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それからの話し合いもさくさくと進んでいた。何もわからなくてもめにもめた去年とは大違いだ。
…そういえば去年の今頃って名前(男)のこと知らなかったんだよな。そう考えると何か人生っておもしれぇ。
昼休みに食堂で名前(男)と飯を食いながら思った。
「あー眠いー。」
「赤也いっつも眠そうじゃん。」
「いーんだよ三大欲求の一つなんだから。」
「…三大欲求って何と何と何だか知ってる?」
「食欲と睡眠欲とー…何だ?自己顕示欲?」
「違う、……何でちょっと難しくしたの。」
「え、マジ?じゃあ何なの。」
「………知りたい?」
「ああ。」
名前(男)はチラッと周りに視線を遣ると、小さい声で言った。
「性欲。」
「…………………。」
……何か凄く恥ずかしいんですけど。
「……海原祭さ、」
「ん?」
「テニス部も何かやるんだっけ?」
「あーやるやる。何やるかはまだわかんねーけど確かそんな話出てたな。」
「そっかー……。」
「どうした急に。」
「当日どうしよっかなって思って。」
「あー……。」
名前(男)が「当日誰もまわる相手いないんだよね」とか言ったら1年〜3年まで、いや高校生ですら立候補すると思うんだけど。
名前(男)がまわりたいって思うかは別として。
「去年はどうした?」
「去年の今頃は透子さんと付き合ってたから。」
「あぁ………。」
「名前(男)!!」
「え?」
綺麗な人が話しかけてきたかと思うと、名前(男)の顔がみるみる歪んだ。
この人ってまさか。
「………透子さん。」
「名前(男)、久しぶり。ちょっと話したいことがあるんだけど、今大丈夫?」
「別に俺には無いよ。」
「冷たいこと言わないでよ。ね、少しだけ。」
噂の透子さんだ。後ろには友達らしき人もいる。
名前(男)の態度が凄く冷たい。…別れる時どんだけもめたんだ。
「じゃあここで言えば?」
「……話だけでも聞いてよ。」
周りの視線が集まっているのに気付いた。美男美女カップルは人目を引くからな。
しかもこの話だけ聞くと、ヨリを戻そうとしている透子さんと冷たくあしらう名前(男)っていうすげえ気になる感じだし。
俺も他人だったら超気になってたと思う。今も気になるけど!色んな意味で!
「話くらい聞いてやれば?」
「赤也?!」
この好奇の目から逃れるためにはとりあえず場所を変えるしかない。名前(男)に後でひどく怒られそうだけど、変な噂立てられるよりマシだろう。
「えーっと、透子サン?も、ここだと話づらいでしょ?」
名前(男)が黙って食器を片付けに行った。…俺の分も。
透子さんは後ろの友達と目配せしている。
「……で、どこに行くの?」
帰ってきた名前(男)と透子さんと友達を連れて使われていない選択教室に入った。ここなら勝手に鍵をかけることが出来るので女のコを連れ込むには最適だと仁王先輩が話していたからだ。
あまり掃除もされてないらしくて埃っぽかったけど仕方ない。
「じゃあごゆっくり……、ぐえっ?!」
俺はいない方がいいと思って教室から出ようとしたら名前(男)に首の後ろを捕まれた。
「いいよ長話する気は無いから。赤也もここにいて。」
「い、いやでも…、」
「いいよ切原くんもいて。アタシだって友達連れてんだから。」
透子さんにも言われたので俺も居座ることにした。
「で、何ですか?」
「ごめんなさい!アタシやっと気付いたの、やっぱ名前(男)がいなきゃダメだって…。」
「それだけ?」
「え、」
「だから、言いたいことはそれだけ?」
「その、またアタシと付き合って欲しい、…です。」
「無理でしょ、どう考えても。俺今好きな人いるから。」
「え…?誰?!」
「透子さんに言う必要無いよね?それじゃ。」
……取りつく島もないとはこのことだと思った。
「赤也行こ。」
名前(男)が俺を引っ張って出ていこうとした。ドアから出ようとして振り返ると泣いているらしい透子サンと慰めている友達が目に入った。
何故か罪悪感を感じた。それと共に微妙に喜びも感じた。
END