか(今日だけは特別だから、とか)、
ついさっきまで考えもしなかった疑問がいくつも浮かんできた。
………それでも、明日からはまたいつも通りに戻るんだろう。
その考えがわたしをひどく安心させた。
「……何やろ、マネージャーがめっちゃ可愛く見えたわ。とうとう視力落ちたかもしれへん…。」
END
忍足誕夢。
あとがき忍足Happy Birthday!!