天使じゃなくても
跡部景吾/女主
自慢じゃないが、俺様はモテる。
学校ではトップだと自負しついる。まぁ当然だ。
今まで女に不自由した事はない。
これからも、不自由するつもりは無い。
ただ、同じクラスの苗字名前(女)が、少し気になるだけだ。
他の女は話しかけただけでキャーキャー喜ぶか、顔を紅潮させるか。
なのにあいつはいつも無表情だ。
無口無表情無愛想。
そのくせ、周りからは一目置かれている存在。
俺様になびかない女―――だから、だから気になるだけだ。
「おい苗字。」
「何?俺様何様跡部様。」
「今日部活見に来るよな?」
非常に苛つく発言は俺様の寛大な心で聞き流して用件のみ伝える。
いつもこうして誘ってやっているというのに、苗字はコートを覗きすらしねぇ。(宍戸に激ダサだな跡部と言われ沈めた事は記憶に新しい。)
俺様が、この俺様が直々に誘ってやっているんだ。
顔を出すくらいマナーじゃねぇのかよ。
「なん?名前(女)ちゃん見に来るん?せやったら俺今日気張ったるで!」
「「うるせぇ出てくるな変態エセ関西人が。」」
「…ずいぶんと息が合っとるようで羨ましいわ。」
唯一の救いは、苗字は男に対しては大体無愛想でいる事。
……救い?何言ってるんだ俺は。
忍足が苗字を名前で呼んでいるのにも苛ついた。
「で、来るのか?」
「今日はドラマの再放送があるから帰ります。」
「てめぇそれ昨日も言ってたじゃねぇかよ。」
「再放送だから毎日やってるに決まってんじゃん。」
「録画せんの?その方がCMとばせてええやん。」
「録画したまま溜まりそうだから嫌。」
「…俺様のテニスより、ドラマの方が上だってのか?あぁ?」
「跡部それチンピラのセリフやで。」
「るせぇよ。お前はさっさと部活行け。」
「いやドラマの方が大事だから、帰りますって言ったんだけど…。」
……本当に生意気な奴だ。
誰にもなびかない凛とした魅力があるし、
たまに女友達に見せる柔らかい笑顔が大好きだし、
声を聞いてても心地いいし、
……って何誉めてるんだ俺は。
これじゃあアイツの事が好きみたいじゃねぇか。
「跡部?何百面相してんの?」
「…は?」
「最初は眉間に皺寄せてたけど急ににやにやしだすし、そしたらすぐにがっくりした顔になるし。」
「べ、つにいいじゃねぇか。」
「誰も悪いとは言ってないよ、じゃあさようなら。」
「ちょ、おい、待てよ!」
「待てと言われて待つ奴はいない。」
そう言うと苗字は帰っていった。
……今日も逃げられた。
「何や跡部、また名前(女)ちゃんに逃げられたん?」
「うるせぇよ。」
と言うか苗字を下の名前で呼んでんじゃねぇ。
そのセリフが喉まで出てきて、慌てて押し込めた。
「苗字が来ねぇと眉間の皺が取れねーんだな、激ダサだぜ。」
「宍戸にバカにされたら終いやで。」
「黙れ忍足。」
何で俺が、あんな女を気にかけなきゃいけねーんだ。
バカみてぇじゃねーか。
イライラとモヤモヤを抱えたまま、ジャージに着替えていると部室のドアが勢い良く開かれた。
入ってきたのはジローと苗字。
「は?何でお前がココに…。」
「私だって来たくて来たわけじゃないから。校門から出ようとしたらコレがいきなり…!」
「コレって、名前(女)ちゃん酷いC。俺、名前(女)ちゃん連れてきたんだよ!ね、偉くない?」
よくやったジロー!と言いそうになった。
……わかったから、苗字から手を放せ。いつまで掴んでんだ。
「おー、良かったじゃねーか跡部。」
「名前(女)ちゃん、部活見に来るやろ?」
「…バス逃したからドラマの再放送間に合わないし。今日最終回だったのに…!」
恨みがましくジローを睨めつける苗字。
「まぁいいじゃねぇかドラマなんか。俺様の美技に酔わせてやるよ。」
「一人で酔ってろ。」
「………ブッ」
小さく吹き出すんじゃねぇ。忍足。(後でスマッシュの的にしてやる。)
今日の部活は試合形式。ちょうどいい。
「跡部の奴、いつもより気合い入ってんな。」
「そりゃ、名前(女)ちゃんが居るからやろ。」
うるせー外野共。その通りだよ。
こんなところでしか、苗字にいいところ見せられねぇんだよ。
…カッコ悪い…。
苗字のことだから絶対途中で帰ると思っていたが、部活が終わってもまだアイツはコートの周りに立っていた。
「苗字、どうせだから送ってやろうか?」
「……うん。」
苗字が珍しく素直だった。何だ、らしくねぇ。
車を帰らせて徒歩で並んで歩いた。別に苗字と歩きたいわけじゃない。気紛れだ。
「…跡部、カッコ良かった。」
「ハッ、当然だな。」
「そういう時は素直にありがとうって言うもんだよ。」
「あーん?」
「正直、美技とか何だそれって思ってたけど、カッコ良いね。」
「お、ま、…調子狂うじゃねぇかよ。」
内心、心臓が飛び出るかと思った。
何だこの走り込んだ後みたいな鐘の打ち方。
「で、何だ?お前もとうとう俺様に惚れたか?」
「ん?どーだろ。」
「お前がどうしてもって言うなら付き合ってやらない事も、ねぇけど。」
…違うだろ俺!
こんな事が言いたいんじゃないんだ、俺は、ただ、
……ただ、何だ。
「何言ってるの?付き合って欲しいのは自分の癖に。」
……は。
「最初はからかわれてるだけだと思ったけどさ、跡部、私の事好きでしょ?」
何言ってるんだコイツ。
俺様がお前みたいな可愛いげの無い女を好きになるか、調子乗るな。
そう言おうとしたのに。
「跡部が素直に私の事好きだって言ったら付き合ってあげてもいいよ?」
「………………好きだ。」
バカか俺は。
「うん、私も好き。」
「…!」
どうやら俺は、ずいぶん前からこの可愛くない女が好きだったらしい。
だって、こんなにも嬉しいのだから。
End「本当はけっこう前から好きだったんだよ、跡部の事。」
「は?じゃあもっと早く…、」
「でも私が冷たくする度にしゅんってなる跡部が可愛くてさぁ。」
「………。」