17
名前(男)がいつも図書室にいるのは知ってたけど、行くのは初めてだ。……つーか図書室自体殆ど行かねーし。
柳生先輩とか柳先輩もいるかなと思ったけどいなかった。無駄に広い図書室を探しまわっていたら、隅の机でひたすら本を読む名前(男)を見つけた。
「名前(男)ー。」
小さめの声で呼ぶ。
「赤也?どーしたの?」
「ちょっと話したいことがあんだけど、いいか?」
「…うん。」
名前(男)の顔が少し強ばった。…いや、んな緊張すんなよ。
図書室から出て、廊下を歩きながら話す。
「で、話って…?」
「ん?あー、友達が今日M女学院の女のコ達と合コンするらしいけど名前(男)に来て欲しいんだってさ。来る?」
「へ…?」
名前(男)が呆けたように俺を見てくる。え、何その反応。
「…話って、それ?」
「あぁ。」
「…………赤也のバカ。」
「あぁ?!何だよお前!」
「俺はすっごく悩んだのに。」
「…………。」
コイツの言わんとすることは何となくわかる。昨日の夜の話かと思ったんだろう。
「だって、お前がよく考えろって言うから。」
「……そうだね。」
「で、合コン来るの?」
「行くと思う?」
「まぁお前は行かないだろーな。」
「…ちょっと待って。赤也は行くの?」
「おー多分な。付き合いもあるし。」
「部活あるんじゃないの?」
「部活終わってから行く。」
「そこまでして行きたいの?」
「いやそういうわけじゃねーけどさ。」
「じゃあ何で?彼女欲しいの?」
「……いや別に。」
彼女欲しくないって言ったら嘘になるけど、名前(男)にそれを言ったらめんどくさくなりそうだから黙ってた。
それに俺だってたまには華やかな女のコ達とパーッと遊びたくなるんだ。
「…ふーん。」
名前(男)がジト目でこっちを見てきた。
…何だよその顔。言っとくけど別にお前と俺は付き合ってるわけでも何でもねーただの友達なんだからな!
「じゃあ俺も行く。」
「は?!」
「俺に来て欲しいんでしょ?」
「いやそうだけど……、え?!」
「だったら行く。」
………超展開だ。
「でも赤也と一緒に行きたいから部活終わるまで待ってていい?」
「お、おう……。」
どうしたコイツ急に。そう思うと同時に、合コンでコイツがどれだけモテるのかすぐ想像出来てしまって複雑になった。
「……無理すんなよ?」
「別に。」
そのまま名前(男)が教室に向かうので慌てて追いかけた。
教室に入ると期待半分諦め半分と言った目で俺を見てくる奴等がいた。
「どうだった?!」
「いやー苗字は無理だろ。」
「確かに、赤也の表情でわかるわー。別にそんな落胆しなくても、立海テニス部2年エースのお前がいれば、」
「……行くってさ。」
「やっぱりかー。まぁ仕方ね………ってええええ?!」
オーバーなリアクションを取るな。
「嘘だろ?!」
「でも俺の部活が終わってから俺と行くって。」
「いやそんなんを聞いてんじゃなくてだな、名前(男)は合コンに来るわけ?」
「らしい。」
天地がひっくり返ったような驚きようだ。まぁ俺もすげー驚いてるわけだが。
「つか、だったらお前何でそんな嫌そうな顔してるんだよ。」
「は?」
「ミスM女だぜ?もっと喜べよ!」
……確かにここは喜ぶところのはずで、間違っても名前(男)が女のコに囲まれてる様子を想像して悲しくなるところではないと思う。
それなのに、何でか俺の心は晴れなかった。
放課後の部活は俺が大嫌いな基礎練習で、いつもなら早く終われって思うのに何故か今日は終わって欲しくなかった。
「浮かない顔じゃの。」
仁王先輩が面白そうな顔をして近づいてくる。
「…何スか?」
「何かあったなら言ってみんしゃい。」
「別に…。つかあっても先輩には言いたくないッス。」
「冷たいのう……、せっかくの合コンが台無しになるぜよ?」
「?!」
「何で知っとるんじゃ、っちゅー顔じゃの。」
「………。」
「ミスM女の子が楽しそうにメールして来たんよ。苗字のこと好きみたいじゃからの。せいぜい、食われんようにしてやれ。」
「先輩、ミスM女と知り合いなんスか。」
「おう。あの子は面食いじゃからのー。どっからか俺のメアド嗅ぎ付けてメール送って来たんじゃ。」
「…へぇ。」
「まぁ顔はかわええしスタイルも良いみたいじゃけん、騙される男も多いと思うがの。あの子、相当な肉食系じゃ。」
「…………。」
「苗字は見るからに草食系、食われて泣き寝入りするようなことが無いようにな。」
「ッス…。」
名前(男)が草食系って全然違うっての。アイツはあれで案外肉食系…、ロールキャベツってやつだ。
それを言ったら何で俺がそんなこと知ってるんだって話になるから黙ってたけど。
………ますます合コンに行きたく無くなってきた。名前(男)、すっぽかして帰っててくんねーかなぁ。
名前(男)がそんなことするはずないと思いながらもそう思わずにはいられなかった。
END